クラウド、モバイル、IoTで見直されるBPM:すご腕アナリスト市場予測(2/3 ページ)
クラウドなど昨今のITプラットフォームの大転換により、あらためて価値が再認識されているBPM。そんな活性化するBPMの今に迫る。
BPM導入の効果を事例で見る
このようなBPMツールおよびSOA基盤などを利用してどのようなビジネス上の効果があるのだろうか。少し事例を紹介しよう。
国内で大規模なSOA化とBPMの利用を進めた事例としては、大手教育関連事業会社の例がある。2009年から従来のメインフレームベースの基幹系システムを運用していたこの会社では、システム開発、保守が年間1000件に達するほどに増加しており、従来のメインフレームベースの基幹系システムではCPU増加や接続サーバの急速な増加によるインフラコストの増大を抑える必要に迫られていた。
同時にビジネススピードに即した商品、サービスの提供に限界を感じていたという。しかし、同社の競争力を支える自社開発の基幹システムに代わり得る汎用(はんよう)パッケージやクラウドサービスはなく、システム刷新は組織、人材、プロセス、システムなどの多角的観点から新しいITアーキテクチャが必要とされた。
同社がそのアーキテクチャとして最適と判断したのはオラクルのSOA関連製品やBPM製品のスイートだった。2009年の着手以来、その共通アプリケーション基盤上で各種のサービス開発を行っている。2013年時点で公開サービスは170にのぼり、複数のサービスで同一のサービスを呼び出して使う再利用率は約35%にのぼるまでになった。2017年までには公開サービスを300超に増やし、最大再利用率は100%を目指すとのことだ。
そうしたサービスをつなぐのがBPMだ。このシステム刷新は既に目に見える効果を上げており、「エンドユーザーの要求を満たしたサービス開発」「サービス開発工数の削減」「サービスの保守性の向上」が実感されているという。
また、IT部門が業務を理解することにも波及し、積極的な提案ができるようにもなった。同社ではサービスコールに対してエラーとなった比率をサービス連携基盤の運用指標として利用しているが、その平均エラー率は約0.017%までに抑えられ、安定したサービス提供が実現している。
これはBPM利用の典型的なケースといえ、柔軟で効率的にビジネス変化に対応でき、しかも将来的にはサービスの再利用による低コスト化も見込めるという、従来のBPMのメリットを体現した事例だ。
ERPのマスターデータ管理プロセスを可視化、自動化し工数削減
海外事例では、2011年の化学関係のメーカー(インド)のケースが注目される。この会社では、ERPのマスターデータの管理プロセスを可視化し、ガバナンスの向上とプロセスの効率化を行うことを目的としてSAP CRMと連動するBPMソリューションを導入した。
その結果、ソーシャルメディアキャンペーンをERPと連携させて取引先データの登録プロセスを自動化することに成功し、従来1000チケット/月発生していた登録業務に関するサポートチケットを大幅に削減できた。キャンペーンの対象層の絞り込みやリードの収集、新しい案件への対応が合理化でき、顧客中心主義を強化できたという。
医療現場での事務負荷を減らし、治療と患者対応に集中できる体制を実現
カナダのある病院では、患者数の増加や医療の複雑化により医師やスタッフの負担の重さに悩んでいた。それが患者への対応の悪さにつながり医療品質の低下を招いているとの危機感をもった同病院は、患者の流れを中心にした医療プロセスを調査、分析し、モデリングするとともに、プロセスを統制できるBPMの導入に踏み切った。
IBMの製品を利用した同病院の新しいシステムによれば、例えば救急科の患者の流れが速すぎて入院患者の受け入れができていないといった状況が逐一分かり、適切な対応を検討することができるようになった。また医師が事務作業や本来の治療業務から外れた作業にかかわる時間を削減することにも成功し、負担を減らしつつ治療に集中できる環境を作り出している。
とかく機械的なプロセス自動化が連想されることが多いBPMだが、人間の仕事を効率化し、本来のコア業務に集中できる職場を作り出すことにも応用できることを示す好例だ。
風力発電設備管理のインシデント管理にBPMを適用
また、IoTにかかわるBPM適用事例も出てきている。北米のある電力会社では、2011年に風力発電設備のインシデント管理を目的としてBPMソリューションを導入した。環境条件の厳しいところに立地することも多い風力発電設備では、稼働管理やメンテナンスのために継続的な設備監視が不可欠だ。
この電力会社では、遠隔地も含む風力発電設備から6秒ごとに信号を受けて設備管理に利用している。何らかの異常が発生した場合などの対処プロセスをBPMによって標準化し、インシデント対応を効率化している。
なお、BPM市場を金額でみると、南北アメリカで60%弱、欧州、中東が30%強、日本を含むアジアパシフィックで10%弱というシェアになる。日本が欧米に比べてBPM普及が本格化していない状況であるのは明らかだ。
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