マクロ地獄、属人化を覚悟しても「使うしかない」Excel利用現場の課題【2025年調査】:業務における「Excel」の利用状況と課題(2025年)/前編
定番の業務ツール「Excel」。マクロ依存や属人化といった課題が業務効率化を阻む中で、「脱Excel」の動きも含め、現場におけるExcelの利用実態を調査結果から探る。
日々の業務において、ほぼ全ての企業が何らかの形で活用している「Microsoft Excel」(以下、Excel)。キーマンズネットでは、Excelの利用状況や裏に潜む課題を把握するためにExcelの利用状況に関するアンケートを年に1回実施している。
本稿では、最新調査(実施期間:2025年6月13日〜6月25日、回答件数:330件)の結果を基に、Excelおよびマクロの具体的な活用状況や利用目的、勤務先における「脱Excel」の取り組み状況などを紹介する。
中小企業の14.3%がサポート切れ旧バージョンを使用
まず、現在、職場で利用しているExcelのバージョンについて尋ねたところ、最も多かったのは2024年10月にリリースされた「Excel 2024」で33.6%と約3分の1を占めた。次いで「Excel 2019」(19.4%)、「Excel 2021」(19.1%)と続いた。(図1)。
既にMicrosoftのサポートが終了しているExcel 2013以前のバージョンを使用している企業も一定数あり、全体では6.1%にとどまるものの、従業員数100人以下の中小企業では14.3%と、他の規模帯と比較して倍以上の割合を占めた。
また、「Excel 2016」や「Excel 2019」など、まだ現役で使われているパッケージ版についても、2025年10月14日でMicrosoftによるサポートが終了する予定だ。これらのバージョンを使用している企業は早急な対応と見直しが必要だ。
Excelマクロに頼らざるを得ない現場、今も活躍するマクロ職人
企業のデータ活用が活発化し、ローコード開発や業務自動化の取り組みが進む中、最新版の「Excel 2024」ではSEQUENCE関数やFILTER関数、さらにREGEXTEST関数といった正規表現対応の新関数が複数追加され、高度なデータ処理や分析が可能になった。
その一方で、現場の実務において今なお即戦力として使われているのがマクロ(VBA)機能だ。確かに業務のルーティーン化、省力化という意味でマクロは有効だ。だが一方で、特定の担当者だけがマクロを扱えるといった属人化や、内容が可視化されないブラックボックス化といった問題もある。マクロの活用状況をより具体的に把握するために、次の設問では業務におけるマクロの活用頻度や活用用途など尋ねた。
業務におけるExcelマクロの利用頻度を尋ねた設問では、「時々使っている」が50.9%、「常に使っている」が18.8%となった(図2)。中でも顕著だったのが、従業員規模101人〜1000人の中堅企業での利用傾向だ。なかでも501〜1000人規模の企業では、3割以上が「常に使っている」と回答した。
この背景には、潤沢なIT予算を確保しづらい中堅企業だからこそ、既存のツールを最大限に活用しようとする姿勢があると考えられる。追加コストなしで自動化や効率化を実現できるExcelマクロは、現場主導で改善を進めたい企業にとって実用的な選択肢となっているのだろう。
さらに、マクロの具体的な用途について尋ねたところ、最も多かったのは「表計算・集計業務(財務会計など)」(75.2%)で、次いで「データ分析・レポーティング」(58.7%)、「帳票作成」(30.0%)が続いた(図3)。
この結果は、マクロが単なる定型処理の自動化ツールにとどまらず、Excelそのものを簡易的なBIツールとして活用している現状を示している。導入コストが不要で、ユーザーにとって親しみのあるUIで操作できるという利点が、導入の決め手となっているようだ。
特に中堅企業では「帳票作成」との回答も多く見られ、ERPやワークフローなどの導入が難しい企業にとって、Excelマクロはコストをかけずに現場課題を解決するツールとして重宝されていることが分かる。
Excelの機能が強化されればされるほど、「やっぱりExcelが一番便利」という声が現場から上がりやすく、結果としてマクロ依存招いている点も無視できない。とはいえ、Excelやマクロの利便性を全面的に否定する必要はない。だが、長期的な視点では属人化を防ぎ、業務プロセスを透明化・再設計することが重要だ。特に中堅企業においては、マクロ活用の最適化と代替手段の共存戦略が問われるだろう。Excelマクロは最も身近な業務効率化であると同時に、それが業務のサイロ化や非構造化を招いていないか、いま一度現場で確認したいところだ。
脱Excel「取り組んでない」最多、属人化地獄でも離れられない理由
属人化やブラックボックス化による業務の非効率を解消しようと、長年にわたり取り組まれてきたのが「脱Excel」だ。
しかし実際のところ、それほど進展がないように見える。今回の調査によれば、勤務先で脱Excelに「取り組んでいない」と回答した企業が65.8%と半数以上を占めた。「現在、取り組んでいる」(11.8%)、「検討中」(14.5%)を合わせても3割に満たない状況だ(図4)。
Excelの代替として具体的にどのようなツールを使っているのかを尋ねたところ、「BIツール」(60.9%)が最多で、「クラウド型ビジネスアプリ作成ツール(kintoneなど)」(23.0%)、「プロジェクト管理ツール」「Google スプレッドシート」(いずれも21.8%)が続いた(図5)。
BIツールとしては、フリーコメントで「Power BI」「Tableau」「MotionBoard」などの製品が多く挙がっており、インタラクティブなダッシュボード作成機能やデータビジュアライゼーションの柔軟性といった、Excelでは物足りないとされる部分を補完できる点が評価されている。
また、プロジェクト管理や業務アプリケーション領域では、「Asana」「ServiceNow」「HubSpot」といったツールへの移行も見られた。特に「kintone」などのノーコード/ローコード開発プラットフォームがExcelの代替として代表例だ。
ただし、このように多様な代替ツールが登場していること自体、裏を返せばExcelがいかに多目的に利用されているかを示しているとも言える。「脱Excel」の取り組みは必ずしも順調とは限らない。実際には脱却を試みたものの、最終的にExcel運用へ戻るケースも少なくない。
その理由としては、「Excelを使えないと業務が遂行できない人がいる」「利用者が多いため、移行にコストがかかる」といった人材に起因する障壁が大きい。また、「異動や退職などの組織変更に柔軟に対応しやすい」「他ツールでは業務の再構築が困難だった」といった運用面や環境構築面での難しさもあるようだ。加えて、「マクロ以外にも関数などの機能が進化しており、Excelの利便性が逆に増している」との声もあり、結果的にExcelに戻った方が業務効率が高いという判断に至る企業も少なくない。
以上、前編ではExcelやマクロ(VBA)の利用実態と脱Excelへの取り組み状況を紹介した。後編ではExcel運用企業の活用事例などを取り上げる。
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