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なぜ資生堂はコロナ禍でも新ブランド立ち上げに失敗しなかったのか? 直面した情報共有の壁とは

新ブランドの立ち上げを予定していた資生堂。しかしプロジェクト進行中に突如コロナ禍が訪れた。立ち上げも目前に迫り、在宅勤務で大量の業務をさばく必要があった。そこで直面したのはチーム同士の情報共有の壁だった。

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 化粧品を中心にレストランや教育・保育など幅広く事業を展開し、「ビューティーイノベーション」による社会貢献を目指す資生堂。1872年の創業から150年を迎えようとする同社だが、100年先も持続的に輝き成長し続ける企業として、社会課題の解決や環境負荷軽減にも積極的に取り組んでいる。そんな同社がサステナブルな社会の実現を目指し、2020年6月に、「BAUM(バウム)」という新たなブランドを立ち上げた。

 プロジェクトはちょうどコロナ禍の時期に差し掛かっていた。在宅勤務で進められたプロジェクトには紆余曲折があったという。特に課題となったのが、メンバー間の意思疎通、情報共有だ。資生堂の桑原晋氏(BAUM マネージャー)が、コロナ禍であっても、円滑にコミュニケーションを図ることができた理由について当時を振り返りながら語った。

本稿は、「Why Slack? デジタルワークプレイスとしてのSlack」(主催:Slack Japan)における資生堂の桑原晋氏による講演「コロナ禍で資生堂新ブランド立ち上げ - 大量コミュニケーションをどう捌いたか」を基に、編集部で再構成した。


7カ月後に迫った新ブランドの立ち上げ、直面した3つの課題

 資生堂の新ブランドBAUMは、ドイツ語で樹木を意味し、樹木との共生によって生まれる豊かな営みと共に肌と心を慈しむというコンセプトを持ったブランドだ。スキンケア、フレグランス、ルームスプレー、ハンドクリームといったラインアップをそろえる。このBAUMの立ち上げにあたって直面したのが情報共有にまつわる課題だった。

 「7カ月後に迫った発売を前に、ブランドフィルムやWebサイト、製品のコピーや広告素材、SNS投稿用の素材など大小さまざまな制作物を作る必要がありました。少人数で3つの部門でスクラムを組んで、意思決定を迅速にし、効率よく進めていくことが求められました。コロナ禍で慣れない在宅勤務を行うなか、『状況の整理』『情報共有の高速化』『迅速な決定』の3つが重要でした」(桑原氏)

 状況の整理における課題は、担当者がそれぞれの業務状況をいかに整理し、把握するかにあった。担当する仕事には、ビジネス戦略、商品開発、コミュニケーション開発、PR戦略、店舗開発、SNS運用などがあり、ブランドディレクターも含めて少人数でブランド全体を運営していた。このため、一人あたりの守備範囲が広く、大量の仕事をさばく必要があった。また、特に発売前であるため、決定すべき項目が多岐にわたっていた。

 また、対面でのミーティングによる工数の増加が課題になった。チームはブランドチーム、クリエイティブチーム、マーケティングチームがそれぞれ汐留、銀座、浜松町に分かれていたが、対面での定期的な定例会議とメールコミュニケーションで進めていたため、情報連携に時間がかかっていた。

 そして、デジタルコミュニケーションを主軸に置いて、部署間を超えて議論し、迅速に意思決定することが何よりの課題だった。

資生堂流、大量コミュニケーションのさばき方とチーム結束のコツ

 BAUMチームが抱えていたこれらの課題解決に向けて、導入したのがSlackだった。Slackとオンライン会議ツール、チャットツールを「情報の整理」「情報共有の高速化」「迅速な決定」の3つの視点で評価したものが以下の図だ。


資生堂による他ツールとの比較(資料提供:資生堂)

 「当社のクリエイティブ本部では既にSlackの導入が進んでいたので、要請に従って今回のプロジェクトで導入することになりました。チャンネルによって情報整理を効率化でき、情報共有の高速化も実現できました。また、スタンプ(絵文字)やログが見返せることは迅速な意思決定において役立ちました。振り返ってみると、こうした導入効果が相まって、コロナ禍にあってもBAUMを無事発売できのだと考えます」(桑原氏)

 Slackのどこを評価したのか。桑原氏は大きく「チャンネル」「ログ」「画像/リンク」「スタンプ」「外部の参加」という5つのポイントがあったと説明する。

 案件ごとにチャンネルを作成できるため、進捗(しんちょく)把握やどのような発話が起きているかをすぐに確認できる点を評価した。また、ログについては、過去のコミュニケーションを参照し、「あの時のあれ」をさかのぼって検索できることが重要だという。


Slackの「チャンネル」「ログ」(資料提供:資生堂)

 画像/リンクは、URLや画像、その他ファイルを貼り付けると、Slackを離れることなくそのまま見ることができる。また、スタンプは素早く簡易に返信することができる点に加え、カスタマイズすることでより繊細なコミュニケーションができる点も使いやすさにつながったという。


Slackの「画像/リンク」「スタンプ」(資料提供:資生堂)

 そして、Slackは取引先など外部の担当者をチャンネルに招待することもできる。これにより進捗把握がよりスムーズに進んだという。このほか、情報共有チャンネルも有益だったという。

 「部署やポジションをまたいだコミュニケーションはメンバーに『独りじゃない感』を与えてくれます。緊急事態宣言下で緊迫した状況においても、在宅勤務で業務を進めるメンバーに安心感をもたらしたと考えています」(桑原氏)

 コロナ禍においては、当初の予定通りに進むことはなく、プランの変更や修正を余儀なくされたケースは数多い。そのなかで、最低限の制作物を間に合わせただけでなく、コロナ禍に合わせた新しいコンテンツや施策を提供できたことは、Slack導入の大きな成果だったと桑原氏は話す。

Slackは「新たなオフィススペース」、大切なのは、まずは使ってみること

 情報共有ツールの多くは、導入しても使われない、利用が広まらないことが課題になりやすい。そのため活用を広めるための取り組みも重要になる。BAUMチームがSlackを広めるために工夫したこととして、桑原氏はこう話す。

 「自分から積極的に使うことが重要です。『Slackに書き込んだ件ですが』と言い続けることで、『Slackに行けば情報がある』ということをみんなが認識します。また、誰かが書き込んでくれたら、とにもかくにもまず反応することが大事です」(桑原氏)

 また、桑原氏は、SlackがBAUMチームに果たした意義について「新たなオフィススペース」であると言う。その上で、次のようにSlackを活用するポイントをまとめた。

 「新しい働き方を実現するためにSlackは必要不可欠で、組織/部署間のコミュニケーションを円滑に進めるものだと捉えています。BAUMでは小さい規模での導入しかできていませんが、展開されればされるだけ情報共有や意思決定が効率化されていくプラットフォームだと感じています。もちろん、全てのツールを置き換えるものではなく、適材適所だと思います。さまざまなツールと連携できるため、ツール同士をつなぐプラットフォームとして活用することもできると考えています」(桑原氏)

 BAUMのWebサイトには、実際にSlackでアイデアを共有しながら制作したコンテンツが公開されている。例えば、オンラインイベント「BAUM TREEDAY」のコンテンツページでは、音楽やインタビューのアーカイブ動画が公開されている。「家で豊かな時間を過ごしていただきたいという思い」から作り上げられたコンテンツだという。

 桑原氏は「新たなオフィススペースとして、小さくてもまずは使ってみることがポイントです」と述べ、SlackによるコミュニケーションがBAUM成功の要因となったことを強調した。

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