Dropboxが変えた建設現場、増え続けるNASをどう移行した?(1/3 ページ)
IT基盤の刷新に取り組む飛島建設だが、工事現場の膨大なデータ管理に苦戦していた。解決策として現場ごとに設置したNASをクラウドストレージに移行することを決意。しかし、道のりは平たんなものではなかった。成功の鍵とは……?
数キロも離れた現場から事務所に戻り、データを確認しなければならない――創業136年を迎える飛島建設は、年間100を超えるプロジェクトでこうした課題を抱えていた。どこからでもデータにアクセスできるようにすることで、現場の働き方を何とか変えられないか。
打開策としてクラウドストレージを導入したが、活用を始めるまでにはさまざまな課題が立ちふさがった。「大容量の図面や資料などをストレスなく同期できるのか」「地下やトンネルなどネットワークがつながりにくい環境にどう対応するか」「現場ごとに乱立したNASのデータをどうやって移行するのか」。Dropboxを使った飛島建設の働き方改革を追った。
現場と事務所のロスが多い往復、残業を招くワークスタイル
道路やトンネル、ダム、上下水道、大規模建築物などの社会インフラを構築し続けてきた老舗企業の飛島建設は、現場の働き方に課題を抱えていた。「図面や施工資料のデータは、現場から離れた事務所のNASで管理し、事務所のPCでしか確認できなかった」と振り返るのは、飛島建設 管理本部 情報システム部 課長の小澤 敦氏だ。
「現場で必要なデータは、現場に行く前に事務所でNASから端末にコピーするか、現場からいったん事務所に戻って確認しなければなりませんでした。場合によっては1日に5〜6回、こうした時間と労力のロスがありました。例えばシールドトンネル工事の現場は事務所から数キロ以上も離れていることがあります。移動のためにスタッフが効率的な業務を行えない状況でした」(小澤氏)
クラウドとモバイルを中心にしたIT基盤の刷新の動きはあった。2013年度には主流だったデスクトップPCをノートPCに全て置き換え、2014年にはiPadを導入、2016年にはスマートフォンを全従業員に支給した。基幹系システムとファイルサーバなどの情報系システムをMicrosoft Azureに移行し、どこからでも社内情報にアクセスできる環境を整えつつあった。しかし、工事現場IT基盤の刷新は、地理的条件や規模の大小、JV(ジョイントベンチャー)など個別の制約条件が多く、有効な手を打てずにいた。
「せっかくのモバイル端末もOSの違いなどからNASにアクセスできず、結局は現場で入力したデータや写真、動画を事務所に戻ってからNASに書き込むという運用が続いていました。残業を招くワークスタイルだったと思います」(小澤氏)
Dropboxを選んだ理由は、工事現場特有の事情にあり
オンラインストレージが解決策の候補に挙がった。クラウドにデータを保存できればモバイル端末でデータにアクセスできるだけでなく、NAS運用の問題点も解決される。災害による障害や停止を回避するためのバックアップの手間もない。増加し続けるデータを保存する手段としても有効に思えた。
「工事現場には、仕様書、CAD図面、関連ドキュメント、報告書、写真、動画など、さまざまなデータがあります。施工も長期にわたり、データはさらに増加しますが、NASの容量拡張には手間とコストがかかりがちでした。オンラインストレージならば、容量無制限なので業務の生データの他、法的保管義務のあるドキュメントの長期保管も可能です」(小澤氏)
同社は数あるオンラインストレージの中からDropboxを選んだ。決め手は「使い勝手」と「同期スピード」だ。個人向けのサービスで使い慣れたDropboxであれば従業員が使い方で迷うこともない。コンテンツの同期スピードが速く、大容量ファイルを扱ってもストレスが少ない。
「Dropboxは、ブロック単位での差分同期機能や同一LAN上の端末同士でファイルを同期する機能があり、大容量のデータであっても素早く転送できます。ファイルやフォルダごとに同期するか否かを選べる『スマートシンク機能』によりモバイルPCなど容量の少ない端末で使えることも決め手になりました。山間部や離島、地下といった通信が届きにくいシビアな環境に強いこともありがたい」(小澤氏)
2017年から3つの現場でDropbox Businessの試験導入が始まった。しかし、いざ試行を開始してみると課題が見えてきたのだ。
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