「ノウハウが蓄積されない」「コストが割高」 IT系BPOサービスに対する不満にベンダーが答える:中小企業のためのアウトソーシング活用術【第2回】
キッティングからヘルプデスクまで、IT系BPOサービスを活用している企業はどんな効果を得ているのか。また、「ノウハウが蓄積されない」「コストが割高」など、企業が抱える不安や不満に対してサービスベンダーはどのように考えているのか。
中小企業のためのアウトソーシング活用術
情報システム部門の業務量は年々増加し、次々と新しい課題が生まれる一方で、人員は限られたままだ。そんな状況を打開する一つの選択肢として注目されている「アウトソーシング」の活用術を紹介する。
多くの企業に認知されながら、なかなか利用率が高まらないIT系BPO(ビジネス・プロセス・アウトソーシング)サービス。前回は、IT系BPOサービスの認知度と利用率のギャップ、そして中小企業の情報システム部門が直面している課題について考察した。
今回は実際に導入している企業の声を基に、「どのような効果が得られているのか」「導入を成功させるためのポイント」について詳しく見ていく。記事の後半では、IT系BPOサービスに対して企業が抱える不安や不満に対して、サービスベンダーが考えを述べる。
IT系BPOサービスが実際に利用されている業務は?
キーマンズネットが実施した「ITアウトソーシングサービスの利用状況に関する調査」(実施期間:2024年5月8日〜22日、回答件数:219件)によると、IT系BPOサービスの利用企業が最も外部委託している業務は「PCなどの端末調達やソフトウェアのインストールや配布を含むキッティング業務」(55.7%)だった。
「キッティング業務の範囲や方法は、企業によって異なります。最小限の初期設定のみをして、詳細な設定は利用者に任せるケースもあれば、業務に必要な全ての環境を完全に整えて引き渡すケースもあります。また『基本的なソフトウェアをインストールし、設定マニュアルを添えてユーザーに配布する』というシンプルな対応で済ませる企業も少なくありません」と、PSソリューションズの三菅淳平氏(事業開発部 マーケティングマネージャー)は実態を明かす。
近年のキッティング作業は一見効率化が進んでいるように見える。PCの処理速度が向上し、ソフトウェアもインターネット経由での導入が主流となったからだ。しかし実際は、セキュリティ設定やクラウドサービスとの連携など新たな設定項目が増加し、むしろ専門的な知識と時間を要する作業となっている。
「業務に使うPCを用意するのですから、従業員に渡してすぐに使える状態にしなければなりません。キッティングは、従業員の生産性を支える重要な業務であり、確実に実施することでセキュリティの強化にもつながります。しかし、そのプロセスには手間と時間がかかることも事実。そこでキッティングをアウトソースすることで、より効率的かつ確実に業務を遂行しつつ、自社のリソースを他の重要業務に集中させられるようになります」(三菅氏)
外部委託している業務としてキッティングに次いで多いのが「PCやITサービスに関する問い合わせ対応などのヘルプデスク業務」(38.6%)だ。企業内で使用するデバイスやサービスの増加に伴って、ヘルプデスクの必要性は高まっている。デバイスの故障対応はもちろん、SaaSなど各種サービスの使い方に関する問い合わせも増えているのが現状だ。
特に最近は、ハイブリッドワークの浸透に伴って、ネットワーク環境を見直す企業が増えている。このため、「ネットワークの運用・管理」(28.4%)や「ネットワーク構築」(23.9%)をアウトソースする需要も高まっている。
また「PCなどの端末やライセンスなどのIT資産管理」(21.6%)も上位に入る。「IDやアクセス制御などの運用・管理」(11.4%)については、SaaSライセンスの増加に伴うコスト管理の必要性や、テレワークのセキュリティ対策として注目度が増していると考えられる。
意外と知られていないIT系BPO事業者
当該調査結果では、IT系BPOサービス事業者の認知度についても興味深い実態が見えてきた。「大塚商会」(13.6%)、「日立システムズ」(11.4%)、「アクセンチュア」(8.0%)といった大手企業が上位に並ぶ一方で、最も多かったのは「把握していない」(45.5%)という回答だった。
上位に大手企業が並ぶ背景には、システムの販売・導入をしている会社が、そのまま運用保守のアウトソーシングを受託しているケースが多いためだと考えられる。
また、アクセンチュアや野村総合研究所といった企業も上位に入っている。これらの企業は、DXの戦略立案から実行支援まで、大企業向けの包括的なサービスを提供しているのが特徴で中小企業とは縁が薄いかもしれない。
一方で、中小企業向けのサービスを提供している事業者は、このランキングには登場していない。つまり、IT系BPOサービス自体は広く認知されているものの、実際に中小企業が利用できる個別のサービスについては、まだまだ認知度が低いのが現状だ。
人手不足解消だけじゃない。IT系BPO活用で得られる意外なメリット
同調査では、IT系BPOサービスを利用するメリットとして、「不足するIT人材が補填できる」(55.7%)がトップに挙がった。さらに「自社従業員をコア業務に集中させられる」(34.1%)、「従業員の時間外労働時間が削減できる」(26.1%)、「一時的に必要なIT人材を獲得できる」(25.0%)と続く。
いずれも、情報システム部門の人材不足への対応策として評価されているようだ。三菅氏も顧客との対話から、「人材を補充したいけれど、なかなか採用できない」という声をよく聞くという。ただし、人材不足の状況は企業によって温度差がある。
「経営層が情報システム部門の人員確保の重要性を認識している企業では、積極的な採用活動をしながら、それでも苦戦している状況が見て取れます。一方で、経営者が『現状の人員で対応できている』と考える企業では、情報システム担当者の採用活動をしていないケースも少なくありません」(三菅氏)
IT系BPOサービスの活用で得られるメリットは、人材不足への対応だけではない。意外と注目されていないメリットとして、セキュリティの強化が挙げられる。
具体的には、アカウント管理やアクセス権限の設定を専門家が一元管理することで不適切な権限付与やアカウントの放置を防止できる点や、セキュリティパッチの適用やソフトウェアのアップデートを確実に実施できる点、さらにはセキュリティインシデント発生時の専門家による迅速な対応が可能になる点などが挙げられる。
これらは企業にとって一種の保険のような役割を果たす。セキュリティインシデントは起きない可能性もある一方で、いったん発生すれば企業の存続を揺るがすような大きな損失につながりかねないからだ。
また「業務の拡大・縮小に応じて柔軟に業務委託できる」という点も考慮すべきメリットの一つだ。特に中小企業では業務量の変動が大きく、従業員の増減に伴って情報システム部門の業務量も変化する。さらに、突発的な大規模作業が発生することもある。
その典型的な例が、2025年10月に予定されている「Windows 10」のサポート終了への対応だ。サポート終了後もWindows 10を使い続ければ、セキュリティリスクは大幅に高まる。特に個人情報を多く扱う企業では対応が必要になる。
このような突発的な事象に対応するために、人材を採用するのは現実的ではない。IT系BPOサービスなら、必要な時期に必要な分だけリソースを確保し、業務量の増加に対応できる。
IT系BPOサービス導入企業ではどんな効果が上がっている?
IT系BPOサービスを導入した企業では、具体的にどのような効果が上がっているのか。PSソリューションズの「IT with」を導入した情報通信業のA社(従業員数約230人)の事例を紹介しよう。同社では、PCのキッティングやアカウント管理業務の外部委託により、大きな効果を上げている。
従来、PC一台当たりのキッティング作業に30分から1時間かかっていた。特に月末や月初めには十台以上のキッティング作業が集中することも多く、担当者の大きな負担となっていた。IT系BPOサービスを利用することで、その作業が大幅に効率化され、キッティング作業の時間は半分以下に圧縮できたという。
同社の特徴的な点は、従業員だけでなく業務委託パートナーに対してもPCを貸与していることだ。情報セキュリティ意識の高い企業ではよくある対応だが、必然的にキッティング作業の量は増えることになる。
さらに、「Salesforce」「Slack」「Box」など、複数のビジネスツールのアカウント管理も課題となっていた。個々の作業自体は短時間でも、複数のアカウント作成が重なると大きな工数となり、しかも特定の担当者に作業が集中する傾向にあった。外部委託後は、この属人化の解消にもつながっている。
これらの業務を外部委託したことで、A社の情報システム部門は本来注力すべき業務に時間を振り向けられるようになった。現在使用しているツールの新機能活用の提案や、営業・開発部署からの依頼への迅速な対応など、会社全体の業務効率化に貢献できる取り組みが増えているという。
導入企業の8割が満足? IT系BPOの満足度
キーマンズネットの調査結果の話題に戻ろう。実際にIT系BPOサービスを導入した企業では「8割が満足している」という結果が出ている。これは、業務効率化による担当者の負担軽減と、専門家による対応での品質向上という、二つの大きなメリットが得られているためと考えられる。
業務効率化の面では、キッティング作業やヘルプデスク対応などを外部委託することで、情報システム担当者がそれまで費やしていた業務時間の削減につながり、負担が軽減する。また、IT系BPOサービスは突発的な業務の増加にも柔軟に対応できるため、担当者の残業時間削減にもつながる。その結果、情報システム担当者は他の戦略的な業務に注力できるようになる。
専門家による対応での品質向上については、特にセキュリティ対策の強化が顕著だ。もはや「ウイルス対策ソフトを入れておけば安心」という時代ではない。Windows UpdateやパッチなどOSに関する更新プログラムの適用、各種ソフトウェアのアップデート、セキュリティポリシーに沿った設定など、考慮すべき要素が格段に増えている。
テレワークの普及によって社外からのアクセスも増加し、端末の管理やネットワークのセキュリティにもより高度な対応が求められている。このような状況下では、セキュリティの専門家による適切な対策が不可欠だ。
「IT系BPOサービスを導入することで、最新のセキュリティ動向を踏まえた対策の立案から実装まで、専門家のノウハウを活用することが可能になります。また、リソース不足で手が回っていなかった業務にも対応できるようになることで、社内IT環境全体の品質向上につながります」(三菅氏)
IT系BPOサービスに不満を覚える理由は?
一方で、利用中のIT系BPOサービスへの不満についてはどんなものがあるだろうか。調査結果では、「IT知識が不足しており、対応に時間を要する」「対応レベルがあまり高くない」など、委託先のIT知識やスキル、経験不足に関する指摘が挙げられている。
「専門家だと思って任せたのに、実際の対応のレベルが低ければ、不満を覚えるのは当然のことと思います。対策としては、サービス選定時に委託先の実績を十分に確認することです。特に、業界特有の業務やルールへの理解度、同業他社での導入実績などは、重要な判断材料となります」(三菅氏)
また調査結果では、「委託業者に対するセキュリティ教育や情報漏えい対策などに時間を要した」との回答も挙げられていた。新たに取引する事業者に自社特有の設定やルールを説明するには、一定の時間がかかる。これはアウトソーシング全般に共通する課題といえる。
アウトソース化すると、ナレッジが自社に蓄積されないのか?
IT系BPOサービスを利用するデメリットはあるのか。キーマンズネットの調査結果によると、「業務ノウハウやナレッジが自社に蓄積されない」(37.5%)、「アウトソース化によってコストが割高になる」(28.4%)、「導入や運用引き継ぎ時に想定以上の手間や時間がかかる」(21.6%)などが挙げられた。
「ノウハウやナレッジが蓄積されない」という意見に対して、三菅氏は次のように反論する。
「多くのIT系BPOサービスでは、キッティング業務などの代行に加えて、業務マニュアルの作成・提供もしています。これにより、それまで特定の担当者に依存しブラックボックス化していた業務プロセスが可視化され、むしろ社内のナレッジ蓄積が進むケースが多いといえます」
「コストが割高になる」という指摘については、比較の視点を変える必要があるだろう。「今は何とか回っているから」という現状維持の視点では、新たなサービスの導入は確かにコスト増だ。しかし、新たに情報システム担当者を1人採用した場合と比較すると、多くの場合、アウトソースの方がコスト面で優位となる。
導入や運用引き継ぎに時間がかかる点は、確かに避けられない課題だ。委託先企業は、効果的なサービス提供のために、まず依頼企業の状況を詳しく把握する必要があるためだ。
しかしこれも、新規採用者の募集から教育までにかかる時間と比較すれば、むしろ効率的といえる。中長期的に見れば、最初にかかる時間的コストは十分に回収できると考えられる。
アウトソース化することで情報漏えいリスクを懸念する声もある。例えばアカウント管理の外部委託に対して「IDやパスワードを外部に出すのは怖い」という声がある。これは必ずしも的確な懸念とはいえない。
「IT系BPOサービスは、セキュリティガバナンスのもとでサービスを提供している事業者も多く、一般の中小企業よりもはるかに高度なセキュリティ対策が実施されています。当社のIT withも、厳格なセキュリティ基準に従ってサービスを提供しています」(三菅氏)
従って重要なのは、IT系BPOサービスの選定時に、委託先のセキュリティ対策や実績を十分に確認することだ。適切な事業者を選定できれば、情報漏えいリスクは上がるどころか、むしろ低減される可能性が高いといえる。委託先自体のセキュリティ対策を懸念する場合は、例えばITreviewの「SaaSセキュアチェック」などの第三者評価を参考にするのもいいだろう。
今回は導入企業の事例や満足度、そしてデメリットとされる点について詳しく見てきた。次回は、IT系BPOサービスの選定基準や、スムーズな導入のためのポイント、さらには効果を最大化するためのノウハウまでを解説する。
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