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なぜ情シスはキャパオーバーなのに外注しないのか? 「ITアウトソーシング」活用ガイドIT導入完全ガイド(1/3 ページ)

情報システム部門の業務負荷が増大する中、その解決策の一つとなるのがIT系アウトソーシングサービスだ。AIの活用範囲が広がる中で、これらの事業者に委託していた業務をAIに置き換えることはできるのか。

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 多くの情報システム部門が慢性的な人手不足に悩んでいる。従来の業務に加えて、最近はDXを軸としたIT戦略の立案までも担うことが期待されている。セキュリティ対策の高度化や新技術への対応、中長期的なロードマップの作成など、「緊急性は低いが重要性は高い」ミッションが山積している。

 キーマンズネットが実施した情報システム部門の人手不足に関する調査によると、情報システム部門の約65%が人手不足に陥る一方で、2025年に増員が決定している企業は約7%にとどまっている。多くの企業で今後も人手不足は続くとみられる。

 人材不足の結果、戦略的な施策に時間を割けず、PCキッティングやID発行など、「緊急性は高いが重要性は低い」ノンコア業務に時間を奪われる悪循環が生まれている。こうしたノンコア業務の負担を軽減する有力な選択肢としてIT系アウトソーシングサービス(BPO:ビジネス・プロセス・アウトソーシングサービス。以下、「BPOサービス」)があるが、利用率は意外に低い。

 IT系BPOサービスに関するキーマンズネットの調査(2024年5月実施、回答数219件)によると、IT系BPOサービスの認知度は82.3%に達する一方で、利用している企業は2割弱にとどまる。さらに、「今後も利用する予定はない」と回答した企業が59.8%に上った。

 多くの企業がサービスの存在は知っているものの、導入に踏み切れていないのが現実だ。一方で実際の利用企業の満足度は約8割と高い。適切に導入・運用されれば高い効果を発揮するが、その恩恵を受けていない企業が大半だ。

 本稿では、この認知度と利用率のギャップの背景を探るため、実際のサービス提供現場の知見を基に、適切な選定と導入のポイントを考察する。

AIがあればIT系BPOサービスはいらない?

 IT系BPOサービスとは、企業の情報システム部門が担う業務プロセスの一部を専門の外部事業者に委託するサービスの総称だ。システム開発の外部委託とは異なり、継続的な運用業務や定型業務を対象としている。

 サービス領域は幅広く、PCキッティングやデバイス管理、ヘルプデスク業務、インフラ運用・監視、IT資産・アカウント管理、セキュリティ関連業務などがある。

 コロナ禍でテレワーク環境整備の一環として、キッティングやデバイス管理の外注事例が大幅に増加した。また、ITサービスのデバイスの障害や故障、利用方法などに関する電話対応の負担軽減を主目的としたアウトソーシングも増えている。

 これらの業務は、近年注目されるAIによる運用自動化によってカバーできる部分もあるのではないか。

 この問いに対し、中堅・中小企業〜大企業にIT系BPOサービスを提供する日立システムズは懐疑的な見方を示す。同社では数年前から金融業界の顧客企業とAI導入について検証しているが、「(どのレベルの対応を期待するかにもよるが、)人間のオペレーターよりもAIの方がコストがかさむケースもある。このため、まだ本格的な運用開始には至っていない」という。当面は人的リソースを活用するBPOサービスが現実的な選択肢となりそうだ。

中堅・中小と大企業で利用率の差は?

 情報システム部門を取り巻く問題はさまざまだ。中堅・中小企業を中心にIT系BPOサービスやSaaS管理ソリューションを提供するジョーシスはSaaSの乱立が、情報システム部門における負荷増大の原因の一つになっているという。「特にコロナ禍以降、SaaSの導入数が増える中で、情報システム部門を介さずに各事業部がそれぞれ導入した結果、ガバナンスが効かない状態のSaaSによるセキュリティ面やコスト面での問題が生じている」(ジョーシス)

 日立システムズも「情報システム部門にはIT資産の入れ替えやアップデートのたびにユーザーからの質問が殺到し、本来業務に注力できない状況にある」と指摘する。

 こうした課題を背景にIT系BPO市場は継続的な成長が予測されている。しかし企業規模による利用率の差は顕著で、先ほどのキーマンズネットの調査によれば、501人以上の企業では3割を超えるが、500人以下では1割に満たないのが現状だ。

 日立システムズは「ITの技術面は大きく変化しているが、業務プロセスの芯の部分は変わっていない」と指摘する。根本的な課題が変わらないからこそ、外部委託の需要は継続的に存在している。

認知度と利用率のギャップの背景にあるもの

 キーマンズネットの調査で明らかになった「認知度は高いのに利用率は低い」というギャップの背景には、幾つかの要因が存在する。

 最も多い理由として「アウトソースした業務のランニングコストが割高になる」(34.6%)が最多となった。特に中小企業からは予算制約の厳しさを訴える声が多い。

 しかし、この懸念の多くは単純な人件費比較に基づいている。ジョーシスは「現状業務の人件費との比較のみでBPOサービスを評価し、表面的には割高に見えることから導入を躊躇しているのでは」と分析する。社内リソースの戦略的再配置や専門知見の獲得、長期的な業務効率化による総コスト低減といった効果を含めて評価すべきだろう。

 次に多い回答が「(IT系BPOサービスの)内容をあまり理解できていない」(29.3%)。特にPCキッティング以外のサービスについて、具体的に何ができるのかが十分に伝わっていない可能性がある。

 ジョーシスは「検討企業にとっては、問い合わせ前の段階でより詳しくサービス内容を知りたい。しかしホームページなどで情報を解像度高く伝えている事業者は少ないかもしれない」と現状の課題を認める。

 「業務ノウハウやナレッジが自社に蓄積されない」(21.8%)との懸念もある。実際の利用者で、現状のサービスに不満を持つ回答者に絞ると、約8割がこの懸念を示している。この課題に対しては後述するが、適切な対策を講じている事業者を選ぶことが重要だ。

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