請求書の山から脱出した管理部門がこっそり教える「RPAを使いこなすワザ」
堅調に売り上げを伸ばすある成長企業は、毎月の請求書の山に苦しむ。だが、RPAを効果的に導入することで、管理部門の処理は劇的に変わった。大きな効果を生むためには、導入するだけではなく「一工夫」が必要だという。
RPAが広く知られるようになって、数年がたつ。ただ、RPAの導入効果は分かっていても、「RPAに適した業務は」と聞くと、答えに詰まる企業もあるだろう。だが、どこの企業でもRPAを導入することで業務の省力化を期待できる部門がある。それが、管理部門だ。RPAブーム火付け役の1社である、RPAホールディングス管理部門責任者の浦田隆治氏が、同社管理部門におけるRPAの導入事例を基にRPAの導入ポイントを語った。
成長企業の悩みのタネ――売り上げとともに増加する販管費
RPAホールディングスは、デジタルレイバープラットフォーム「BizRobo!」を開発、販売するRPAテクノロジーズを傘下に置き、デジタルレイバーの新規事業への投資および企業へのコンサルティングサービスを提供する。同社は、ここ最近、売り上げを大きく伸ばす。だが、成長企業ゆえに抱える問題もある。それが、管理系業務だ。
ビジネスが拡大すると、その分受注管理や帳票管理といった管理系業務も増加する。業務量が増加すれば、1人当たりの負担も増えるため、管理部門の人員増強を検討しなければならない。当然、そうなると人件費や販管費は増え、コストの圧迫につながる。売り上げが年々拡大するRPAホールディングスもこの問題に悩んでいた。
だが、RPA導入においてある工夫をしたことで、部門の体制を変えることなく、管理業務を効率化できるようになったという。さらに、従来は、毎月約50時間を費やしていた請求書の発行、作成業務を5分の1にまで短縮できたというが、どう工夫したのだろうか。これから、同社の管理業務におけるRPA活用法について説明しよう。
RPAの導入で重要なのは「どこをロボット化するか」
RPAホールディングスが管理系業務の中でも特に悩んでいたのが、請求書の発行、作成業務だ。請求書の処理は毎月発生する定型業務であり、たとえ業務量が多い月であってもそのスケジュールは変えられない。忙しい時期であっても、作業量の平準化は難しく、月内の繁閑差は広がる一方だった。
従来の請求書作成のプロセスをフロー図にしたのが図1だ。受注が確定したら、まず事業部門から請求書一覧を取り寄せる。請求書一覧に新規顧客がある場合は、顧客マスターに新規登録する。その月の請求対象となる顧客マスターが整った時点で、請求額など必要な項目を帳票管理システムに入力する。その後、入力内容を目視で確認し、仕訳入力に移る。ここでも、会計システムに入力された仕訳データに間違いがないかどうかを目視で確認し、請求書を出力して郵送の手配をする。この一連の作業を全て人手で行っていた。月の請求業務に掛かる作業時間は、平均して50時間だったという。もちろん、取引量が増えると、この請求業務も増えるため、1人当たりの負担も大きくなり、人的エラーの発生原因にもなる。
人しかできない仕事とロボットに任せられる仕事
RPAホールディングスは、これをどうにかならないかと考えた。そこで、請求業務を分解して考えたところ、人の判断が必要な業務と、ロボットに置き換えられる業務があることに気付いた。
それぞれの作業ボリュームは、人の判断が必要な業務は20%、データ入力作業は80%という内訳だ。このように、業務のほとんどを入力作業が占めていたため、これをロボットに置き換えることで大きな工数の削減につながると考え、管理部門へのRPA導入を決めた。
RPA導入後は、人間の判断が必要な業務にのみ人が関わり、ロボットでもできる入力作業は全てRPAに任せるフローに変えた。中でも、特に大きな効果につながったのが仕訳入力だ。従来はこの作業に16時間を費やしていたが、これをRPAで自動化したことで大きな時間削減につながった。こうして、毎月50時間を要した請求業務を10時間にまで短縮できた。そのため、売り上げが拡大しても管理部門に大きな影響は及ばず、販管費や人件費も微増にとどまるという(図2)。
管理業務を効率化するためにした「一工夫」とは
このように、大きな時間削減につながったわけだが、「RPAを効果的に活用するにはポイントがある」と浦田氏は言う。
ロボットは限りある動きしかできないため、複雑な処理となると思うように処理が進まない場合がある。そこで、ロボットが動きやすいように、人間が”お膳立て”することが重要だという。
これを、先ほどの請求業務フロー(図1)で説明すると、RPA導入後に「入力フォーマット作成」というプロセスが追加されたことが分かる。これは、ロボットがデータを入力しやすいように、あらかじめフォーマットを作成したことを示す。このように、ロボットが動きやすいように、事前に準備したり、フローを変えたりといった「一工夫」が重要だという。ただ、RPAを導入してもこうした手間が掛かると、意味がないのではという疑問もあるが、これに対して浦田氏は「入力フォーマットの作成に20%の工数がかかったとしても、80%の労力が削減できるのなら十分にペイできる」と言う。
浦田氏は、今回の管理部門でのRPA導入の要点を次のようにまとめた。
- 入力作業はロボットが実行し、人間は判断作業だけに特化する
- ロボットが動きやすいようにフォーマット作成や業務フローの変更など、一工夫が必要
- 複雑なシナリオを実行するロボットを幾つも作るのではなく、ロボットはあくまでもコピー&ペーストのような単純作業を主とし、条件判断をともなう作業は人間が担当する
重要なのはロボットの限界を知ること
最後に、浦田氏はRPAを導入する前に注意すべきポイントについて説明した。
本来、各部門の業務フローは1本であるべきだが、業務フローが複数あるような状況では、業務フローごとにロボットを作ることになり、工数ばかりが膨らむ。そこで、業務をロボット化する前の事前準備として「部門業務の見える化」「業務の標準化と効率化」「担当者の作業のばらつきをなくす業務の平準化」が重要であるという。
浦田氏は「複雑な業務をそのままロボットに置き換えるのは難しい。ロボットの作業には限界があることを理解した上で、難しい業務には人の判断を組み合わせることで、ロボットの業務をシンプルにできる」とコメントした。
本稿は、「BizRobo!」を活用するユーザーコミュニティー「第1回BizRobo! CAMP!!」(主催:RPAテクノロジーズ)での講演内容を基に構成した。
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