SaaS導入は停滞期? 基幹系刷新が迫る影でSaaS移行を踏みとどまる企業が増加傾向に
キーマンズネット会員1329人を対象に「SaaS型業務アプリケーションの導入意向」を調査した。働き方改革を後押しに導入が進んでいると想定したが、想定外の阻害要因によって現場は「停滞期」にさしかかっているようだ。
キーマンズネット編集部では2020年に注目すべきトピックスとして「セキュリティ」「クラウド活用」「情報共有」「DX人材」「AI導入」「RPA」「働き方改革」の7つのトピックスを抽出し、読者調査を実施した(実施期間:2019年11月22日〜12月20日、有効回答数1329件)。企業における2020年のIT投資意向と併せて調査結果を全8回でお届けする。
第3回のテーマはクラウド(ここではSaaS型業務アプリケーション)について調査した。
調査サマリ
- 業務におけるスプレッドシート「占拠率」は7割超、SaaS利用は7.1ポイント増にとどまる
- SaaS利用意向に変化「検討した結果、移行しないことに決めた」が増加
- 「2025年の崖」対策に追われ、個別のSaaS導入は停滞モードに
業務におけるスプレッドシート「占拠率」は7割超、SaaS利用は7.1ポイント増にとどまる
アンケートではまず、回答者が業務でどのようなITツールを利用しているかを尋ねた(複数回答)。前回の調査と同様、Excelに代表されるスプレッドシートの利用率は76.6%と非常に高く、次いでWebアプリ型(56.2%)、クライアント/サーバ型のオンプレミスシステム(49.5%)、SaaS型(41.8%)の順となった。オフコンは7.4%だった。
1年前に実施した調査と比較すると、スプレッドシートの利用率は15.9ポイント増加した。また、Webアプリ型の社内システムは3.1ポイントの増加、SaaS型は7.1ポイントの増加となった。
一方、クライアント/サーバ型のオンプレミスシステムは1.9ポイント減少した。オフコンは0.9ポイント減少した。
個別のツール別ではCRMとクラウドストレージの導入意向が高い
では個別のSaaSアプリについての導入意向も調査した。その結果、既に導入しているSaaSでは電子メール(70.5%)やグループウェア(62.4%)が筆頭に挙がった。以下、勤怠管理システム(44.0%)と続いた。
今後導入予定のSaaSではCRM(19.0%)、クラウドストレージ(18.6%)が上位となった。
SaaS利用意向に変化は? 「検討した結果、移行しないことに決めた」が増加
さらに調査では業務支援ツール類をクラウドサービス(SaaS型業務アプリ)に切り替える意向があるかどうかを尋ねた。その結果「ほとんどをSaaS型業務アプリに置き換えた」とする回答が微増となった他、多くの項目が1年前の調査と近い結果となった。
「移行を検討中」とした回答は1年前と比較して22.8%から17.3%と、5.5ポイント減少した。また、「移行を予定しない」とした回答は37.5%と、前年(32.2%)と比較して、5.3ポイント増加した。
このことから、「検討中」だった企業のうち、「計画」や「導入」フェーズに移行した企業よりも検討した結果、「移行しない」と結論付けた企業が一定数存在することが推測できる。
内訳を大別すると、「試算したが思ったほど安くならなかった」と、コスト面のメリットが見いだせないことを挙げる声が一定数あった。IT機器などへの投資が不要になることはあるにせよ、ライセンスはそう安いわけではない。運用負荷削減など、コスト以外の部分にメリットを見いだせない場合は移行しにくいことも考えられる。
他には導入部門側の利用スキル不足が課題となり、断念したとする意見も多く寄せられた。
そもそも導入するつもりがない、とした回答者はコストや事業規模的に必要としない、といった声の他、社内や事業部門側からSaaSを利用しようという要望が挙がらない、具体的なメリットやデメリットを理解する人材がいない、といった声も挙がった。
働き方改革関連法案対は一段落したものの今は2025年の崖問題が課題
今回のアンケートで特筆すべき点は、SaaSを活用する予定はあるものの、別の大型プロジェクトで多忙なため身動きが取れないという声が複数寄せられたことだ。中でも、全社規模で基幹業務システムの刷新を控える企業の場合、最終的な基幹系システムとの接続性も検討する必要があるため、現段階で部分的なSaaS導入を検討できないとする意見もあった。
働き方改革関連法など、社外でも柔軟に業務を遂行する環境作りを検討する企業が増加する要因が多かった1年前と比較して今回の調査では検討の結果、導入を見送る姿勢を明らかにした企業が増えた形となった。新たな導入検討企業が増えなかった背景には、基幹システムの刷新など、より重要度の高いシステムの移行プロジェクトが立ち上がったことから、周辺のアプリケーション類の刷新を見送る考えにシフトしたことが考えられる。
業務効率や生産性を最大化するには基幹系システムとの連携や、どの機能を基幹系システムに委ねるかなど、全体像の再設計が必要なことから、業務全体の改革を前提としたSaaS導入のような、ポジティブな利用が増加するのは今後のことになると言えそうだ。
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