勤怠管理システムの利用状況(2019年)/後編
中小企業に対して1年間の猶予が設けられた残業時間の上限規制も、2020年4月から適用が開始される。働き方改革関連法が施行されてから1年がたとうとするが、企業の対応状況はどこまで進んでいるのだろうか。
キーマンズネットは2019年12月20日〜2020年1月10日にわたり、「勤怠管理システムの導入状況」に関する調査を実施した。全回答者数130人のうち、情報システム部門が35.4%、製造・生産部門が18.5%、総務・人事部門が8.7%、経営者・経営企画部門が5.4%といった内訳であった。
今回は、2019年4月1日に施行された「働き方改革関連法」に企業がどこまで対応できているかなどを中心に調査を実施した。グラフ内で使用している合計値と合計欄の値が丸め誤差により一致しない場合があるので、事前にご了承いただきたい。
働き方改革関連法への対応、約3割が”未実施“
前編では2018年11月に行った前回調査時と比較して、勤怠管理システムの導入率が6.4ポイント増加し全体の約9割で導入されていることなどに触れ、その背景に2019年4月1日施行の「働き方改革関連法」への対応が大きく影響しているものと考察した。そこで、後編では主に働き方関連法への対応状況について紹介しよう。
最初に、働き方改革関連法で規定されている「時間外労働の上限規制」において残業時間管理の対応状況について尋ねたところ、「対策している」が72.3%、「対策を検討中である」16.9%、「何も実施していない」10.8%という結果となった(図1)。時間外労働時間の上限は原則として月45時間、年間360時間を超過してはならないとされており、大企業は2019年の4月から、中小企業においては1年間の猶予が設けられ2020年4月から対応が求められている。検討中を含め対応“未実施”の企業は27.7%と全体の3割ほど存在する。
残業時間の上限規制対策は“アナログ運用”が主流?
それでは、残業時間の上限規制における対策として具体的にどういった対策を進めているのだろうか。時間外労働の上限規制への対策を「実施している」とした層に対策の内容を聞いたところ、「各部門長に毎日各自の残業時間の現状をメールで報告している」「残業を事前申請制度にした」「人事部門が監視していて上限を超えそうな場合、本人に改善指示が出る」など、残業時間の報告や事前申請をあえて本人に行わせることで煩わしさを与えて残業時間の削減を図る方法や、本人以外の上長や人事部門が残業時間を監視してアラートを出すなどアナログな運用を実施しているとの回答が目立った。
もちろん「上限に近づいた時、該当社員と上長に自動的に警告メッセージを表示する」「PCの電源ON/OFFログと勤怠システムの打刻時間のすり合わせを行う」など自動運用を行っているケースや「在宅勤務の充実」「業務配分の可視化」といった根本的に働き方を見直すような環境整備を行うケースも一部挙げられた。
一方、対策を実施していない企業の理由では「対策を実施する余裕がないため」「原因分析できていないので対策を立てられない」といった声が寄せられた。そもそも自社の労働環境における問題点が把握できていなかったり、問題点は把握していても対策を実施するマンパワーが不足していたりするなどで実施に至っていないケースも少なくないようだ。その他「中小企業なので一年間の猶予があったから」といった法施行後、中小企業に与えられた1年間の猶予期間を活用して運用検討をじっくり行う例もあった。
読者の声から分かった勤怠管理における“2大”課題
最後に全体に対して、勤務先の勤怠管理方法について感じている課題や問題点を聞いた。大きく分けて「システム導入や運用に関する課題」と「管理体制や制度面の課題」の2つに分類できた。読者から寄せられたコメントを紹介しよう。
まずシステム面での課題だが「PC電源のON/OFFや建物入退館と連動していない」「スマホなど外部からのアクセスができない」「予定表や出張申請システムと勤怠管理が連携されていない」といった使い勝手の面で非効率な運用が発生していることへの不満が多く挙げられた。また「事業所外労働に関する管理、特に自宅からのリモートアクセスなどの管理ができていない」「事業所個別の就業ルールがあってシステムロジックが複雑になっている」「内勤者と現地作業者との管理方法が統一できない」など、実際の勤務体系や労働実態を正確に把握しきれていないシステムの現状を課題とする声も目立った。
管理体制や制度面での課題については「各拠点で管理方法が統一されていない」「テレワークに関する規定整備がされていない」など、そもそも法令順守に当たって勤務先でどのように労務管理するか、拠点や雇用形態、勤務体系などが従業員によって違った場合にどのように管理を実施するかのルールが定められていないといった点を問題視する意見があった。これは何よりもまず優先して策定すべき事項だろう。その上で「仕事柄、障害対応など突発的な対応がある。会社全体で計画外の作業をどのように管理していくかかが課題だと思う」「残業の妥当性の判断が難しい」といった自組織における細かな規定や定義の認識合わせをして体制や制度に落とし込み、システム仕様との整合性を図るべきだろう。
日本が直面している少子高齢化に伴う生産年齢人口の減少を解決する手段として「働き方改革関連法」が施行されたこともあり、多様な働き方と生産性の向上に取り組む企業は増加傾向にある。一方で法令順守を背景に急ピッチで環境整備を進めてきた企業では、ここまで紹介してきたように現場の運用で混乱が生じているケースが少なくないようだ。「やはりサービス残業が多く、早朝出勤も多い」「出勤は確認するが、退勤時刻は確認しない。夜間と土日夜勤務時間は把握していない」といった声もあり、労働実態が伴っていない現場では生産性が低下したままの状態で運用されているケースも多々あるだろう。
いま一度、自組織が目指す働き方とは何なのか、それを実現するための人事制度や運用体制、管理体系にシステム面での支援はどうあるべきかなどを考える必要があるだろう。そして従業員が多様な働き方を選択できることで得られる生産性の向上や優秀な人材の確保などの経営メリットを享受する企業が増えることが、結果として日本全体の成長につながっていくと考えられる。
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