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電通が考える「なぜAI開発は失敗するのか」つまずいて分かった4つのワナ

気が付けば、AIを取り入れることが目的化している。そういったケースは往々にしてあることだ。しかし電通はそうした「自己満足のAI開発」に警鐘を鳴らし、これからのAI開発に必要な視点を語った。

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 広告代理店の電通はAIに対して前向きで、AI開発プロジェクトを幾つも立ち上げる。さまざまな部門のメンバーが集まって構成された全社横断型の組織「AI MIRAI」を立ち上げ、AI開発に試行錯誤しているところだ。

 これまでに、広告コピーを自動生成するAIコピーライター「AICO」やバナー広告を自動生成する「ADVANCED CREATIVE MAKER」、SNS広告のクリック率予測アルゴリズム、テレビ番組の視聴率予測AI「SHAREST」、リアルタイムで流行を追跡しトレンドを予測する「TREND SENSOR」など数々のAIプロダクトを生み出した。

 成功したプロジェクトもあれば、日の目を見ることなく消えたプロジェクトも多くあったという。失敗から学んだAIプロジェクトの勘所について、AI MIRAI 統括/AIビジネスプランナーの児玉拓也氏が語った。

AIを妄想する時代は終わった これからは「AIで何をしたいか」

電通 児玉拓也氏
電通 児玉拓也氏

 「AIを基点に、何ができるかを妄想する時代はもう終わった」。児玉氏はそう語った。AIという技術そのものに価値を感じる時代は終わった。これからは、AIを使ってどう課題を解決するかというアイデアが重要であり、課題ベースでAIを考えることが必要だと続けた。

 電通で今までに取り組んだ46件のプロジェクトのうち、15件は何らかの形になり、11件のプロジェクトは完全に失敗したもしくはお蔵入りしたプロジェクトだという。成功率はおよそ3分の1だ。

 児玉氏の説明を基に、失敗から得た教訓を以下にまとめた。

教訓その1:解決すべき課題と求められる精度を見定めろ

教訓その2:データに関する肌感覚がAIプロジェクトの成否の鍵

教訓その3:とにかく早く失敗し、失敗経験者をメンバーに入れよ

教訓その4:利用者と利用シーンを見定めてから走れ


 AI開発における4つのステップ(プロジェクト設計/データ収集/アルゴリズム開発/評価)での失敗経験から得た教訓を見てみよう。

教訓その1:解決すべき課題と求められる精度を見定めろ

「プロジェクト設計」での失敗エピソードと教訓

 現在、人力で行っている作業を画像認識系のAIを使って自動化しようと、開発プロジェクトを計画した。しかし、その作業には非常に高い精度が求められるため、現在も人手によって二重三重のチェックを交え対応しているという。皮肉にも、既に人間が一番効率的に対応しており、わざわざAIを使う意味がなかった。


 AI開発で必要なのは、解決すべき課題を見極めること、求められる精度を事前に把握することだ。それらが曖昧(あいまい)な状態でプロジェクトが走りだすと、このエピソードのように、失敗に終わる可能性がある。

 解決すべき課題を見極めるには、あれもこれもと考えるのではなく「本当にAI化が必要なのかどうか」という視点をもって考える必要がある。また、どれだけの精度が求められる作業なのかも重要なポイントだ。AI化したところで作業精度が変わらない可能性もある。また、求められる精度が高すぎると「AIだけでは不安だから、人の手も必要だ」ともなりかねない。そうなると、時間とコストを掛けてAI化する意味がないため、事前に課題と精度の確認は重要だ。

教訓その2:データに関する肌感覚がAIプロジェクトの成否の鍵

「データ収集」での失敗エピソードと教訓

 AIを活用して既存サービスをアップデートしようという話になった。しかし、入力に対する出力をAIに学習させるための教師データが足りないため、外部企業が開発した学習済みAIを利用し、開発に移った。それなりのシステムが完成したものの、学習済みAIの利用料とサービス収入が釣り合わず、お蔵入りのプロジェクトになってしまった。


 AIに高度なアルゴリズムを求めると、当然データ量も増加する。プロジェクトに必要なデータ量を見極めなければ、このような「赤字システム」を生み出してしまう可能性がある。

 児玉氏は「データの見極めがAI開発の8割」と言い、適切なデータ量を見極められる「肌感覚」が重要だとする。プロジェクトの成否の鍵は、この肌感覚を身に付けられるかどうかだ。

教訓その3:とにかく早く失敗し、失敗経験者をメンバーに加えよ

「アルゴリズム開発」での失敗エピソードと教訓

 AIを使って予測モデルを立てるプロジェクトを立ち上げた。しかしベンダーからは、それを実現するには複数のアルゴリズムを組み合わせる必要があると言われ、コストが高いと思いながらも、ひとまずベンダーの提案通りにプロジェクトを遂行した。しかし、思うような予測精度が出ず、気が付けばコストだけが膨らむ「金食い虫」のようなプロジェクトになってしまった。


 一番の失敗ポイントは、プロジェクトメンバーが開発者サイドの要求をうまくくみ取れていなかったことだ。アルゴリズムの違いや必要な組み合わせを理解しないままベンダーに相談し、送られてきた見積書を見ても確認すべきポイントが分からない。また、どのベンダーも「うちに任せてください」と得意気に話すが、十分な知見を持っていなければ、適切なベンダー選定も難しい。

 「AI MIRAI」では、社内の失敗事例を集合知化し、経験値のあるメンバーがフォローに入り、組織的に対処できる工夫をしているという。児玉氏は「経験値が足りない場合は、できるだけ早く失敗し自らで経験値を上げる、もしくは経験者や過去に失敗を重ねてきた人をメンバーに加え、一緒に経験を積んでいくしかない」とした。

教訓その4:利用者と利用シーンを見定めてから走れ

「評価」フェーズでの失敗エピソードと教訓

 死蔵されたテキストデータから新しい知見を得ようと、テキストマイニングや自然言語処理を使ったシステム開発に着手した。プレゼンでも評価が高く、これは有用なシステムとなるだろうと考えていたが、実際は通常の業務フローにただプラスオンするだけのもので、気が付くと、誰も使わないシステムになってしまった。


 良いシステムだからと言って、必ずしもそれが誰にでも使ってもらえる有用なものだとは限らない。開発者が「誰が、いつ、どうやって使うのか」をイメージし、利用メリットを明確にしなければ、失敗してしまう。そうならないためにも、利用者に近い立場の人を巻き込んで、使う人やシーンを見定めてから走り出すのが得策だとする。

 「AI MIRAI」では、誰がどう使うのか、どうビジネスメリットがあるのかを必ず明確にし、それを鉄則としているという。児玉氏は「これを使うと便利になりみんな喜ぶだろうと思って作ったAIは使われない。『自分はこれを仕事で使いたい』という一人称で進めるプロジェクトの方が成功する傾向がある」と説明する。

 この失敗から、誰がいつ使うのか、それがビジネスとして成り立つのかを考え、技術力の高いベンダーだけではなく、同じ目線でサポートする協力者と一緒に進めることが重要だと分かった。

AIを乗りこなすにはマーケティング的発想が必要

 児玉氏は、AI活用に必要な視点として「ROI」(Return On Investment)の「R」(Return)をよく考えるべきだとし、「AI開発においても投資に対する利益率が問われるようになった。だが、ROIのR(リターン)は立場によって変わる」と続けた。

 広告コピーを自動生成する「AICO」は、もともと電通のコピーライターの工数を削減するために開発されたものだった。やがて、営業がAICOを使って顧客にコピー案を提案するなど、クリエイター以外の部門でもAICOの活用が広がった。これにより、営業やプランナーの仕事も変化しているという。また、広告代理店以外の企業からも「AICOを販売してほしい」といった相談が多く寄せられているという。

 「もともとは現場が仕事を楽にしたいと考えAICOを開発したが、見る人によってその価値が違うことが分かった」(児玉氏)

 同じように、視聴率予測AIの「SHAREST」も、然るべきターゲットに見てもらえるよう広告出稿を最適化したいという考えから生まれたものだったが、テレビ局が新しい番組を計画する際に役立つことも分かった。

 このように、たとえ現場レベルではROIが釣り合わなくても、別の目線から見れば大きなイノベーションの種になることもある。自社ではたいしたことはないと感じるプロダクトでも、他社ではのどから手が出るほど欲しいと思える場合もある。日本の組織は縦割りで、自部署だけで意味があるかないかを考える傾向があるが、いろいろな視点を掛け合わせて評価することが重要であるという。

 最後に児玉氏は「技術だけを考えるのではなく、広い視野を持ってユーザーや課題を考えることが重要。そうすることで意味のあるイノベーションや変化が生み出せる。これは広告やマーケティングに近いアプローチである。それが、AIを乗りこなす秘訣(ひけつ)だ」と語った。

本稿は、2019年2月13日に開催された「THE AI 3rd」(主催:レッジ)における「AIの『乗りこなし方』:これからのAI活用に必要な視点」の講演を基に構成した。

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