ファイルサーバとクラウドストレージの利用状況(2022年)/後編
業務で日常的に利用するファイルサーバだが、管理、運用ポリシーを明確に定めておかなければ、従業員の不満だけでなく、重大なセキュリティリスクを負うことにもなる。
キーマンズネット編集部は「ファイルサーバとクラウドストレージの利用状況」に関するアンケート調査を実施した(実施期間:2021年12月24日〜2022年1月7日、有効回答件数:324件)。前編では、この調査結果を基にファイルサーバとクラウドストレージの利用状況を概観した。
後編となる本稿では、利用するファイルサーバの「満足度」や「トラブルの発生状況」「ファイルサーバとクラウドストレージの運用で実際に発生した問題、トラブル事例」などを紹介する。グラフ内で使用している合計値と合計欄の値が丸め誤差により一致しない場合があるので、事前にご了承いただきたい。
ファイルサーバを圧迫する“出所不明”なファイル
まず、「ファイルサーバを利用」または「クラウドストレージと併用」しているとした人に対して満足度を聞いたところ、「満足」(15.6%)、「やや満足」(33.3%)、「やや不満がある」(39.4%)、「不満がある」(11.7%)となり、一定の満足度を感じている人は半数に満たない結果となった(図1)。
「やや不満」「不満」と回答した人に対して、不満を感じる原因について尋ねたところ、「不要なデータが多く整理できていない」(52.8%)、「誰のものか分からないデータが多い」(45.1%)、「容量が足りない」(45.1%)などが上位に挙がった(図2)。
不要なファイルを削除しない限りファイルは際限なく蓄積され、やがては“ごみ箱化”していく。こうした現状を放置すると業務効率の低下を生む恐れがあり、また不適切なアクセス権限の運用はセキュリティへの不安などを招く。情報システム部門ではファイルの要、不要の判断が難しいため、業務部門が中心となって定期的にファイルサーバの断捨離を進めていかなければならない。
無能な担当者に運用を丸投げでデータが改ざん可能に……
2021年末に、大手企業のファイルサーバに不正アクセスがあったと報じられた。情報が外部に流出したかどうかは本稿公開時点では定かになってはいないが、ファイルサーバやクラウドストレージにもこうしたセキュリティリスクが付いて回る。
次にファイルサーバやクラウドストレージを利用する中で、何かトラブルが発生したことがあるかどうか、そして実際に発生したトラブルの詳細を尋ねた。
「これまでファイルサーバもしくはクラウドストレージに関して何らかのトラブルが発生したことがあるか」と聞いたところ、「ほとんど発生しない」(75.1%)、「時々発生する」(21.3%)、「頻繁に発生する」(2.6%)と、トラブルが発生したとした割合は2割にとどまる結果となった(図3)。2021年に実施した同様の調査と比較すると「発生しない」が6.0ポイント増加した。
次に「時々発生する」「頻繁に発生する」と回答した人に対して、発生したトラブルの詳細をフリーコメント形式で聞いた。寄せられたトラブルは3つに大別できる。
最も多く寄せられたのが「アクセス不良」に関するトラブルだ。「OSのアップデート時における速度の低下や、アプリケーションダウンが頻発する」「『Windows Update』の影響で、突然接続速度が遅くなる」など、OS更新のタイミングで発生する接続不良の声が挙がった。
他にも「社員が一斉にアクセスする時間やウイルスチェックが行われる昼休みの時間帯で、ファイルを開けなかったり保存できなかったりといったトラブルが発生する」「データセンターの障害またはネットワーク負荷によりアクセスできなかったり、レスポンスが極端に遅くなる」といった声も少なくはなかった。
他にも「ITリテラシーのない経営層が知識、能力不足の部下に運用を丸投げし、管理者権限や運用が曖昧(あいまい)な状態、かつデータが改ざん、削除可能な状態にある」といった、曖昧な運用ポリシーが招く問題も寄せられた。コメントの中には、「ランサムウェアによる被害に遭遇した」といった報告もあった。
2つ目は「容量不足」に関するコメントだ。「容量不足でファイルの保存ができなくなった」「膨大な数の画像ファイルを保存しており、その量は時間とともに肥大化し、HDDの容量を圧迫している」など、不要なデータに悩まされる担当者の声があった。
3つ目は「データ消失」に関する問題で、「ファイルを間違って削除してしまった」「削除やフォルダの移動によるデータの消失」があった。「誰かが重要なファイルを削除してしまい復旧に丸1日かかった」といったコメントもあった。
「マネージドサービスを利用している」は1割程度
管理工数や人的リソースなどの観点から自社での運用が困難な場合は、ファイルサーバの運用を外部委託する「マネージドファイルサーバ」という選択肢がある。
「勤務先で利用するファイルサーバは自社で運用しているか、マネージドサービスを利用しているか」と尋ねたところ、「マネージドサービスを利用して運用」とした割合は12.8%だった(図4)。
この結果を従業員規模別で見ると、1000人以上の企業では利用率が高い傾向にあり、利用者数に比例して管理工数が重荷になっている状況が見て取れる。クラウド連携などインターネット越しで提供されるサービスや、広域イーサーネット経由で提供されるサービスもあり、使い勝手やセキュリティ、費用対効果に合わせて選定を検討するのも一手ではないだろうか。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
関連記事
- ファイルサーバとクラウドストレージの利用状況(2022年)/前編
ワークスタイル変革が進む中で、ファイルやデータの“置き場”が一つの問題として挙がる。クラウドストレージはセキュリティリスクの懸念もあるが、2021年末にかけて大手企業でのファイルサーバへの不正アクセス事件が報じられた。こうした状況の中で、ファイルサーバとクラウドストレージの利用状況を探った。 - “ポケモン”の管理はもう限界……G ドライブでもファイルサーバでもなくBoxにしたワケ
ファイルサーバでのデータ共有に限界を感じていたポケモンのBox導入の裏側を同社のIT部門が明かした。Boxと連携すると便利な外部ツール、複数のクラウドストレージの使い分けといった「試行錯誤の上で見いだした」ポイントも伝授する。 - 「クラウドストレージに置き換え」だけじゃない、“脱ファイルサーバ”で考えたい2つのポイント
コロナ禍が訪れてそろそろ1年が経とうとする。サテライトオフィスや在宅勤務を中心としたワークスタイルが一般的になりつつある中で、オフィスでの運用を前提するファイルサーバの運用問題が浮上してきた。そろそろ“脱ファイルサーバ”を本格的に考える時にきている。 - 「ハンコ出社」撲滅なるか、Dropboxが提案する脱ハンコ機能とは
Dropbox Japanは、2020年の注力機能を発表した。新たに提供する電子署名サービスでは、社外の取引先がユーザーかどうかにかかわらず電子署名の利用ができるという。