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なぜ日本コカ・コーラは「SNSマーケ戦略」にハッシュタグを捨てAIを選んだか

消費者マーケティングに注力する日本コカ・コーラが次に挑戦したのは、SNSの投稿画像を使った消費者理解。そこで約7万点にも及ぶTwitterの投稿画像が集められた。そこからどうやって消費者心理を知ろうというのか。

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 今となっては、街や駅など至るところでコカ・コーラの赤い自動販売機を目にするようになった。このように生活にコカ・コーラが浸透した背景には同社の強いマーケティングの力がある。2016年には自動販売機とスマホアプリを連携させる「Coke ON」を発表するなど、デジタルマーケティングにも積極的だ。

 そんな挑戦を続ける日本コカ・コーラが次に考えたのは、SNSの投稿画像から消費者心理を読み解こうというものだ。SNSを活用したマーケティングは一般的だが、SNSの画像からどう消費者を知ろうというのか。本稿では、日本コカ・コーラの新たな戦略とその取り組みについて説明する。

コカ・コーラが飲まれている意外なシチュエーションを探る

 「当社はマーケットカンパニーである」と言う日本コカ・コーラは、消費者中心のマーケティングに注力する。消費者の気持ちを理解することで、リアルな消費者ニーズをつかみ、販売戦略に生かそうという。これを実行するのが経営戦略本部に置かれたナレッジアンドインサイト部門だ。同部門は独自予算を持ち、現場主体で動くボトムアップのマーケティング戦略を実行する。

 あるとき、同部門のチームメンバーは、コカ・コーラの潜在的なニーズを把握し販売戦略につなげるために、飲用シーンをもっと深く知ろうと考えた。パーティーや間食時に飲まれていることは考えなくても察しがつく。だが、まだ知らないシチュエーションはあるはずだと考え、Twitterの投稿から同社が把握していない飲用シーンを探ろうと決めた。

 実は過去にも、消費者の動向をつかもうとSNSの投稿内容を分析したことがあった。だが、テキストベースの分析では想定内の結果しか得られない。ハッシュタグも分析したが、消費者がハッシュタグを使って投稿するのはせいぜいキャンペーンの時ぐらいだ。

 そこで目を向けたのがTwitterの投稿画像だ。最近、コミュニケーション方法は若い世代を中心にテキストベースから画像を共有するコミュニケーションに移りつつある。投稿画像の中には、意図せずコカ・コーラが映りこんでいる画像もある。そこから飲用シーンを読み解こうというアイデアだ。

イメージやビジュアルを基にしたSNS分析への挑戦
イメージやビジュアルを基にしたSNS分析への挑戦

 解析対象にTwitterを選んだのにも理由がある。Facebookは報告や告知などオフィシャルな目的で使われることが多い。対してTwitterは短文で気軽に情報発信でき、消費者の本音が現れやすいと考えたからだ。しかも、即時性があるためリアルタイムで消費動向をつかめる。

 問題は、日々膨大な量の画像が投稿されるTwitterからどうやってコカ・コーラの飲用シーンを見つけ出すかだ。

問題は7万枚の画像からどうやって飲用シーンを探るか

 Twitterの投稿画像を基にした分析といっても、その数は膨大だ。どうすれば大量の投稿画像からコカ・コーラに関連した画像だけを見つけ出せるのか。

 この問題は、Googleが提供するAIの画像解析サービス「Google Cloud Vision API」とブレインパッドが日本で代理販売するソーシャルデータの分析ツール「Crimson Hexagon ForSight」を使って解決した。

 画像認識機能を備えたAIでコカ・コーラと関連のある画像を取り出し、画像に映っている情報を頼りに飲用シチュエーションを分析しようという考えだ。

 まずは、Crimson Hexagon ForSightを用いてTwitterの投稿画像から商品やロゴが映りこんだ画像約7万点を抽出した。だが、コカ・コーラの飲用シーンを知るにはこれだけでは情報が足りない。次に必要となるのは、「いつ、どこで」といったシチュエーションや消費シーンが分かる付加情報だ。それを知るには、コカ・コーラと一緒に映りこんだものが手掛かりとなる。

ピンボケやデザイン違いのものも含め約7万枚の画像抽出に成功
ピンボケやデザイン違いのものも含め約7万枚の画像抽出に成功

 それを知るために、Googleが提供する画像解析AIツール「Google Cloud Vision API」を活用した。一緒に映りこんでいるものにラベルを付け、映りこんでいるものが何であるかをAIが識別しやすいようにした。例えば、食べ物であれば「Food」「Cuisine」「Dish」「Meal」といった具合だ。このようにして、背景など画像に映りこんださまざまなものにラベルを付けた。

ラベルを付けることで「いつ、どこで」が分かる
ラベルを付けることで「いつ、どこで」が分かる

 しかし、AIが対象物を正確に識別するためには、ラベル付けだけでは不十分だ。さらに詳細な情報を知るためには、「自然>森>木」というようにラベルの情報を階層化し、整理する必要がある。これにはブレインパッドの階層クラスタリングの技術を使ってラベル情報を整理した。

 こうしたプロセスを踏んで、抽出した画像からコカ・コーラの飲用シーンを読み解く。例えば、右下のような画像があったとする(画像1)。付けられたラベルを基に、AIがこの画像を読み解くと次のようになる。

画像1
画像1
コカ・コーラのロゴが付いたコップ
ポップコーン
暗いシーン
チケットらしきものが映りこんでいる

 この情報から、画像1は「映画を見ながらポップコーンと一緒にコカ・コーラが飲まれている」といったことが推測される。このようにして、AIを使い、SNSに投稿された画像を基に「どのようなシーンでコカ・コーラが飲まれているか」をパターン分析した。

 この結果、約50もの消費シーンが確認できた。中には、高い山に登っているシーンも見られた。海水浴やバーベキューのときなど海で飲まれることはよくあるが、標高の高い山を登る際にもコカ・コーラが飲まれていることは知らなかったという。

シーン、心理の考察
シーン、心理の考察

「シーンの裏にあるもの」をAIは読み取れるか

 このようにして、AIによってある程度は飲用シーンを特定できるが、最終的にシーンの意味を理解するには人間の力が必要となる。先ほどの画像から「映画館でポップコーンと一緒にコカ・コーラが飲まれている」ということはAIでも推測できるが、「デートで映画館に行き、ワクワクした気分で上演前にポップコーンを食べながらコーラを飲んでいる」など、シーンに意味付けをできるのは人間だけだ。

「情報整理」はAIに、意味理解は「人間」で
「情報整理」はAIに、意味理解は「人間」で

 この点について日本コカ・コーラの経営戦略部門 ナレッジアンドインサイツ ディレクターを努める小林康二氏は「画像の抽出や分類といった点では人間よりもAIの方が優れているが、シーンの構造理解や背景にある人間心理を推察するのはまだ難しい。AIのアウトプットと人間による考察を組み合わせることで、より深い意味理解ができる」と語り、AIを活用したマーケティングにも、マンパワーは必要であることを示唆した。

 「Google Cloud Vision API」のように、APIを通して一般企業も簡単にAIを使える時代になった。今後は、さらにAIをビジネスに活用するケースが増えてくるだろう。

本稿は、2018年11月15日に開催された「Google Cloud Vision メディアセミナー」(主催:Google)の日本コカ・コーラ 経営戦略部門 ナレッジアンドインサイツ ディレクター 小林康二氏の講演内容を基に構成した。

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