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食品ロス削減へ、入社2年目のITプロが挑んだ飲食業界の経営大改革

「ブラック企業」からSDGs先進企業へーー入社2年目のITプロが取り組んだのは業務システムを使った食品ロス削減と経営改革だ。なぜ食品ロス削減が経営改革につながったのか。

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食品ロス削減推進法施行で、外食産業は「がむしゃら労働型」からどう変わるか

 2019年10月、「食品ロス削減推進法」が施行された。外食産業を含む食品業界全体で2030年までに食品ロスを現在よりも2割削減することが求められている。こうした中、ワタミは「食品ロス削減の推進に関する共同宣言」を発表。顧客とともに食品ロス削減に取り組むことを宣言した。他方、基幹系システムも刷新し、さらに食品ロス削減に尽力するという。

 食品ロス削減ではフードバンクなどの取り組みに注目が集まる。だが、外食産業の基幹系システム刷新も、食品ロス削減に貢献し、経営の高度化にもつながるのだという。ワタミの実際の取り組みを聞いた。

 ワタミは2014年以降、いわゆる「ブラック企業」問題の中で業績が悪化、多角化の主軸だった介護事業を売却、現在は外食を中心に、宅配弁当(宅食)、環境、農業分野で事業を軸に経営再建を進める。足元の業績は下げ止まりの兆しもあるが、2019年3月期の売上高はピーク時の6割程の947億円まで落ち込んだ。2019年10月には創業者の渡邉美樹氏が会長に復帰。経営体制を刷新してさらなる業績回復を目出す状況にある。

 こうした中、ワタミは主力事業である外食と宅食を中心にグループの財務会計、生産管理などの基幹系システムも刷新。2019年10月から本番稼働を開始した。インフォアジャパンが12月に開催した記者会見で詳しい説明があった。本稿ではその内容を紹介する。

入社した直後に「ムリ・ムダだらけ」が明らかに


ワタミ 若林 繁氏

 登壇した同社経営企画本部IT戦略部 部長の若林 繁氏は、システムエンジニアとして30年近く企業のさまざまなシステム開発を担ったベテランだ。若林氏は2018年1月にワタミに入社。初めて事業会社でITシステムの刷新をリードすることとなった。

 入社当時、社内システムは長年の事業多角化や業容拡大、さらに撤退等の変遷の中で、統制の取れない状態で放置されていたという。

 「入社してすぐに社内の情報システムを全部書き出してみた。すると非常にムリ・ムダが多いことが分かった」(若林氏)

入社4カ月目で食品ロスをなくすサプライチェーンの刷新を企画

 特に主力の外食と宅食では、全く異なる2つの手組みシステムが動いており、データベースも別々に運用していた。それぞれに高価な分析環境も持っていたが、コード体系も勘定科目なども統一されていないため、決算時には担当者がExcel形式でそれぞれのシステムからデータを取り出して手作業で合わせ込んでいた。当然、リアルタイムのデータを見ることはできず、手作業に起因するミスやその調査にも時間がかかる状況だった。

 「ここを改善するだけで、かなりの効果が出ることを確信した。逆に言うと、適切なシステムに変更すれば『いとも簡単に効果が出る』という見込みがあり、経営にもコスト削減効果を示して議論を進めていった」(若林氏)

 若林氏は、入社して4カ月目までにIT革新のロードマップを作成。そしてその4カ月後の2018年9月にはベンダー選定などのプロセスを一気に進めた。このとき、若林氏が重視したのは次の4点だ。

ポイント1:11の食材工場全体のサプライチェーン管理高度化とトレーサビリティ向上

 ERP刷新に当たっては、国内にある11の食材工場(外食向け2拠点、宅食向け9拠点)と店舗をつなぐサプライチェーンの改善を目標の1つとした。例えば食材の仕入れを「丸鳥1羽」で管理していたところを、「ササミ」「もも肉」「手羽先」「手羽元」などに分けて部位ごとに個別に管理できるようにし、仕上がり食品に必要な食材の構成表と食材情報をつなぐことができれば、トレーサビリティーが向上し、食品ロスを極力少なくすることができる。

ポイント2:業務の脱Excel、店舗情報のリアルタイム計測と将来予測

 業務プロセスの標準化では「Excel作業をゼロにする」を目標に、コード、管理体系を標準化する。さらに店舗の売り上げ管理では、売れ筋のリアルタイムな確認とともに、予測分析機能も要件に入れた。

ポイント3:標準化、共通化を前提にTCO削減を目指す

 ベンダー選定では標準化、共通化にこだわった。「まず世界標準のERPを使うことを条件にした。ベストプラクティスを業務改革の土台にしたいと考えたからだ。次に部門ごとのコード標準化。またTCO(運用コストも含めた全体のコスト)削減も目指した」と説明する。

ポイント4:厳格な原価管理やリアルタイム状況分析

 分析基盤はリアルタイムのダッシュボードを作ることにした。またKPIの設計や管理を厳密化して、実績を基に業績を把握できる環境を整備した。「これまでは事業部ごとの実力値が見えていなかった。POSデータ、CRMによって、販売のデータを原材料にしっかり反映させてKPIを管理することで、ワタミが目指す循環型の6次産業モデルに変えていく」。

 若林氏は、これらの条件をスコア化して各ベンダーのERPを比較検討した。その結果インフォアの「CloudSuite」を採用することに決定した。

 インフォアが提供するERPの最大の特徴は、グローバルで展開するERPベンダーのクラウドサービスでありながら業界特化型のERPを21種類も提供している点だ。それぞれの業界に合わせて3種類の「ERPコア」を使い分けて製品を開発している。ワタミが採用しのは食品・飲料業界向けの『フード&ビバレッジ』だ。

 若林氏は、インフォア選定の理由を次のように語る。

 「契約前の段階でベンダーの担当者と技術的なことも含めて突っ込んだ協議ができたことが決め手。インフォアは独自の開発手法、タスクの定義を持っており、メソトロジーがしっかりしていると感じた。また、世界標準の実績のあるテンプレートを有効活用できた点も良かった。また世界3位のSaaSのERPベンダーとして、社内の体制がしっかりしている。カスタマーサクセスマネジャーが、サービスをローンチしたあとでも手厚いサポートを提供してくれている」

経営のデータドリブン化も実現、ビジネスITチームによるデジタル変革促進を目指す

 ワタミではクラウドERPを含む新たな全社ERPシステムを「COSMOS(Global Corporate Strategy Monitoring System)」と名付け、2019年10月から本稼働している。

 工場の新しいサプライチェーンマネジメントも、既に3工場で稼働開始しており、2020年2月には国内11工場が全て本稼働する。「2020年度の決算は新システムで出すことができる」と若林氏は話す。

 若林氏はERPと同時に導入したインフォアの分析エンジン「Birst Enterprise」も高く評価する。「分析ダッシュボードでマウスオーバーしてもレスポンスがいい。例えばある月の売り上げをドリリングしたいようなときも、クリックするだけですぐ詳細なデータを見られる。こんなスピード感はいままでなかった」。これにより目的の1つだったリアルタイムの分析が実現しているという。

 ワタミは今回のERP基盤刷新による想定のコスト削減効果を、2021年度に約2億9000万円と見ている。これに従来システムからランニングコストが削減される分の約3000万円を加えると、合計約3億2000万円の削減効果が出る見込みだ。

 ワタミ入社から2年足らずで基幹システムを刷新する大仕事を成し遂げた若林氏だが、クラウドERP導入後の計画を、次のように語る。

 「今回のIT戦略部のミッションは、新しいシステムを導入するだけではなくて、実際に成功事例をちゃんと作り、組織改革を実施することがゴールのイメージだ。COSMOSの導入は、2020年2月に完了するが、開発メンバーは『ビジネスITチーム』と名称を変えて、新システムによる業務ソリューションを展開していく。まず1つ拠点を選んで、IT活用による運用で最高のパフォーマンスを出して成功事例を作り、残りの10拠点に展開することを目指す」

 さらに、その先にはデジタルマーケティング、CRM、IoT(モノのインターネット)、人工知能(AI)など「攻めのIT」の導入と活用を見込んでいるという。将来、先端ITを駆使するためにも、今回の業務基盤再構築が必要だったということだろう。

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