「全庁クラウド」で1万6000人のゼロトラストを実現 札幌市のDXがまた進む:進む行政DX AI活用も視野に
「お役所といえば電話とFAX」というアナログ組織のイメージはもう遠い過去のものになっているのかもしれない。札幌市が全庁でクラウド型の業務基盤の活用を進める。「政令市初として初」の試みだという。
昭和、平成の時代を知るものからすると、お役所と聞くと「電話や手書きメモ、FAX用紙が山積みのアナログ業務プロセスの山」というイメージが強いが、その状況も最近は大きく変わりつつあるようだ。ルール整備やガイドラインの策定が進み、中央省庁や地方自治体の働き方は大手企業並みにモダンなものに変化している。
札幌市が全庁の約1万6000ユーザーを対象に「Google Workspace」の本格運用を開始した。導入は日本情報通信が支援した。2025年6月19日にグーグル・クラウド・ジャパンが発表した情報によると 「政令指定都市としては初」だという。
ゼロトラストモデルの安全性と職員の利便性を両立、業務スピード向上
北海道の中枢都市である札幌市は、政府が推進する「デジタル田園都市国家構想」に呼応し独自の「DX推進計画」を2022年に策定していた。Google Workspaceの採用はDX推進計画の中核施策だ。
変革の推進には国の制度面の整備も大きく影響している。総務省が発表した「地方公共団体における情報セキュリティポリシーに関するガイドライン」においてはインターネットを利用した業務運用が認められるようになり、これまで制限されていたクラウドの活用が可能になった。従来のファイルベースの運用は情報漏えいやデータ損失のリスクが高くセキュリティ面で限界があったが、Google Workspaceの採用と合わせてゼロトラストモデルを取り入れることで、より堅ろうで柔軟な情報管理体制を構築できると札幌市は判断した。
札幌市はGoogle Workspaceの導入を契機に職員の働き方や意識の根本的な見直しにも着手している。従来のようにローカルにファイルを保存しメールで添付する方法から脱却し、クラウドで共同編集を行う運用が奨励されており、庁内のコミュニケーションも個別のメールからグループチャットへと移行した。変革を実現するため、「NEWSネット*を活用した新しい働き方ガイド」の策定も進め、業務フローの見直しも図る。
*NEWSネット:札幌市におけるインターネット接続系業務ネットワークの名称。
この大規模導入に先立ち、情報システム部やスマートシティ推進部など一部部署において試験的な運用が行われた。200人規模での運用を通じて、Google Workspaceの利便性やインタフェースの簡潔さが職員の間で好評を得た。複数のアプリケーションを切り替える必要がなく、Webブラウザだけで業務が済む点が評価されており、情報共有や意思決定のスピード向上も確認されている。資料の共同編集により、承認プロセスの効率化と成果物の質的向上が期待されている他、今後は「Gemini」や「NoteboookLM」などの活用も視野に入れているという。
Googleが公開した情報によれば、札幌市 デジタル戦略推進局の北本剛氏(情報システム部 システム調整課長)はこれらの取り組みを「組織内の業務効率化のみならず、地域社会と一体となった情報の共有や利活用を推進する呼び水」になるとして、行政サービスの質向上にも期待を寄せている。
なお、札幌市の取り組みを技術面から支援した日本情報通信の関係者は、市側の強い意思とユーザー視点に立った協働の姿勢が大規模な導入の成功につながったと述べており、今後も運用の中で継続的な改善を積み重ねるとしている。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
関連記事
電通総研が資金管理の新サービスを開始 リアルタイム可視化でグループ管理はどう変わる?
電通総研は、企業グループの資金を集約、可視化し、効率的な運用と迅速な経営判断を支援する新システム「Ci*X Treasury」を発表した。資金管理、財務業務の標準化とガバナンス強化に対応している。ナハト、「Notion」と「Notion AI」で全社の情報共有基盤を刷新へ
マーケティング企業のナハトが、社内の情報共有課題を解消するため「Notion」と「Notion AI」を全社導入した。情報の属人化や部門間の連携不足といった課題に向き合い、自律的に働ける組織づくりと、オープンで透明性の高い社内文化の構築を目指す。DatabricksとGoogle Cloudが提携 データと「Gemini」をつなぎやすく
DatabricksはGoogle Cloudと提携し、「Gemini 2.5」モデルを自社プラットフォームにネイティブ統合した。企業は自社データを移動せずに高度なAIを活用でき、ガバナンス強化と業務効率化を同時に実現できる環境を整備できる。銅線泥棒を許さない KDDI系企業がAWSで一計案じる
KDDIスマートドローンは「Amazon SageMaker」と連携したAI解析ドローンシステムを開発し、太陽光発電施設の夜間警備に実装した。遠隔運航とリアルタイム解析を組み合わせ、人的負担を軽減しつつ盗難対策を強化している。