SAP PP(SAP Production Planning)モジュールとは? 「ECC」と「S/4HANA」の違いを徹底解説
本記事ではSAP Production Planning(SAP PP)の主な機能やメリットを基本から解説する。また、ERP Central Component(SAP ECC)とSAP S/4HANAのSAP PPはどのように異なるのかについても紹介する。
「SAP Production Planning」(SAP PP)は、「ERP Central Component」(SAP ECC)のコンポーネントであり、企業が商品の製造や販売、流通を計画するのに役立つ。製造業のサプライチェーンにおいて重要な役割を果たし、生産計画や実行、管理のための数多くの機能を提供している。
果たして、SAP ECCとSAP S/4HANAのSAP PPはどのように異なるのだろうか。
SAP PPの主な機能やメリット
まずはSAP PPの基礎的な情報を整理しよう。
生産計画と実行は、あらゆる製造業務において重要な活動だが、これらの活動は複雑になる場合がある。SAP PPは、製造業を営む企業が生産プロセスを最適化して管理し、目標を達成できるよう支援する。
SAP PPは、次のようなさまざまな機能や特徴を備えており、製造業者の生産プロセスの効率化に役立つ。
- 需要計画と予測
- キャパシティー計画
- 資材要件計画(MRP)
- 販売および運用計画(S&OP)
- 生産指示(作成および管理)
- 現場管理
レポーティングと分析をするこれらのツールにより、製造業者は生産計画と管理に関連する重要業績評価指標(KPI)を監視できる。また、生産コストを追跡し、生産のばらつきを分析し、これらの分析から得られた洞察を活用して意思決定を改善できる。
資材要件計画
SAP PPは、現在の在庫レベルや生産スケジュール、リードタイムに関する情報を提供する。これらのデータを活用して在庫管理とスケジューリングを最適化し、生産活動を管理してタイムリーな生産を維持できるようになる。
需要計画
SAP PPは、高度な統計モデルを用いて大量の履歴データを分析し、将来の需要予測を作成する。これにより、マネジャーや意思決定者は、需要に応じた計画を実行できるようになる。例えば、在庫レベルを最適化し、品切れまたは廃棄を避けるための措置を講じられる。
キャパシティー計画
製造業者は現在の生産能力を分析し、リソースを大幅に追加したり、既存のリソースに過度の負担をかけたりすることなく、生産能力を改善できるかどうかを評価できる。リソースの活用を最適化することで生産効率を改善し、作業負荷のバランスをとり、遅延や苦情につながる可能性のある望ましくない要因を除去できる。
生産計画
SAP PPは、特定の製品を製造するための正確な指示や手順、スケジュールの保持に役立つ。これによって作業者は製品を仕様通りに正確に製造できる。また、エラーや欠陥を最小限に抑え、製品の品質と一貫性を維持することにもつながる。さらにSAP PPは各注文の進捗(しんちょく)状況を追跡するため、管理者は最終製品が指定された仕様に合致するよう、迅速かつ早期に調整を実施できる。
SAP PPの利点
生産のさまざまな側面に関するリアルタイムの情報を得ることにより、マネジャーやその他の担当者は、キャパシティー計画やMRP、生産注文の確認、在庫管理、需要予測などのプロセスを効率化できる。また、需要やキャパシティーが変化した場合や、サプライチェーンに混乱が生じた場合にも、生産計画を迅速に調整し、生産スケジュールを維持できる。
また、生産管理者は改善点を見つけ、それを解消するための対策を講じることも可能だ。例えば、材料の不足や設備のダウンタイムの事例を見つけられるようになる。さらに、需要に対する生産スケジュールの遅延や、生産目標を達成するために必要なキャパシティーと利用可能なキャパシティーの間の不一致を発見できる。
SAP PPは在庫管理の最適化もサポートする。管理者はMRPと需要計画に関するプロセスを導入し、在庫切れを最小限に抑え、廃棄をなくし、コストを最適化できる。これにより、生産が中断することなく継続され、顧客からのクレームの可能性を最小限に抑え、顧客満足度を向上させられる。
エンドツーエンドの生産サイクルについて深い洞察と可視性が得られるため、意思決定者はより多くの情報に基づく意思決定をして組織や顧客に利益をもたらすことが可能だ。
最終的に、SAP PPは製造業者の品質目標の達成も支援する。データやレポート、洞察を活用して高品質の目標を設定し、それを達成できるようになる。これによって高品質の製品のみが市場に出回る状態が保証される。
SAPの他のモジュールとの統合
SAP PPは、「Materials Management」や「Sales and Distribution」「Plant Maintenance」「Quality Management」「Finance and Controlling」「Human Capital Management」を含む他のECCのコンポーネントとシームレスに統合可能だ。この統合により製品ライフサイクル全体を一望できる。
このような可視性は、製品ライフサイクルを管理し、望ましくない差異を最小限に抑えるために重要だ。また、製造業者はさまざまな生産活動を管理および最適化し、望ましい結果を達成するためにより包括的なアプローチを実施できる。
SAP PPのマスターデータ
SAP PPでは、全ての作業が中央のマスターデータテーブルに保存され、そのマスターデータを基に計画や実行がされる。SAP PPで管理されるマスターデータには以下の5種類がある。
- 資材マスター: 組織によって調達や生産、保管、販売される資材に関する情報を含み、資材要件計画や購買決定の指針、在庫管理における商品発行または受領の更新、請求書の確認、販売注文の履行、生産の確認に使用される
- ワークセンター: 生産機械または機械グループに関する情報を含んでおり、特にキャパシティーやスケジューリング、コストに関するデータが記載されている
- 部品表(BOM): BOMは、製品の生産または組み立てに必要なさまざまなコンポーネントの名称と数量に関する構造化されたリストであり、資材要件計画や製品コスト計算に使用される
- ルーティング: ワークセンターで実行される作業の順序と、それらの作業の実行に要した時間を列挙する
- 生産バージョン: BOMとルーティングデータをリンクし、生産プロセスをサポートする
SAP PPでは全ての生産マスターデータはプラントレベルで作成される。計画活動もプラントレベルで実行される。ただし、生産確認プロセスはプラントレベルまたは保管場所レベルで実行可能だ。生産確認プロセスを利用できるようになれば、商品の移動もプラントレベルまたは保管場所レベルで管理可能だ。これらの特徴はSAP PPモジュールが想定する組織構造を表すものでもある。
SAP生産計画を使用できるのは誰か
SAP PPは、さまざまな業界の要件に対応するよう構成可能であり、個別受注生産や繰り返し生産、プロセス生産といった特定の製造タイプをサポートする多くのモジュールを備えている。
個別製造では、製品の生産数量がロットごとに異なるため、コストは注文またはロットごとに計算する。反復製造では、製品に長期間変更がないため、生産はロット単位ではなく総量で計算する。
プロセス製造では、マスターレシピに記述されたプロセスを使用し、バッチ単位で製造する。マスターレシピは、バッチごとに調整可能だ。この方式は、主に化学や製薬、食品、飲料業界で利用されている。
S/4HANAにおけるSAP生産計画
S/4HANAは、インメモリデータベース「SAP HANA」を基盤とするSAPのERPソリューションだ。このERPは、ビジネスプロセスの合理化を目指したインテリジェントな自動化機能を提供する。また、AIや機械学習、分析といった高度なテクノロジーを統合し、ビジネス上の意思決定を支援する。
S/4HANAのSAP PPには、生産計画と最適化のための新機能が追加されている。例えば、材料カバレッジの監視機能があり、生産管理者が材料不足を把握して対応するための支援機能を提供する。この機能は、従来のECC(6.0)ではサポートされていない。さらに、S/4HANAで利用可能な新機能には以下が含まれる。
- 材料の範囲管理
- 外部要件(販売注文など)の監視と管理
- 内部要件の監視と管理
- 変更要求の管理
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