「Peppol」(ペポル)とは? インボイス制度対応に必要な「エチケット」の話
コロナ禍は業務のデジタル化を進めたが、一方で「既存の構造ではデジタル化できない業務」は残された。特に経理業務のデジタル化が遅れる中で、官民を挙げた取り組みが進んでいる。
インボイス制度の導入を控え、経理は新しい価値創造を担う部署としての役割を期待されている。しかしさまざまな課題からペーパーレス化やデジタル化に対応できていないケースもある。本質的な解決には官民連携の取り組みが必要だ。
デジタル改革担当大臣の平井卓也氏は、コロナ禍以降のビジネスについて「元の世界を取り戻すような経済復興はできない、今までの当たり前を疑うところからマインドセットを変えていきたい。世の中をバージョンアップさせていってほしい。DXは終わりなき旅だ」と述べる。既存の価値観にとらわれない変革を支援したい考えを強調し、バックオフィス業務の生産性向上を訴える。
インボイス制度や「Peppol」を正しく把握している経理担当者はわずか
2023年10月1日から導入されるインボイス制度への有効な対応策が、国際統一規格「Peppol」への準拠だ。日本においては2020年12月に電子インボイス推進協議会がPeppolに準拠した日本標準仕様を策定している。しかし経理担当者の間にも認知は広がっていない。
2021年6月22日、オンライン決済システムを手掛けるROBOT PAYMENTがイベント「『日本の経理をもっと自由に』サミット 〜DXで変わる日本の紙と働き方〜」を開催した。冒頭の平井担当大臣の発言は、サミットの開催に当たって寄せられたものだ。
サミットの中では「経理1000人に聞いた請求書電子化と働き方に関する実態調査 2021」の結果が発表された。同調査は2021年5月14日〜17日にかけて企業の20歳以上の経理担当者1000人から回答を募ったもので、経理部門のIT化における課題を浮き彫りにした。それによれば、Peppolを「詳しく把握している」と回答した割合は2.5%で、「聞いたことがある」も13.0%に過ぎなかった。インボイス制度を「詳しく把握している」割合は15.3%で、「聞いたことがある」は29.5%だった。
バックオフィスのIT化に遅れ、特に間接部門が深刻
コロナ禍において経理の働き方が「大きく変化した」と回答した割合は16.6%だった。一方で「あまり変化していない」は37.3%、「変化していない」は46.1%だった。特にテレワーク対応を課題に挙げる企業が多く、在宅勤務を希望しても「週1日もできない」と回答した割合は56.6%を占めた。
一般的に、紙を扱う業務が多ければ多いほど、テレワークは難しくなる。そこで「紙の請求書業務が電子化されると経理の働き方は変わると思うか」と聞くと、34.4%が「とてもそう思う」、46.1%が「少しはそう思う」と応え、請求書電子化への期待が高いことが分かる。
ただし、自社に請求書の電子化ツールを導入している割合は低い。請求書の電子化ツールを「導入している」と回答した割合は15.2%、「導入していないが、検討している」は25.0%だった。「検討すらしていない」は59.8%に上った。
取引先にも請求書の電子化を進めてほしいかどうかを尋ねたところ、「とてもそう思う」が35.8%、「少しはそう思う」が52.3%で、約9割が取引先に対して電子化を望んでいることが分かった。
自社に対しても取引先に対しても電子化のニーズは高いものの、電子化ツールの普及は進んでいない。その理由を複数回答で聞いたところ「導入コストがかかる」(37.3%)や「取引先との仕様に差異があると活用できない」(26.5%)、「導入に伴う準備や手続きに手間がかかる」(21.6%)などに回答が集まった。
基調講演に登壇したROBOT PAYMENTの藤田豪人氏(執行役員 フィナンシャルクラウド 事業部長)は、経理部門の現状について「コロナ禍においても深刻なIT化の遅れが続いている」と語る。同氏は「ペーパーレス化だけを訴えても、それに伴うシステム投資や外部との調整に進むのは難しい」と述べ、課題解決のためには請求にまつわる構造の改革が必要だと訴えた。
電子化は「エチケット」? サプライチェーンへの責務を訴える
サミットのトークセッションでは、コロナ禍における課題と今後の見通しについて、藤田氏とマネーフォワードの瀧 俊雄氏(執行役員 Fintech 研究所長)、弥生の岡本 浩一郎氏(社長)、内閣官房の加藤博之氏(情報通信技術総合戦略室 参事官補佐)がそれぞれ語った。
「コロナ禍においては当社も「ギリギリ」の対応をしていた」(滝氏)
「経理部が既存のプロセスを守ってしまう、という課題があった」(岡本氏)
「部下にテレワークを指示したところ『それならまずツールを渡せ』と言われた。精神論ではないことを実感した」(加藤氏)
コロナ禍を振り返ると、経理部門にもともとあった課題が急激に顕在化しただけのように見える。4者とも、今後は平井担当大臣と同様の「既存の価値観にとらわれない変革」が必要になると見ている。中でも、瀧氏はサプライチェーンの上流工程にいる企業の「責務」について強調した。
「受託側がクライアントに『変えてくれ』と頼むのは、現実として難しい。サプライチェーンの上流にいる企業が『エチケット』として進めるべきだと思っている」(瀧氏)
「日本の経理をもっと自由に」プロジェクトでは、経理業務を「日本の伸びしろ」と見ている。経理には、経営に関する情報が全て集まる。それらの情報は経営のインテリジェンスの源泉になると定義し、同プロジェクトの継続に自信を見せた。
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