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公共データが変える行政、自治体業務 神戸市、デジタル庁のデータ活用事例

「AWS Summit Japan 2025」で、行政と教育、医療の各分野におけるデータとAIの利活用が紹介された。セキュリティ確保やデータ統合、生成AIの活用など、公共サービス改革の具体的な技術的解決策と実例が提示された。

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 アマゾン ウェブ サービス ジャパンの瀧澤与一氏(執行役員 パブリックセクター技術統括本部長)は、6月開催の「AWS Summit Japan 2025」で、行政と教育、医療という3つの公共領域におけるデータ利活用の動向や課題、それらを克服するための技術的選択肢を紹介した。

データに基づいて政策の効果を測定する 神戸市

 公共機関では、意思決定の根拠としてデータを活用する動きが進みつつある。行政領域ではEBPM(証拠に基づく政策立案)という考え方が浸透し始めており、政策効果を数値で把握し、継続や見直しなどの検討が進められている。実現のためには、組織をまたいだデータの統合が不可欠であり、部門間での共有が鍵を握る。ただし、その導入においては、クラウドセキュリティへの懸念や、人材、予算の制約が障壁となっている現実も見受けられる。

 神戸市はデータ連携基盤を構築し、庁内向けポータルサイト「神戸データラウンジ」を運用している。同市では複数部門のデータを集約し、職員が横断的に政策効果を可視化する環境が構築されている。行政が所有する基幹系システムのデータや統計データをBIツールと接続することで、公共施設の需要予測など、政策立案に利用できるエビデンスを庁内で用意できるようになった。

 デジタル庁でも、Amazon Web Services(AWS)が提供するオープンソースのテンプレート「Generative AI Use Case Reference」を活用し、生成AIによる文書作成や要約などを職員が実際に体験できる環境が整備されている。

 教育分野では、個別最適化された学習支援を可能とするデータ利活用が検討されている。児童生徒の理解度に応じた教材提示や、教師の業務負荷軽減など実用の期待は大きい。実装には、地域格差やプライバシー保護の問題が付随する。特に教育データは個人識別性が高く、その取り扱いには厳格な配慮が必要だ。教育現場でICTを運用できる人材の不足も、進展を妨げる一因となっている。

 東北大学ではGenerative AI Use Case Referenceをカスタマイズして、「Amazon Bedrock」ベースの生成AIチャットサービス「Tohoku University GAI」を構築した。音声の文字起こしや翻訳、画像生成などを利用している。

 医療領域では、患者の診療履歴やゲノム情報を含む多様なデータの集積と利活用が注目されている。2030年を目標に、全国医療情報プラットフォームの整備が進められており、診療支援や創薬、研究への波及効果が期待されている。だが、医療情報も機密性が高く、これまで閉鎖的なネットワークで管理されてきた経緯がある。システムごとに分断されているデータ環境がそのまま残されており、統合的な分析や連携を困難にしている。

 藤田医科大学病院では、医療情報基盤をAWSで構築している。同病院はAmazon Bedrockで退院サマリーの作成を支援している。退院サマリーとは退院患者の治療やケアに必要な情報をまとめた文書のこと。記載内容の洗い出しやチェックを、退院までの短期間で実行する必要があり、従来は時間がかかり、時間外業務が増える一因だった。生成AIによる支援で、看護記録や診療記録からAIが要点を抽出し、医師が最終確認することで、業務の大幅な短縮が実現した。

 海外においても、レントゲン画像の診断支援や、ゲノム情報を基にした医療判断支援といった、より専門的な領域への展開が報告されている。

 本セッションを通じて示されているのは、データを適切に扱う環境と、そこに安全性と可視性を与える仕組みが整えば、公共機関においても現実的な変革が可能だということだ。クラウド基盤の特性を生かし、業務の効率化や市民サービスの質向上、人材の育成までも一貫して視野に入れる必要がある。技術はすでにそろっており、必要なのは一歩踏み出す意思と、それを支える理解と設計だとしている。

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