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「電子印鑑」とは? ”ハンコ”の強みと社内業務を電子化するメリット、導入の注意点を解説

テレワークの普及に伴って文書の電子化が進む。電子文書の真正性を証明する方法の中に、押印文化のメリットを残したままをビジネスを電子化する「電子印鑑」がある。社内外の承認プロセスを総合的に効率化する、電子印鑑の生かし方とは。

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 コロナ禍中、B2B、B2Cともに交渉や取引、営業活動などのリモート化が進んだ。特に大きく変化したのが電子契約で、JIPDECが2021年3月18日に発表した「企業IT利活用動向調査2021」によると、2021年1月の調査では電子契約を利用する企業はおよそ7割あった。2020年7月に実施した前回調査では約4割だったことから、大幅に増加していることが分かる(図1)。


(図1)電子契約の利用状況(出典:JIPDEC「企業IT利活用動向調査2021」)

 図1によれば、契約において比較的よく利用されているのは、電子契約サービス事業者の電子署名を使う「立会人型(事業者署名型)」だ。立会人型はユーザー企業が電子証明書を取得したり運用したりする負担がなくなるため利用のハードルが低いことをメリットとする。一方で図1からは、契約の当事者の一方または双方が電子証明書を取得して電子署名を施す「当事者型」を採用する企業と、電子署名を利用しない電子契約を採用する企業、どちらも採用している企業がそれぞれ同程度あることも分かる。JIPDECは今後、8割強の企業が、これらの電子契約を利用すると見込む。

 内閣府は2020年7月から、電子署名の活用促進や国、地方公共団体の押印手続きの見直しを進めている。2021年9月のデジタル庁創設を機に電子契約や「脱ハンコ」はさらに盛り上がると思われる。

個人の利用率は低く、パンデミック収束後の継続利用意欲も低調

 企業間では電子契約の利用は進んでいるが、個人ではどうか。アドビが2021年2月26日に公表した電子サイン使用に関するグローバル調査では、電子サインの利用者に「パンデミック収束後も電子サインを使い続けるかどうか」を聞いたところ、グローバル平均で8割弱(76.3%)が「使い続ける」との回答だったのに対し、日本では約6割(59.5%)にとどまった(図2)。


(図2)パンデミック収束後に電子サインを継続使用する利用者の意向(出典:アドビ「電子サイン使用に関するグローバル調査」)

 また、同調査によれば、日本は他国よりも電子サインを「安全だと思う」と回答した割合が低い。電子サインのメリットに「法的拘束力」や「セキュリティの高さ」を挙げた割合もグローバル平均より低く、日本のユーザーは電子サインへの不安感がぬぐえていないこと、全体的に保守的な傾向にあることが分かる。

 日本が他国よりも電子契約に保守的な理由について、電子契約に関する法務に詳しい福岡工業大学の橘雄介助教は「法制度上の明確性を欠いていること」と「電子契約や社内文書の電子化についてのITリテラシーの問題」「社外利用か社内利用かでコスト意識が異なること」などを指摘する。

 法制度上の問題は、電子署名法によって文書への電子署名の法的有効性が示されている。しかし、裁判による判例が出るまではユーザーが不安や不信をぬぐうのは難しい。2020年6月19日に内閣府と法務省、経済産業省が公開した「押印についてのQ&A」によれば、取引先との請求書や納品書、検収書、領収書、確認書については次のような要素が保存されていれば、「文書の成立の真正が認められる重要な一事情になり得ると考えられる」と明記しており、遠回しな表現ながら、事実上電子契約サービスを利用した文書が法的に認められる可能性が高いことを示している。

継続的な取引関係がある場合

 ・取引先とのメールのメールアドレス・本文および日時など、送受信記録の保存

新規に取引関係に入る場合

 ・契約締結前段階での本人確認情報(氏名・住所などおよびその根拠資料としての運転免許証など)の記録・保存

 ・本人確認情報の入手過程(郵送受付やメールでの PDF 送付)の記録・保存

 ・文書や契約の成立過程(メールや SNS 上のやり取り)の保存

電子署名や電子認証サービスの活用

 ・利用時のログイン ID・日時や認証結果などを記録・保存できるサービスを利用

 上記からは「電子署名や電子認証サービスを含んだ電子契約サービスを利用する限り、法的な真正性は守られると考えてよい」ことがうかがえる。ただし、橘氏の指摘した「法的明確性を欠いている」という懸念に留意する必要はあるだろう。

 電子契約や社内文書の電子化に関するITリテラシーの課題については、橘氏は「日本企業にCIO(Chief Information Officer/最高情報責任者)が設置されていない企業もあり、IT化の旗振り役が少ないこと」がネックになると述べる。従来の習慣を脱却するには、リスクとコストを最適化してIT化を推進する人材と体制が必要だ。これは特に、中小企業における長年の課題でもある。

 もう1つの指摘は、主に社内の業務フローを電子化するにあたってのコストの課題だ。多くの電子契約サービスはユーザー数に応じた月額料金や文書数、契約件数あたりの従量料金を採用しているため、社内の押印による承認フローにそのまま採用するとコストが増加する。部署間や本部、支社間での契約など一部の業務を除けば、企業内部で扱う文書では電子署名やタイムスタンプはオーバースペックになる。内部向けには、もっとシンプルで低コストなサービスが望ましい。

「印鑑」の強みから見る「電子印鑑」のメリットとは

 電子サインがグローバルに普及する一方で、日本には「電子印鑑」のサービスも存在する。電子印鑑は、従来の押印文化を踏襲しながら文書と業務フローをデジタル化できる、いわば「温故知新」型の仕組みだ。

 その解説の前に、まず印鑑の良さとは何だったかを振り返ってみたい。

 印鑑の長所は「一目見ただけで文字以外の情報を含めて認知できる視認性のよさ」にある。手書きサインよりも名前が読みやすく、印影の大きさや形から押印した人の権限や役職が読み取れる。同じ印章の中に日付や部署名を付加したり、形や書体を工夫して押印者の個性を表現したりして「誰が押印したのか」を直感的に判別できる。例えば、一般の会社には次のような種類の印鑑がある。

代表社印(会社の実印=会社印=法務局に届け出たもの)

 一般的には丸印で代表者名が記されており、契約や公的な申請などの書面に押印される。

会社の銀行印(会社が銀行に届け出たもの)

 手形や小切手などに押印される。一般的には丸印。

角印(会社の認印)

 会社名などの団体名称あるいは屋号などを記した四角形のもの。契約書・請求書・領収書などの書面に押印される。

役職印

 代表取締役、部長、課長などの役職名を記した一般的には四角形のもの。官公庁では役職によって異なる大きさが規定されている。一般的な規定はないが、役職の重要度に応じたサイズで作成されることが多い。

個人の認印/日付印

 一般的には個人の名字を記した丸印で、一般事務業務に使う書面に広く利用される。日時がセットできる印章を利用すれば名字と日付が押印できる。

 これらの細かい使い分けの文化が定着していることで、書面を見れば「どのような役職の誰がその文書に責任をもっているのか」が直感的に分かる。職務別に押印の色を変えてさらに分かりやすくする企業もある。それらの視認性と慣用に基づく情報の豊かさが、印鑑が現在でも業務や取引のプロセスに組み込まれ、重要な役割を果たしている大きな理由といえる。

 民事訴訟法では「反証がない限り、押印のある文書は本人の意思に基づくものと推定できる」としている。これは大切な印章ほど安全な場所に保管されるため不正使用されにくく、複雑な印章は偽造や複製が困難になるためだ。しかし不正利用や偽造、複製の可能性はゼロではなく、現状の「紙と印鑑」の文書でも法的な真正性の有無にはあいまいな部分が残る。

 さらに、紙文書がデジタル化の妨げになることは今では常識で、デジタルトランスフォーメーション(DX)の第一歩としてペーパーレス化を進める企業は多い。「押印のための出社」は非効率だが、押印にまつわるフローを丸ごと廃止する必要はなく、印鑑の長所はそのままで電子化、ペーパーレス化が可能だ。

電子印鑑の特長とメリット、導入にあたって注意すべきこととは

 印鑑やサインのデジタル化とは、単に「印鑑の印影や手書きサインを画像データ化して電子文書に貼り付けること」だけではない。画像データに加えてさまざまな情報を加えられ、それによって電子文書の真正性を証明できる。例えば電子印鑑と呼ばれるものには、以下のような3つの種類がある。

印影を画像データにして文書に貼り付けるもの

 従来の印鑑を単純に電子データに置き換えただけのもので、印影をスキャンすれば簡単に作成でき、利用にコストもかからない。しかし偽造や複製が容易なため、本物であること、本人が押印したものであることの立証は難しい。

印影の画像データにひも付けて本人識別情報を管理するもの

 印影の画像データに押印者の氏名やメールアドレスなどの本人識別情報をひも付けて管理する。デジタル文書に押印(画像の貼り付け)をした日時などの履歴も記録でき、トレーサビリティーを確保できる。本人の印章であること、本人が押印したものであることの証明能力が高まる。この場合は、印影データを作成する際に厳重な本人確認が必要となる。ID/パスワードに加えて多要素認証などが用意されているかどうかはチェックするべきだろう。

本人識別情報が付与された印影を貼り付けた文書に対して、電子署名とタイムスタンプを付加するもの

 上記の情報に、さらに電子署名とタイムスタンプを付加すれば、電子署名によって文書の原本性が、タイムスタンプによって文書の存在証明(タイムスタンプが付与された時点で文書が存在したことの証明と、それ以降に改ざんされていないことの証明)が可能になる。


(図3)Shachihata Cloudの料金体系と機能(出典:シヤチハタWebサイト)

 例えばシヤチハタが提供する「Shachihata Cloud」は、デジタル印鑑の作成や文書への押印、文書の回覧のワークフローをカバーするクラウドサービスだ。同サービスでは、デジタル印鑑は個人が利用する認印と代表者印(会社印)、角印、部署名入り日付印といった共通印を作成して運用できる。また色の変更や押印角度の設定も可能で、印鑑ならではのニュアンスを生かせる。

 同サービスの料金体系は「印章1つあたりの月額料金(スタンダード版で110円、ビジネス版で330円(税込み、年単位請求))」としており、社内向け文書への適用がしやすい点もメリットといえる。スタンダード版は上述した「印影の画像データにひも付けて本人識別情報を管理するもの」を使うもので、電子署名はない。ビジネス版では電子署名が標準で適用でき、さらにオプションでタイムスタンプも付加可能だ。

 シヤチハタは同サービスに「ビジネスプロセスそのまんま=BPS」というキャッチフレーズを付け、従来の紙文書運用をそのまま電子化したイメージで利用できることを特長とする(図4)。


(図4)電子印鑑の押印イメージ(出典:Shachihata Cloudの製品ページ)

 もちろんワークフローの管理機能も備えており、従来押印で対応していた社内の承認プロセスをそのまま電子化できる。現状の取り扱い文書や従来のワークフローを大きく変えずに、現場の混乱を抑えつつデジタルの「便利なところ」を取り入れる手法として、印鑑の電子化は有効な手段といえる。

ペーパーレス化=脱ハンコではない、従来のメリットを無視しない「現実的なDX」

 業務への印鑑の組み込みは、グローバルから見れば珍しい文化である。一方でアドビなど海外ベンダーも印影データをサインと同様に扱えるようサービス拡張を続けている。紙文書で回していた業務プロセスをそのままデジタル化して、しかも電子署名とタイムスタンプで強力な証明力を持たせることができれば「ビジネスプロセスを大きく変えないペーパーレス化」が可能になる。前述した橘氏は「社内業務のデジタル化にあたってかかる”スイッチングコスト”には、サービス導入の費用や月額費用だけでなく、業務プロセスの見直しや整理も含まれる。そのコストと、会社や従業員の“ハッピーの度合い”をてんびんにかけることが肝心だ」と語る。

 ペーパーレス化は業務デジタル化の鍵とされる。コロナ禍において「押印のための決死の出社」は避けたいが、だからといって電子化のためにあらゆる業務を抜本的に変えて現場にスイッチングコストを課す必要はない。国や国内外のベンダーが、従来のメリットを無視しない「現実的なDX」を支援する姿勢を見せている。現実的なDXの手段として、電子印鑑は有効なソリューションとなるだろう。

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