IT資産のライフサイクルを考える PC、サーバ、ネットワーク機器の耐用年数計画、設計虎の巻
IT資産の減価償却の年数と実務で妥当な年数はやや違う。PCは4年、サーバなどその他の機器は5年と定めらているが、業務を円滑に進めるには別の考え方も重要だ。
多くの企業はPCやサーバといったIT機器の更新時期を4〜5年とすることが多い。税制上定められた減価償却の期間に即している。しかし「秒進分歩」ともいわれるITの世界で、5年というのは決して短くない時間だ。使っているうちに機器が陳腐化したり故障率が上がっていくことも考えらえれる。事業環境の変化も激しい現代では、気が付いたら業務システムが業務に合わなくなっていた、などということもあり得るだろう。
そこで機器の導入から使用の終了・更新までをコストや生産性などの視点からマネジメントする「ライフサイクルマネジメント」という発想が重要になる。本稿では「ライフサイクルマネジメント」の考え方に基づいて、IT機器の適切な使用期間を考えていく。
業務用PCの買い替えサイクルは4〜5年が妥当とは言い切れない
多くの設備と同様、企業におけるIT機器の使用期間も税制上の償却期間が大きな影響を与えてきた。PCなら4年、サーバは5年。これが税制上定められている減価償却期間だ。
少し前の調査になるが、キーマンズネットが企業のIT担当者300人にアンケートを行った「業務用PCの利用状況(2017年)」でも、業務用PCの買い替えは「4〜5年おき」が約半数の48.1%で、続いて「壊れたら都度購入」が22.9%という結果が出ている。しかし、この4〜5年という期間は業務用PCの買い替え期間として果たして適切だろうか。
ライフサイクルと「ライフサイクルマネジメント」
IT機器の使用期間を考えるうえで大切なのが「ライフサイクルマネジメント」という考え方だ。PCのライフサイクル、つまり調達・導入から始まり、運用、保守、そして更新・廃棄というサイクルに対して、PC導入・利用による効用の最大化とともに、ライフサイクル全般におけるコストの最適化などの観点から、計画、管理する考え方だ。
ライフサイクルマネジメントを意識すると、「壊れたから買い替え」ではなく、PC購入・更新も「IT投資」の一環として、生産性向上を意識した機種の選定が行われ、費用対効果に基づきしっかりと予算化できるようになり、計画的な置き換えが可能となるはずだ。以降、ライフサイクルにおける保守、運用、そして導入の観点から、PCの適切な使用期間を考えてみたい。
「PCの故障率が上がる時期」はいつ?
ある朝、突然PCが起動しなくなった、ディスクが故障した、電源が入らなくなったなど、PCの故障は前触れもなく発生し、PCが使えなくなったことによって業務に大きな支障を与えかねない。
また、システム担当者にとっても、PCの故障対応は代替機の準備や修理の手配などの負担がかかるので、できる限り減らしたいものだ。しかし、一定数のPCを運用している以上、PCの故障は発生する。
日本マイクロソフトはTechaisleが実施した2018年8月の調査を論拠にPCの修理率は3年目が20%なのに対し、4年目では67%と3倍以上に跳ね上がり、その修理コストは3年目以前の1.5倍に跳ね上がると指摘している(「古いOSやPCを使い続けるとコスト面、セキュリティ面でリスクも」ITmediaエンタープライズ、2018年10月31日)。
3年以上PCを使うと、余分な手間やコストがかかることを考慮しておきたい。
調達コストを低くすることに注力すると全体の生産性を下げることも
古いPCを使っていて、毎朝PCの電源を入れて使えるようになるまではコーヒータイムだとか、大きな表をもつExcelのスクロールに待たされたとかいう話をよく耳にする。そもそもPCとは生産性を高める道具のはずなのに、その道具に待たされる状態を作り出してしまっては本末転倒ではないだろうか。
特に、OA用PC(以下、OAPC)は導入コストを抑えるために、低スペックのPCが選ばれること多い。このようなPCは、次第に「待たされるPC」になってしまうことになる。このようなPCを使い続けるということは、「生産性の低下」を招いているのではないだろうか。
特にWindows 10 を筆頭に、近年のOSやアプリケーションは、機能強化だけでなく、セキュリティ強化のためにアップデートのサイクルが短期化している。アップデートによって、PCの負荷は上がる方向にある。この点からも、生産性向上を実現、維持するのであれば、パフォーマンスの良いPCを使うことが望ましい。
ところで「PCの投資効果」をきちんと計算している企業はどれぐらいあるだろうか。例えば15万円のPCを3年間使うと考えよう。年間にして5万円、月(36カ月)にすれば4200円に満たない。月々4,200円のコストに対して、PCはどれほどの生産性を生み出しているだろうか。少しPCに投資するだけで社員の残業時間が減らせるのであれば、節税効果よりも、他の経費削減策よりも効果的と考えることもできそうだ。
自社で使用するPCの費用対効果を、一度検証・算出してみてはどうだろう。さらに、PCがボトルネックになっている業務がないかも調べてみてみる。その結果をみてPCへの投資計画を立てるのが、ライフサイクルマネジメントの第一歩だ。
税制上の優遇措置を活用すれば、負担を増やさずに3年での更新も可能
このように、生産性、経済性、そして保守による業務負荷なども考慮すると、当初のパフォーマンスを発揮しつつ、故障の少ない3年程度でPCを更新することが適切だといえる。これを実行するために、税制上の優遇措置を活用すると良いだろう。
単年度で経費処理できる、いわゆる「少額の減価償却資産」に該当するのは取得金額10万円未満のPCだが、取得価額が10万円以上20万円未満のPCであれば、3年間で1/3ずつ均等に償却することも可能だ。
また、従業員500人以下の企業であれば、「中小企業者等の少額減価償却資産の取得価額の損金算入の特例措置」によって、30万円未満のPCを年間合計300万円まで経費処理できる。このように、現行の税制下でも節税しながらある程度のPCを調達することも可能だ。
選択肢が広がりつつある調達方法を活用し、コストを抑える
とはいっても、多数ある社内のPCを一度に最新の、それも高いスペックのPCにリプレースすることは一時的にせよ、大きなコストがかかるので難しいというのも現実だ。
初期調達コストを抑える手法としては、リースやレンタルなどの手法が知られている。特にレンタルは、PCを資産ではなく経費として処理ができるので、税制上のメリットがある。これまで、数カ月単位の期間で使われることが多かったレンタルだが、年単位での利用も増えているという。
さらに、PCの世界でも、定額でPCを「利用」するサービス、「サブスク(サブスクリプション)モデル」が始まりつつある。それが「Device as a Service」(DaaS)だ。2016年に米ヒューレット・パッカードが「HP Device as a Service」を開始したのを皮切りに、Dellが「PC as a Service」、レノボが「Lenovo Device as a Service」(日本では未提供)のサービスを開始、Microsoftも複数のパートナー企業とともに、Windows 10、Office365 、セキュリティサービスを提供する「Microsoft365」とPCを組み合わせたソリューションを提供する動きを見せている。
このように、PCのコストを平準化することで初期コストを抑えつつ、より新しく高性能のPCを導入することもできるようになってきている。
サーバも所有から利用への流れが
PC以上に難しいのが、サーバやネットワーク機器のライフサイクルマネジメントだ。OAPCとは異なってサーバを短期間で更新することは難しく、5年程度は使い続けることになるだろう。PCに比べるとハードルが高いのは事実だ。
これに対する答えの1つが「クラウドサービス」の利用だ。既存のシステムをIaaSに移したり、業務系のシステムをSaaSに移行することで、ハードウェアの更新から解放されるだけでなく、保守・運用業務の負荷を減らすことも可能だ。
さらに、サーバハードウェアも「所有から利用へ」の流れが出てきている。それが「コンサンプション(消費)型モデル」だ。これは、ハードウェアをオンプレミスで導入しながら、ハードウェアリソース(CPUやストレージなど)を使った分だけ毎月支払うというモデルで、HPEの「HPE GreenLake FlexCapacity」やDellの「Dell Technologies on Demand」などが日本でもサービスを開始している。
いずれも、スペックに余裕を持たせた機器構成で導入しながらも使った分だけ支払えばいいので、初期コストを抑えながらも将来を見据えたサーバの導入が可能だ。まさにオンプレミスサーバをクラウド感覚で使えるサービスといえるだろう。
このように、PC、サーバともに、購入やリースだけでなく、レンタルやサブスクリプション・コンサンプションモデルといった、ハードウェアのコストを経費化できるサービスも増えつつある。このようなサービスも念頭に置きながら、業務のパフォーマンスを踏まえたIT機器の使用期間について改めて検討してみるとよいだろう。
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