IT資格の取得状況(2020年)/後編
前編ではIT資格の保有状況や保有する資格に焦点を当てて調査結果を紹介したが、後編ではコロナ禍で先行きが不透明な時代においてIT資格を取得する意味、そして2021年に注目されるであろう資格を読者に尋ねた結果をまとめた。
キーマンズネットは2020年11月6日〜20日にわたり、「IT関連の資格保有に関するアンケート」を実施した。全回答者数144人のうち、情報システム部門が31.3%、製造・生産部門が20.1%、経営者・経営企画部門が11.2%、営業・販売・営業企画部門が9.0%などと続く内訳であった。
今回は、IT資格を取得するために企業が設置している「支援制度の有無」や資格取得までの「学習方法」や「期間」など、資格取得までの過程や勤務先の支援制度などを調査した。なお、グラフ内で使用している合計値と合計欄の値が丸め誤差により一致しない場合があるので、事前にご了承いただきたい。
受験料負担にセミナーや書籍代、約6割が資格支援制度を設置
前編ではIT資格の保有状況や保有する資格などを紹介したが、後編では資格取得に関する勤務先の支援制度や個人の学習方法、今後注目するIT資格について触れていこう。
はじめに、企業が資格取得に必要な費用を補填(ほてん)する「資格取得支援制度」やそれに準ずる制度を設置しているかどうかを尋ねたところ、全体の59.0%が「制度がある」と回答した。その中で最も多く設置されている支援制度は「試験に合格した場合、会社が受験料を全額負担」の43.5%で、次いで「試験に合格した場合、報奨金が支給される」が37.6%、「試験に合格した場合、会社が受験料を一部負担」と「合否にかかわらず、会社が受験料を全額負担」が同率で24.7&と続いた(図1)。
全体的に試験に合格時のみ受験料や報酬が支払われるケースが多く、加えて「資格取得に必要な書籍購入やセミナー参加費用などを負担する」との回答も少なくなかった。こうした企業では従業員が資格を保有することで営業上有利に働いたり、業務効率が向上したりするなどのメリットを受けやすい業態であることも相まって、積極的に支援を行うケースも少なくない。
一方、資格支援制度に対する要望では以下のようなコメントが寄せられた。
- 会社が選定した特定の資格(業務に関連あり)のみが支援の対象でしかなく、現在の業務とは関連のないものは対象外となってしまうことが自己学習の幅を狭めてしまっている・支援制度の対象となるIT資格の種類が少ない
- 必要経費の支援が一度きりなので、何度でも挑戦可能にしてほしい
- 事前申請と結果報告が必要
- 事前申請せずに取得し、年度自己申告しても個人情報へ反映されないことがある
従業員の資格取得を推進したい企業においては、こうした声に注目し支援制度をアップデートしていくことが重要になってくるだろう。
資格保有者に聞いた合格方法、「独学で3カ月以内」が過半数
次に資格取得に至るまでの学習方法を聞いたところ、76.3%が「参考書を購入し独学で勉強した」と回答。次いで「通信教育やe-ラーニングを受講した」12.9%、「社内外の勉強会や学習サークルで勉強した」9.7%となった(図2)。
フリーコメントでは「ネット上の過去問題を実施」「公開されている過去問」といった声も聞かれ、書籍だけではなくインターネットに公開されている過去問で知識を強化するという声もあった。その他、「(資格学習は)実務の延長戦上にある」という意見から、業務を通じて資格取得につなげているケースもあるようだ。
ちなみに資格保有者のおおよその学習期間は「1カ月〜3カ月」が46.2%と最も多く、次いで「4カ月〜6カ月」23.7%、「1カ月未満」16.1%となっており、過半数が学習期間3カ月以内で資格取得を実現していた(図3)。
ジョブ型雇用で資格の在り方が変わる? 資格取得に対する読者の見解と2021年注目資格
2019年と比較して大きな変化のポイントと考えられる事象に、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)がある。働き方はもちろん、ビジネス自体の構造を変えるほどまでに影響があった企業も少なくないのではないだろうか。今まさにこうした変化の中にあり、かつ収束の見通しが立たたない現状から今後を見据えたとき、IT資格はどう個人の力となるのだろうか。次に「コロナ禍で社会のニーズや先行きが読めない時代において、今後IT資格を取得する意味はあるか」と尋ねた。
最も目立ったのは、今後クラウドやセキュリティ、ネットワークといった技術分野の需要は高まり、むしろITスキルは必須になるのではないかといった意見だった。「クラウドプラットフォームの活用がさらに進むと思うので、そのあたりの資格を取得する意味はある」「他業界と比較してIT業界の落ち込みは小さいのと、省力化を目指すためどの業界においてもITが必要となってくると思うので意味がある」などがあった。
もう1つ意見が集中したのはジョブ型雇用への転換が進むのではないかという声だ。副業やテレワークの普及といった外部環境の変化や、終身雇用や年功序列賃金などに象徴される日本型雇用を維持することが難しくなってきた企業を中心に、注目されているジョブ型雇用。このモデルへの転換を視野に入れた「いわゆるジョブ型にシフトしていく中で、資格の有無がスキル保有やそのレベル感を証明するものとして一定の価値が出てくると思う」「転職やフリーランスへの独立を意識する人が増えると思うので、肩書として有用なものが求められるのではないか」といった声が多く挙がった。
他にも「自宅に居る時間が長くなった今だからこそ、資格取得に取り組んで自分の可能性を広げたい」といったテレワークや在宅勤務によって効率的な働き方ができるようになったからこそ捻出できた時間で自己研鑚を積みたいという声や「その人が将来キャリアをどう考えるかによると思うが、基本は自己学習する手段としての資格取得は有意義だと思う」など環境変化に関わらず自己学習は必要であるといった意見もあった。
一方で「資格は必要ない。それが仕事にどれだけ役に立つのかを具体的に示せない以上無駄でしかない」「今後は成果主義が主流となることから、資格は重視されないことが予想される」といった、資格ではなくあくまで仕事で成果を挙げることが求められるといった声や「専門家でない一般人でもプログラミングが使えるようになるノンプラグラミングツールの使用が広がるにつれて、IT資格の価値は下がっていくと思う」など、ITスキル自体の価値が下がっていくのではないかという見解もわずかに見られ、多様な意見が集まる結果となった。
最後に「2021年はどの資格が注目されると思うか」と読者に尋ねたところ、主に以下の資格に回答が集まった。
・ | 情報セキュリティスペシャリスト |
---|---|
・ | ネットワークスペシャリスト |
・ | Python3エンジニア認定基礎試験 |
・ | RPA技術者検定 |
・ | G検定 |
・ | E資格 |
・ | AWS認定 |
目立ったのは「AWS、Azure、GCPなどパブリッククラウドの特にAIやマイクロサービスに関わる資格」「クラウド利用のコンサルティングや開発に関する資格やシステム開発全体を統括する能力を評価する資格」といったクラウド分野の資格だ。
次いで機械学習やディープラーニングの需要が高まることを予測してか「E資格」や「G検定」といった意見も多かった。他にも5Gなど次世代通信を利用したサービスの拡大を見越して「ネットワークスペシャリスト」やテレワーク実施の増加を見込んで「情報セキュリティマネジメント」など、大きくこの4分野に関連した資格に注目が集まった。
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