人気のクラウドストレージサービスはどれ? 企業規模別の傾向と「導入してみた」感想:クラウドストレージの利用状況(2024年)/後編
クラウドストレージを利用している企業を対象に、利用中の製品やそれを選定した理由や、製品に対する満足度、トラブル事例などを聞いた。
クラウドストレージは利用率が増加傾向にある。キーマンズネットでは「クラウドストレージの利用状況に関するアンケート(2024年)」を実施(実施期間:2024年11月25日〜12月13日、回答件数:308件)し、利用動向を定点観測してきた。
後編となる本稿では、現在クラウドストレージを利用している企業を対象に、利用中の製品やそれを選定した理由や、製品に対する満足度、トラブル事例などを聞いた。
企業規模別 人気のクラウドストレージサービスはどれ?
はじめに、企業が利用しているクラウドストレージサービスを調査したところ「Microsoft OneDrive」(68.7%)が1位に挙がり、「Google ドライブ」(23.7%)、「Box」(27.8%)、「Dropbox」(4.0%)が続いた(図1)。
この結果を企業別でみると、1001人を超える大企業帯では「Box」の利用率が4割を超え、他規模帯と比べて顕著に高い傾向が見られた。ファイルやフォルダ単位でアクセス権限を設定でき、高いセキュリティレベルを確保できること、社内外とのファイル共有機能が充実している点が評価されたと考えられる。企業規模が小さいほど「Google ドライブ」の利用率が高い傾向にある。
続いて、クラウドストレージを導入して得られた効果を聞いたところ「部署間での情報共有がスムーズになった」(48.0%)、「在宅勤務やリモートワーク時の情報共有が改善した」(44.9%)、「ファイルのバージョン管理が容易になり、重複作業が減った」(26.8%)が上位に続く結果となった(図2)。クラウドストレージは社内外との情報共有を円滑にするだけでなく、ファイルのバージョン管理や検索を効率化し、その点を評価した結果と考えられる。
クラウドストレージに不満が集まる理由
次に、現在利用しているクラウドストレージの満足度を調査したところ「満足」(16.1%)と「やや満足」(41.0%)となり、合計すると57.1%が「満足」と回答した(図3)。
「やや不満」(34.6%)、「不満」(8.3%)とした回答者に対してクラウドストレージに対する不満を聞いたところ「データ転送速度が遅い」(40.9%)や「利用方法の理解度に差があり、チーム内で混乱が発生した」(30.7%)などが挙がった。
インターネット環境の影響を受けやすいクラウドサービスでは、ネットワーク負荷や通信トラブルなどの影響で通信速度が低速になるケースがある。「誰のものか分からないデータが多い」(29.5%)や「不要なデータが多く整理できていない」(27.3%)のように、無駄なデータが放置されることで「容量が足りない」(27.3%)といった課題が生じる。導入だけでなく運用を見据えて製品を選定しなければ、コストの最適化は難しい。
前述の「クラウドストレージに対する満足度」と「運用コストに対する満足度」をクロス集計して相関を見ると、前者で「満足」と回答した方が後者に「不満」とする割合は21.2%であったのに対し(図4)、前者で「不満」とした方が後者を「不満」とする割合は71.8%と大きな差が見られた(図4)。
関連して、クラウドストレージ利用者に対して「製品選定時の重視ポイント」を聞いたところ、「コスト」(51.0%)、「Microsoft 365、Google Workspace など主要ツールとの連携性」(48.0%)、「外部ユーザーとの簡単なファイル共有機能」(33.8%)、「アクセス制限の詳細な設定が可能かどうか」(26.3%)が上位に挙がった(図5)。
クラウドストレージは利用容量によって料金が決まるため、初期費用よりもランニングコストが重視される。特に大規模データを扱う企業では、毎月の支出が膨らみやすく、トータルコストに大きく影響する。IT運用全体の健全性のために、コスト効率が良いストレージを選択する必要がある。
「OneDriveの同期設定でデータ消失」ユーザーのトラブル事例
最後に、クラウドストレージにまつわるトラブル事例を聞いた。クラウドストレージ利用者の約3割が「トラブルを経験したことがある」と回答した(図6)。
昨今、クラウドストレージやファイルサーバからの情報漏えいに関するニュースが多く聞かれる。クラウドストレージのユーザーに対して、これまで経験したトラブルをフリーコメントで尋ねた。トラブルの内容は2つに分類できる。1つ目はデータ消失トラブルだ。「OneDriveの同期設定を解除することでローカルのファイルが消失して騒ぎになった」や「ローカル環境との同期ミス」といった設定ミスに加え、ユーザーの操作ミスやネットワーク障害による「ファイル破損、紛失」も挙げられた。
2つ目は、運用設計や運用ルールが徹底されないことによるトラブルだ。「ファイルがどこに置いてあるのか分からなくなり、リビジョン管理ができなくなった」や「ファイルの権限付与のためコンテンツ管理者全員が管理者になったことで、外部の方々が閲覧できるようになり混乱した」など、管理ルールが不明確であることから生じるトラブル事例が寄せられた。また「ファイルを勝手にリネームする人がいる」ケースも想定し、ルールが正しく運用されているかどうかをチェックすることも不可欠だ。
以上、後編ではクラウドストレージ利用者を対象とした調査を基に、人気のクラウドストレージ製品や、選定ポイント、トラブル事例などを紹介してきた。今後ますます企業需要が高まると予測されるクラウドストレージだが、有効性はもちろん、そのリスクも鑑みた上で自社に合わせた製品、サービスを検討いただきたい。
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