費用1000万円以上は普通――ライオンの「口臭チェックアプリ」で学ぶ、AI活用の勘所(3/3 ページ)
ライオンがAI画像認識の技術を活用した口臭チェッカ―アプリを開発した。「AI活用ではデータの前処理に工数がかかる」「本開発に6カ月、費用は1000万円以上がかかるのが普通」といった知見を得たという。同社が語るAI活用の勘所とは。
本開発に6カ月、費用は1000万円以上がかかるのが普通
講演には、開発パートナーである富士通クラウドテクノロジーズの西尾敬広氏も登壇。AIプロジェクト開発の経験を元に、AI活用のポイントを語った。
同氏はまず、「AIの価値は3つある。1つは属人化を防ぐこと、もう1つは省力化すること、そして品質を向上させること」と提言。多くの場合は品質向上をKPIとして判断するが、属人化防止と省力化に重きを置いた方が、定量的な効果を出しやすく、ビジネスインパクトを可視化しやすいと話す。
さらに、データの前処理の重要性についても言及し、データを作る時点で欠損や問題をなくすことが肝だと説明。「約90万件のデータを顧客が持っていたとしても、実際に使えるのはそのうち20万件にすぎないということがよくある。データの間違い、データの抜け(空欄)の他、同じ意味のものが別の用語で入っていたり(重複)、画像が粗いなどの問題があったりすればAIでの成果が出にくい。データを作る時点で気を付ける必要がある」と語った。
このように、AIプロジェクトには工数や時間がかかることが分かる。西尾氏も「AIプロジェクトはPoC(概念実証)に3カ月、本開発にミニマムで6カ月、費用は1000万円以上がかかるのが普通。コストと時間に対してアウトプットのリターンがどれだけあるかを試算すべきだ」とアドバイスを送った。
自社でデータサイエンティストの育成が必要
AI開発にはサイエンティストの活用も必須だという。それも、ただアサインをすればよいわけではなく、特定業界のバリューチェーンを理解し、データの重要性や意味をきちんと理解できる、ドメインの知識を持ったデータサイエンティストの活用が大切だ。
ドメイン知識は自社のスタッフのほうが豊富な場合が多い。そのため「ベンダーに丸投げせず、業界バリューチェーンを理解した自社の担当者にプロジェクトに参加してもらうことが必須だ」という。自社のスタッフがコミットできれば、外部のデータサイエンティストにドメインのスキルやナレッジをトランスファーできる。
さらに、外部のデータサイエンティストに頼る方法ではなく、ドメインの知識がもともとあるスタッフに、データサイエンスの教育をすることがベストな体制だと西尾氏。
「社内のスタッフに、数学的な知識や統計、機械学習を広く浅く学習させ、Pythonが書けるまでに育成していくことも必要だ。AIプロジェクトは、データエンハンス、モデルエンハンスなどの運用を通してモデルを改善する作業を要する。全てをベンダーに依頼すると、高額になる場合もあるため、社内のスタッフを1人は巻き込み、肌感覚で教育していけばよい」(西尾氏)
本稿は2019年2月13日の「The AI 3rd」フォーラムでの講演を基に再構成したものです。
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