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老舗企業が脱アナログで年間600時間削減 サイボウズと地銀の地方企業救済策とは

サイボウズが地銀と組んで“崖っぷち”の地方企業を救おうと目指したのが、「地産地消のリレーションシップバンキング」。それはどのようなスキームで、地方企業にどのような効果をもたらすものなのか。

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 生産年齢人口の減少や基幹産業を担う大企業の撤退、長引く新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の対応などにより、危機的な状況に陥りつつある地域経済。パンデミックでDX(デジタルトランスフォーメーション)が進んだように、地方企業においても、DXを推進し、業務の効率化や生産性と売り上げの向上が強く求められる。

 地域経済の支援に向けて、サイボウズは地方銀行と協力して「地域経済のDX」を進めているところだ。サイボウズはなぜ地方銀行と組んだのか。またどのようなスキームを実行し、地域企業を救済しようというのか。

問題は地方企業のIT活用の後れをどう取り戻すか

 DXを推進するためにはデジタルツールの活用がポイントになるが、地方企業では、ITの活用が進んでいない現実がある。こうした状況に対して、グループウェアや業務改善プラットフォームを提供するサイボウズが取り組んでいるのが、地方銀行とタッグを組んで地方企業のDXを支援する「地域経済DX」の推進だ。サイボウズの渡邉 光氏(営業本部 パートナー第3営業部 部長)はこう話す。

 「三菱UFJリサーチ&コンサルティングの調査によると、中小企業のIT化が遅れている要因は、IT導入の費用対効果が見えずコストを懸念していること、従業員のスキルやノウハウ不足で取り組みを進められないことが挙げられます。注目したいのは、適切なアドバイザーがいないこと』が挙げられている点です。そもそもIT導入に必要な情報が入手困難な状況にあります」(渡邉氏)


(出典:講演での投影資料)

 そこで、地方企業の「適切なアドバイザー」として期待されるのが地方銀行だ。資金面で企業をサポートする存在でもある地方銀行は、ITの相談役でもある。三菱UFJリサーチ&コンサルティングの調査によると、地元のITメーカーや地元以外のITメーカーなどに続いて、地方銀行は4番目の相談先に位置付けられている。

 「地方銀行がITベンダーと企業のマッチングを支援することで、ビジネスをサポートするケースがあります。ただ、企業の状況や規模によってミスマッチが起こることもあります。そこで、われわれが取り組んでいるのが、金融機関が重視している要素をビジネスに生かし、新たなサービス展開をするというスキームです」(渡邉氏)


(出典:講演での投影資料)

地域に寄り添った地産地消のリレーションシップバンキング

 サイボウズが地方銀行と組んで地方企業に堤供するこの新しいスキームは、どのようなものか。

 地方銀行は、地場企業に対して生産性向上の支援策や業務課題の把握、新規提案を行う。サイボウズはIT活用面で支援する。中小企業は地方銀行の支援を受けて、IT活用を進め、ビジネス環境の変化に対応できる企業体制づくりを進め、業務改善や生産性向上、強靭(きょうじん)な企業体質への変革を実現する。

 「これまで金融業には『リレーションシップバンキング』という言葉があり、こうした取り組みを推進してきました。リレーションシップバンキングとは、金融機関が顧客との間で親密な関係を長く維持することで、中小企業金融の再生と持続可能性の確保を目指すものです。ただ、こうした定義だけでは、本当の意味で地方銀行と中小企業の活性化にはつながりにくいと考えています。真のリレーションシップバンキングとは、銀行が持つ強みを生かしながらITをコンサルティングすることで、中小企業の生産性向上や働き方改革に貢献することです」(渡邉氏)


(出典:講演での投影資料)

 具体的な施策としては、サイボウズが業務改革プラットフォーム「kintone」を、地方銀行の顧客である中小企業に提供する。地方銀行の行員に対しては、kintoneの研修や勉強会を実施する。また、サイボウズのオフィシャルパートナーと地方銀行とのビジネスマッチングを行い、地方銀行と中小企業が取り組みを推進しやすくする。

 「地方銀行は、顧客に対して、業務フローのヒアリングや専門部隊による業務課題の分析、IT活用の提案、コンサルティングなどの役割を担います。また、サイボウズオフィシャルパートナーは、中小企業にカスタマイズや他製品との連携など、高度な技術が必要になった際の開発支援を行い、銀行に対しても課題解決のアドバイザーとなります。サイボウズは、専門部隊の立ち上げから案件相談などのサポート、顧客向けセミナー講師の支援などを行います」(渡邉氏)

 このスキームの特徴は、銀行内部にITコンサルティングの専門部隊を新設すること、地場パートナー企業と連携し、その地域でビジネスが機能する仕組みを構築すること、ITツール導入の第一歩を踏みだせるよう支援すること、そして最終的には中小企業が自身で業務改革を実施し、DXを推進できるようにすることにある。

 渡邉氏は「地域に寄り添った地産地消のリレーションシップバンキングを実現することを目指します」と語る。


(出典:講演での投影資料)

「紙まみれ」な地方企業の業務ビフォーアフター

 現在までにサイボウズと直接提携している地方銀行は、北國銀行(石川県)と福邦銀行(福井県)、鳥取銀行(鳥取県)、山陰合同銀行(島根県)、ふくおかフィナンシャルグループ(長崎県、福岡県、熊本県)、十八親和銀行(長崎県)、伊予銀行(愛媛県)、滋賀銀行(滋賀県)の8行。他にコンソーシアム方式でパートナー経由で提携している銀行も3行ある。中小企業へのコンサルティング実績は、3年間で170社以上に達している。

 その一つに、岡山県で別注家具や木製家具、ふすまなどの張り替え、内装工事を手掛ける末田への支援事例がある。同社は創業70年の老舗企業だが、斜陽産業でもあり、市場規模は縮小していた。そこでピンチをチャンス捉え、業務効率化を軸にビジネスを拡大することに取り組んだ。

 「4代目の若手社長からペーパーレスについての相談を受けた鳥取銀行がkintoneでの業務改善を提案しました。導入前は、外出と紙業務が多く情報共有に苦戦していました。システム会社に相談したものの、やりたいことと予算との間にギャップもありました。kintone導入後は、どこからでも情報共有が実現し、営業担当者の作業報告時間を月間で約21時間削減できたり、50代のベテラン作業員が製作指示書アプリをkintoneで作成し、指示書の作成にかかる時間を半減させたりするなど、年間600時間の短縮に成功しました」(渡邉氏)


(出典:講演での投影資料)

 また、愛媛県でハウスクリーニングや店舗清掃、カーペットクリーニング、エアコンクリーニング、浴槽塗替えなどを手掛けるハウスクリーンきくちでは、伊予銀行の支援を受け、事業継承準備と業務時間短縮を実現した。

 「ご子息への事業継承の準備を進める中、スムーズな引き継ぎができる基盤を求められました。kintone導入前は、顧客情報を紙で記録してファイルボックスに格納していたり、作業報告書を紙で記入して現場に持参していたりしました。システム会社に依頼したものの実現に至らず、Excelでデータベースを作ろうとしていたところでkintoneに切り替えました。kintoneの導入で、顧客情報を一元管理でき、検索時間は5分に短縮され、作業書の作成時間も大幅に削減できました。事業継承する息子さんの意見を聞きながら、奥さまが自らシステムを作成したそうです」(渡邉氏)

 サイボウズでは、今後、地方銀行との協業エリアの拡大を図り、kintoneを使ったITコンサルティングの提案を網目のように張り巡らせていく計画だ。

 最後に渡辺氏は「チームワークあふれる社会を創るために地方銀行を含めたパートナー企業とより連携を強め、地方中小企業のDX化に貢献していきます」と意気込みを語った。

本稿は、サイボウズが開催したメディア向けオンラインセミナー「これからの地銀が目指す『真のリレーションシップバンキング』とは? kintone×地銀×中小企業が実現する地方DX 〜kintoneと地銀による地域経済のDX最前線レポート〜」の講演内容を基に、編集部で再構成した。

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