なぜ今「データファブリック」が必要なのか? 日立が語るAI時代の分岐点
「AWS Summit Japan 2025」で、日立システムズの筒井氏と日立製作所の市川氏がデータファブリックの重要性を解説した。AIは今度インフラになるとして、死蔵しているデータの管理と活用が重要としている。
データファブリックとは、さまざまなシステムに散在するデータを統合し、組織横断して一元管理するためのアーキテクチャだ。データレイクやデータウェアハウス、その他のシステムやアプリケーションなどから必要に応じてデータを収集し、活用できる形にする。データ仮想化と類似した考え方ではあるものの、より包括的な概念であり、その実現手段の一つとしてデータ仮想化ソリューションが用いられることがある。
データファブリックとは何か
デジタルトランスフォーメーションの障壁となるデータのサイロ化を解消する目的で利用されることが多く、あわせてセキュリティやガバナンスの強化にも貢献すると言われている。
日立システムズの筒井勇介氏と日立製作所の市川和幸氏は2025年6月開催のイベント「AWS Summit Japan 2025」で登壇し、AI活用とDX(デジタルトランスフォーメーション)を支えるアーキテクチャとしてデータファブリックを紹介した。
市川氏はDXの概念を「データを活用してビジネスを革新する取り組み」と位置付けている。2017年頃のDXは検証段階にあったが、現在は顧客満足度の向上やコスト削減など明確な成果を目指す段階に移行している。データの長期保有が標準化し、将来的価値を見据えた運用が常識化している点も強調した。
データの扱い方に関して、市川氏はビジネス理解に基づくデータ解釈の重要性を示した。「運動会開催日に弁当が多く売れる」「生産データとセンサー情報の統合で品質が改善する」などは、複数データの組み合わせによって単独データでは得られない知見が得られる例とした。
データ管理はAI時代の差別化要因になるか
近年ではAIの存在がデータ活用に欠かせない要素となった。市川氏は将来的にAIが電気や水道のような日常的に使われる安価なインフラとなるとの見解を示した。AI時代において競争力の鍵になるのは「データの利活用」であり、世界的にAIの学習データが枯渇しつつある中でも、企業の手元には未活用の膨大なデータが残されていると指摘した。AI時代においてはデータを適切に管理し、いつでもAIと連携可能な状態に保つことが重要になる。
筒井氏はクラウドネイティブ運用を支えるサービスについても解説した。従来型のオンプレミス中心の運用からクラウド対応型へと変化する中で、開発と運用の連携不足、信頼性、セキュリティの課題、コスト管理の問題が発生している。とくに運用が開発に追い付かず、DX推進が停滞するケースが増えている。
これらの課題に対応するため、日立グループは「HARC」(Hitachi Application Reliability Centers)を提供している。HARCはGoogleが提唱するSRE((Site Reliability Engineering)の考え方を取り入れ、運用と開発が責任を共有するモデルを実現。自動化とデータ駆動型の運用により安定性と効率性を両立させる。運用チームが変化を推進する役割を担い、技術力向上とビジネス成長への寄与を目指している。
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