経費精算システムの利用状況(2020年)/後編
「法制度がデジタル化とペーパーレスにもっと本気で取り組んでいれば……」。コロナ禍を経験した読者に経費精算の課題を聞いたところ、出社などの課題の他に、法的な「紙」縛りのルールが思わぬ社内分断を招いている状況が明らかになった。
キーマンズネットは2020年8月10〜26日にわたり、「経費精算システムの利用状況」に関する調査を実施した。回答者は製造・生産部門が27.3%、情報システム部門が21.2%、営業、販売、営業企画部門が12.1%、経営、経営企画部門が10.6%などと続く内訳だった。
今回は緊急事態宣言前後(2020年4月から5月にかけて直面した感染症拡大に伴うテレワーク移行などで、企業の経費精算方法に変化があったかどうかを調査した。グラフ内で使用する合計値と合計欄の値が丸め誤差により一致しない場合があるので、事前にご了承いただきたい。
緊急事態宣言下でも「経費精算は出社」さもなくば自腹?
前編では経費精算の方法やタイミング、現状の精算手続きフローについての満足度など、企業で日常的に行われる経費精算業務の実態を紹介した。後編では新型コロナウイルスの感染拡大や緊急事態宣言などの急激な環境変化を受け、企業の経費精算に対しての考え方にどのような影響があったのかを中心に調査した。
はじめに2020年4月に発出された「新型コロナウイルス感染症緊急事態宣言」の前後で、経費精算方法について変更や見直しがあったかどうかを聞いた。
その結果、「通常通りに出勤して通常通りの書類で手続きをしている」が33.3%と最も高い結果となった。サンプル数が小さいため、参考値になるが、以降「通常通りに出勤して社内から経費精算システムにアクセスして手続きをしている」と「在宅勤務なので、領収書の画像などをメール添付などの方法で手続きをしている」が同率で15.2%、「在宅勤務なので、クラウド経費精算システムで手続きをしている」が13.6%となり、上位に挙がった(図1)。
まとめると56.1%と過半数が通常勤務を維持し、37.9%が在宅勤務に取り組まれていたようだ。一方、全体の65.2%が勤務形態に関わらず経費精算に“出社”を伴う運用を選択していたことも分かった。
「経理システムをクラウドに」電子帳簿保存法“改正”を前に、準備を進める企業も
従来の“出社”を伴う経費精算運用が必ずしも非効率だったわけではない。経費申請自体は発生したタイミングなどでシステム上に登録しておき、出社したタイミングで領収書などの利用明細の原本を提出すれば、そこまで無駄は生じていなかったからだ。しかし、テレワークが前提の働き方となると話は変わってくる。書類を提出するためだけにかかる移動や作成に費やすコストは明らかに”無駄“になるだろう。
そんな中、2020年10月1日には電子帳簿保存法が改正、施行される。電子帳簿保存法は会計帳簿処理で保存すべき情報の電子データ化を認める制度だが、改正後は主にキャッシュレス決済を対象に紙での利用証明やタイムスタンプの付与などが不要になることで、経費処理にかかる負担をより軽減できることが期待されている。
今回、コロナ禍を経て自社の“経費精算の在り方”に変化はあったかどうかをフリーコメントで聞いたところ「経理システムをクラウドシステムに変更」や「電帳法対応でのペーパーレス経費精算システム導入準備中」「確証(領収書)のPDF添付が認められるようになった」など、こうした法改正を前提に経費精算システム導入やペーパーレス化を進めているという声も少なくなかった。
グローバル共通のシステムを利用する回答者からは「クラウド経費精算システムを利用しているが、同じシステムでも原本提出を求める運用は、税制度の制約で領収書原本の提出が必須とされる日本だけではないか」といった指摘もあったが、今回の法改正によって多くの企業で抜本的な業務改善が期待されるだろう。
「ルールに縛られている」「見直すスピードが遅い」改善要望から見える経理課題
最後に全体に対し自社の経費精算フローについての課題や要望をフリーコメントで聞いたところ、2つのに大別できた。
業務効率アップ機能への期待
1つは経費精算システムの機能拡充や他システムとの連携に期待する声だ。「業務効率化が図れると考えている」など、他システムとの連携によって申請業務にかかる負荷の軽減や業務効率向上を検討するケースだ。この他、「予算管理機能を加えたいが高額なため導入できない」など、業務効率改善に向けた機能拡充を望む意見が聞かれた。これらは金額などの提供サービスの内容によっては今後、追加で導入が進む可能性がある。
経理部門とその他従業員との分断も? ペーパーレス化遅延のしわ寄せは組織に
2つ目は社内ルールや制度についての不満だ。この数年で業務効率改善に向けたシステム導入と法令対応を進めた経理部門が、思いがけず社内で「悪役」扱いにされる状況もあるようだ。
2020年10月の改正電子帳簿保存法の施行で原本保管義務が緩和されるが、現状は経理部門が完全電子化を目指しても原本保管義務が課される。この数年は将来の完全電子化への布石として、「紙」と「システム」の併用を進めてきた企業が多い。アンケートではこの点について、従業員と経理部門との間で認識のずれや不信感につながっていると思われる意見も寄せられた。
「経理上のルールに縛られ、手続きがオンラインだけで完結しない。結局は紙ベースでの申請や提出物がなくならないため、出社や郵送などの手間がかかっている」「申請側の負担が大きい。経理側の業務負荷軽減支援のために2重インプットや処理が発生するように感じる」といった声がそれに該当するだろう。
「システムよりも社内規定が足かせになる。時代に沿ったシステム採用や規定が重要だと思う」と、古いシステムに問題があるのではなく、古い社内規定に問題がある、という意見も根強い。
コロナ禍をきっかけに、多くの企業が過去に例がないほどテレワークを意識した企業運営を検討し初めている。2020年10月1日より施行される電子帳簿保存法改正を機会と捉え、制度に則した経理フローの改善やシステム導入などを検討することで、労働生産性の向上に生かしていくといった判断も必要になるだろう。
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