製造業の未来を変えるデータ活用とは? AWSが示した次の一手
アマゾンウェブサービスジャパンは「AWS Summit Japan 2025」で製造業のデジタル変革をテーマに現場課題とAWSのクラウド技術を用いた実践的解決策を紹介した。
製造業では労働力不足が深刻な問題となっている。自動化の施策を進めるよる早く人手が減少しており、現場の持続的な運用を脅かしている。アマゾンウェブサービスジャパン(以下AWS)の佐山朝葉氏は「対策としてクラウド技術やデジタル活用が急務だが、単なるデジタル技術の導入ではなく、組織改革と顧客価値の創出が主眼だ」と語る。
負荷が高まる現場、製造業のDXに必要な視点とは
経済産業省が公開している「2024年版ものづくり白書」によると、国内の製造業におけるデジタル変革は一部的に成果が見られる状況で、全体的な最適化に至る企業はまだ限られている。佐山氏はデジタル変革の推進には仕組みの再構築、戦略策定から評価指標の設定、体制・環境の整備、継続的な改善を実施するサイクルが必要だと述べた。
デジタル変革を支援する技術として佐山氏は、仮想デスクトップ環境を迅速に立ち上げられるソリューション「Research and Engineering Studio on AWS」(RES)や、膨大な設計シミュレーションを短時間で処理可能なHPC(High Performance Computing)環境で設計業務の効率化を図る方法を紹介した。リソースの制約を受けずに突発的な設計ニーズにも柔軟に対応可能となる点を強調した。
持続的な事業を維持するにはノウハウの継承が重要だ。熟練技術者の暗黙知を残す手法として、佐山氏は音声や映像を自動的に文字起こししてクラウドで成形、保存する仕組みを紹介した。クラウドで処理することでリアルタイムで遠隔地にいる従業員を支援することもできる。
佐山氏は現場設備からデータ取得する際の注意点も説明した。取得に当たっては目的を明確にした上で適切な通信手段とデータ形式を選定する必要があるという。「AWS IoT Greengrass」「AWS IoT SiteWise」といったエッジ・クラウド間の連携基盤を使い、設備ごとの構造や階層をテンプレート化することで、複数拠点への展開や変更対応の効率化が可能だという。エッジとクラウドを使い分ければ遅延や通信障害への耐性も高められる。
データ活用においては、分散したデータの統合と可視化で分析や予測の精度を向上できる。「AWS Supply Chain」を使うと既存のシステムを置き換えることなく複数のシステムからデータを収集、分析できるという。生成AIを活用したアシスタントやエージェントの実装で、非エンジニアでもデータからの知見抽出を可能とする新たな活用手段も提示した。
データ連携において課題になるデータのサイロ化の解消には「インダストリアルデータファブリック」(IDF)という考え方が有効という。これは、「設備と工場」「クラウド」という三層構造に対し、データの収集・ひも付けから、モデル化、利活用に至るまでを統合的に提供する仕組みだ。APIを通じたアプリケーション連携にもつなげられる。佐山氏は国内外のIDFパートナー企業と連携することで、導入負荷を軽減しつつ全体最適を目指す構成が可能とした。
最後に、全体アーキテクチャの構築に当たっては、一気に全体最適化を図るのではなく、まずは動く仕組みを小さく作ることが推奨されている。
佐山氏は、アーキテクチャの構築に当たっては一気に全体最適化を図るのではなく、最低限動く仕組みを小さくつくることを推奨した。AWSが提供するサンプルコードやリファレンス構成を活用し、既存データの一部を使った可視化など、現実的な第一歩を踏み出すことが肝要という。加えて、意思決定はかならずしも不可逆なものではなく、「やってみて戻る」ことが可能なクラウドの特性を生かすことで、取り組みを加速させる姿勢が重要だと結んだ。
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