乗客75%減、どん底のANAはAIでこの危機をどう乗り越えたのか?
ANAの担当者が、同社グループにおけるAIとデータ活用を基盤とした業務改革の全体像と、そこに至る現場との連携過程、今後を見据えたデータ基盤拡充戦略について報告した。
全日本空輸(ANA)の担当者が「AWS Summit Japan 2025」に登壇し、グループを支えるデータ基盤「ブルーレイク」と、データ活用をする文化を醸成する方法について講演した。ANAグループにおけるAI・データ活用を軸に進めた業務改革の全体像、現場連携のプロセス、そして今後のデータ基盤拡充戦略について語った。
利用者75%減 コロナ禍を機にデータ人材になったCA
講演ではANAでキャビンアテンダント(CA)として乗務していた三好真央氏(デジタル変革室 イノベーション推進部 データドリブンチーム 客室乗務員)が、デジタル変革室に異動したいきさつを話した。
デジタル変革室はANAグループ全体のITとデジタル戦略の司令塔となる部署だ。三好氏は新型コロナウイルス感染症の流行の影響で、5000万人以上いた国内線・国際線の利用者が75%減少する中、同部署への異動を希望した。現在はCAとして乗務しつつ、データ活用をグループ内に広めるため活動している。
ANAには客室センターという、CAとそのサポートをするスタッフを含む組織がある。スタッフ部門はCAの訓練やスケジュール管理、業務指示などを担当している。人数は8000人と大規模で、三好氏は客室センターにデータ活用を広めようとアプローチしたが、活用イメージがわかず、当初は懐疑的な反応も多かったという。
三好氏は、8000人全体に向けてアプローチするのではなく、スタッフ部門の生産性向上に着目した。同氏は「大きなことをやろうとアプローチしがちだが小さな改善とのバランスが重要」だと語る。
信頼関係を構築するため、三好氏は「立場に関係なく積極的に意見を出し、感謝の気持ちを持って受け入れる」「やって見せて、やらせてみて、互いに学ぶ」「技術の進化に合わせて生きた情報をインプットする」の3点を重視してコミュニケーションを続けた。
その結果、客室センターでは、BIツールを用いたダッシュボードの自主的な作成や、データの加工・集計の自動化など、データ活用が自発的に進むようになった。
450時間のテキスト分類を70%短縮
データ活用の事例の一つとして、顧客の声分析の効率化を挙げた。ANAでは利用者の声を収集して分析している。このとき、文章にラベル付けして分類するが、この作業は手作業だったため、時間がかかって本当にやるべき作業の時間が削られる上、作業者によって基準が異なることが問題になっていた。
作業時間は年間450時間に上り、判定精度は86%程度だった。ANAは生成AIサービス「Amazon Bedrock」を使ってこの作業を自動化した。その結果、判定精度は73%に下がったが、作業時間は135時間まで短縮できた。
ANAのデータ基盤「ブルーレイク」
ANAが取り組むデータ戦略の中核には、Amazon Simple Storage Service(Amazon S3)をベースとするレイクハウス「ブルーレイク」がある。この基盤は、社内外の膨大な情報を一元的に収集・管理し、誰もが利用できる構造を整えている。単なる技術導入にとどまらず、分析スキルの育成や情報管理のルール策定といった、実装を支える体制の整備にも重点を置いている。とりわけ、社内の誰もが数値や傾向を読み解き、実践に生かせるような組織風土の醸成に注力している。
基盤の安全性と柔軟性を両立するためのアーキテクチャも紹介された。ブルーレイクは、個人情報を含む領域とそれ以外を明確に分離し、必要に応じて匿名化する構造を採っている。生成AIとの連携を図るアプリケーションも社内開発しており、ユーザーが直感的に操作可能なインタフェースを提供している。生成AIの判断精度が一定水準に満たない可能性があることも考慮し、分析対象の選定や情報の集計には慎重な運用がなされている。
最後に、今後の展望として、AIエージェントの活用などAI時代を見据えたデータ基盤構築に向けた、ブルーレイクの「Apache Iceberg」対応などの構想を示した。単なるツール導入ではなく、業務に即した機能選定と組織的な利用拡大が目標とされており、基盤設計そのものを柔軟かつ持続可能な構造に保つ工夫が随所に見られる。データの品質や構造への丁寧な対応が、最終的に従業員体験や顧客体験の向上へとつながっていくという信念のもと、取り組みが進められている。
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