ナビタイムジャパン「社内システムをたった2人で運用」を実現したSlackのAPI連携テクとは
社内コミュニケーション基盤をメールから「Slack」に移行したナビタイムジャパン。社内では、人事システムや名刺管理、勤怠管理、ネットワーク管理など複数のSaaSを利用しているが、これらの社内システムの運用もSlackを使って簡素化したという。
「経路探索エンジンの技術で、世界の産業に奉仕する」を経営理念に、総合ナビゲーションサービス「NAVITIME」を提供するナビタイムジャパン。NAVITIMEの月間ユニークユーザー数は5100万人(2018年9月)、有料会員数は約480万人(同)で、サービス企画から開発、サポート、デザインまでを全て自社内で完結させている。
同社はコミュニケーション基盤をメールからSlackに移行し、API連携によって社内の業務システムからサーバ障害などの状況を全てSlackで確認できるようにしたという。ナビタイムジャパンの天野剛志氏(経営推進部)が軌跡を語った。
本稿は、「Why Slack? デジタルワークプレイスとしてのSlack」(主催:Slack Japan)におけるナビタイムジャパンの天野剛志氏による講演「Slackワークフロービルダーを活用したナビタイムジャパンの業務デジタル化」を基に、編集部で再構成した。
非エンジニアがSlackで業務を自動化、現場主導の業務工数削減
ナビタイムジャンパンは、2019年7月にSlack向け乗換検索アプリ「NAVITIME for Slack」を発表し、Slackとの連携ツールの提供を開始した。2020年5月にはNAVITIME for Slackで駅の混雑予報の提供を始め、同年8月にはNAVITIME for Slackの乗換検索結果に電車混雑予測が表示可能になった。
電車混雑予測は、Slackで「/navitime ○○駅の混雑情報」と入力すると、現在時刻から5時間後までの混雑予報を表示するもので、乗換検索アプリは同じく「/navitime ○○駅から△△駅」と入力すると経路探索が表示されるものだ。
「ナビタイムジャンパン社内でSlackの導入を開始したのは2016年7月からで、2019年5月から『Slack プラスプラン』を利用しています。導入から4年半が経過し、社内や開発プロジェクトでのコミュニケーションはSlack中心になっています。同時にこの4年半は、Slackに情報を集約しコミュニケーションを行うことを意識してきました」(天野氏)
Slackユーザーの数はゲストを含めて約1000ユーザー、1日当たりのポスト数は約1万3000件にも上る。天野氏はSlackの導入メリットとして「非エンジニアでも業務の自動化が可能になり、現場主導で運用工数を削減できた」ことを挙げる。具体的に、ワークフロービルダーやアプリを利用した運用事例を3つ紹介した。
1つ目は、質問を受け付けるヘルプチャンネルだ。1つのチャンネルで、情シスや労務、総務、経理など全てのバックオフィス部門への質問ができ、ワークフロービルダーを設置することで、各部署への導線も確立した。非公開にしたい質問をプライベートチャンネルに遷移するなど、質問の秘匿性も確保している。
「これまで分散していた窓口が統一化され、質問の障壁が下がりました。また質問の可視化、ナレッジ化も進み、パブリックな場所で質問と回答を行うことでオープンな文化の醸成にも役立ちました」(天野氏)
2つ目は、業者への自動発注だ。例えば、お弁当の定期発注業務では、「Google Forms」で収集した情報をスプレッドシート経由で業者を含めたチャンネルに自動送信する。
3つ目は、勤怠連絡チャンネルだ。ワークフロービルダーを社内勤怠連絡で利用し、定型文入力の省力化を図っている。具体的には「出社遅延の連絡」「休日出勤の連絡」「外出の連絡」「休暇取得の連絡」「日報の投稿」「Web露出共有」などだ。
多数の社内システムを2人で運用できる体制にしたAPI連携ワザ
Slackの利用が進む中で、社内システムもオンプレミスからクラウドへの移行を積極的に進めてきた。
具体的には、2012年にコミュニケーション基盤として「G Suite」(現Google Workspace)を導入したのを皮切りに、2015年にIaaS(Infrastructure as a Service)にAWS(Amazon Web Services)を、オフィスツールは「Microsoft Office 365」(現、Microsoft 365)、人事システムには「カオナビ」、そしてデータ共有サービスの「Box」を導入した。
また、2016年には名刺管理の「Sansan」、2017年には勤怠管理の「TeamSprit」、認証基盤として「OneLogin」を導入。さらに、2019年には「Cisco Meraki」でネットワーク管理をクラウド化し、2020年にはソフトウェア開発において「Atlassian Cloud」の利用を開始した。
「SaaSのラインアップを拡充するとともに、APIで連携して結果をSlackに出力して管理することも進めました。SaaSのアラートは通知用のチャンネルに集約して誰でも閲覧できる状態です。社内ネットワーク機器やオンプレミスのサーバの障害も『Zabbix』を経由しスイッチの通信負荷や稼働実績をSlackで一元管理しています。結果として、Slackを確認すれば多くの情報が確認できる世界が実現しつつあります」(天野氏)
SaaSの利用が増えるに伴って、セキュリティも強化してきた。OneLoginを導入し、ロケーションやデバイスに縛られず、ログイン時にアクセスを制御できるようにした。また、社外からのアクセスの際には2段階認証を実施してセキュリティ性を確保している。
「全てのアカウントのプロビジョニングやデプロビジョニングを行うことで、工数のかかる入退社の処理を極限まで減らしています。このようにセキュリティを保ちながら、SaaSとSlackの連携を進めたことでナビタイムジャパンの情報システムは2人で運用ができるようになりました」(天野氏)
情報の集約で、組織のアジリティ向上とオープンな企業文化を醸成
Slackの4年間の運用を通じて課題も幾つか生じるようになった。その一つが、コミュニケーションがメールとSlackの両方で行われ、確認が手間になったことだ。
「メールとSlackを自由に選択できるため、同じ内容の連絡がメールとSlackの両方で行われることが増えました。この運用の無駄を省くために、社内コミュニケーションをSlackに統合することにしました」(天野氏)
具体的には、社内メールの廃止とSlackへの移行だ。社外取引先とのメールや他のサービスから送られているメールなどを除き、社内ドメイン向けに手動でメールを送信する運用を原則廃止した。その結果、会社全体の1日の平均メール受信数は3万1000通から2万4000通へと削減された。
天野氏は「メール1通の受信と確認に10秒費やすと考えると、全社で約20時間を削減できる計算です」と言う。
最後に天野氏は、Slack活用のポイントを挙げながら、以下のように説明した。
「Slackを導入した後は、SaaSの情報をSlackに集約することが重要です。また、コミュニケーションもSlackに集約することで、オープンな環境で情報共有が可能になります。ナビタイムジャパンでは、これらを実践することで、組織のアジリティ向上やオープンな企業文化の醸成につながったと考えています。また、Slackに情報を集約した状態を作り上げることで、在宅勤務などの働き方にも柔軟に対応することができるようになります」(天野氏)
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