「もう辞めたい……」がまる分かり? モチベーション管理システムでできる4つのこと
対面機会が減った現在、従業員の働きぶりとともにコンディションやメンタリティーの状態が見えにくくなった。どうやれば従業員の心の変容を読み取れるのか。
コロナ禍で直接顔を突き合わせる機会が著しく減少したことで、従業員のメンタリティーを把握することが困難になった。メンタルの状態は何気ない日常の会話や行動、表情に表れやすいが、テレワークなどオフィス外の勤務では顔色や表情を確認しようにも、Web会議などディスプレイ越しでは顔色は不鮮明で、時に加工され、声色も正確には再現されにくい。
また、働き方の多様化によって低下が懸念されているのが「ロイヤリティー(仕事や組織への忠誠度)」「コミットメント(求められることへの責任感)」「エンゲージメント(組織と個人の心的関連性)」、そして「モチベーション(内発的な意欲)」だ。
これらを計測することは難しく、事業活動の成績や勤怠状況から類推したり、上司や同僚からのヒアリングや本人との会話によって探ったりすることしかできなかった。しかし「心理的安全性」がチームの生産性に与える好影響が学問的な調査で明らかになったことから、多くの企業が従業員の心の状態の把握、分析に取り組むようになった。これはコロナ禍以前からのトレンドだったが、テレワークが浸透して以降、さらに関心が高まった。それを支援するツールの一つが、「モチベーション管理システム」だ。
「モチベーション管理」に投資する本質的なメリットは?
従業員の心の状態やコンディションを把握、可視化するには、何も判断材料がない状態では難しい。従業員へのサーベイやアンケートなどで効率的かつ短期間でコンディション調査が行え、離職リスクやモチベーション低下といった問題発見のサイクルを効率的に回すことができるのがモチベーション管理ツールの主たるメリットだ。
期待できる一番の効果は、定量化されたデータを基にした議論が可能になることだ。数値化されたデータにより過去と現在の心の状態が客観的に評価でき、問題点の発見や、配置転換や職務転換の判断材料としても生かせられる。経営と同じく、人事部門でもデータドリブンの課題解決が可能になる。また、働き方の多様化によって引き起こされるメンタリティの悪化や満足度低下に対して先回りで対策を打つことで、離職率の改善や個人とチーム、組織の生産性向上が期待できる。
ただし、モチベーション管理ツールは導入してすぐに効果が得られるものではなく、まずは従業員へのアンケートや調査を重ね、データを蓄積していくことが必要になる。対策が必要だと思われる従業員とコミュニケーションを取り、状況によっては人事部門と現場のマネジメント層とで話し合い、配置転換なども考えなければならない。得られたデータを基にこうしたサイクルを回していくことで徐々に効果が見え始めてくるため、少なくとも数カ月〜1年のスパンで様子を見ていくことが必要になる。
そこで重要なのが中長期的な運用施策だ。中には「仕事が多忙でアンケートに答える暇がない」「面倒だ」と感じる従業員もいる。また、アンケートの回答率は良くても適当な回答ばかりで、分析に使えないデータが集まっても意味がない。従業員の実態を正確に把握するためには、従業員の負担にならない頻度でかつ回答しやすいアンケート設計にしなければならない。
コラム:「面倒くさいアンケート」にしないためには?
入社したての従業員や離職者の高い部署では毎月、その他の部署、従業員には四半期に一度など、部署や階層別に調査頻度を変えたり、アンケートの目的を理解してもらうために社内のポータルサイトで取り組みを告知したり、フリーコメントで寄せられたコメントを匿名で例示したり、職場の環境改善例を紹介したりと、側方支援的な施策を採りながら従業員の理解を深めるとともに、施策の社内浸透を進めるのも一つの策だ。
アンケートの回答率が低い場合は、社内コミュニケーションツールでリマインドする、回答したら部署ごとに報告を挙げる、通知するメール件名に「本日回答必須」などを入れておく、などの策を講じると良いだろう。また、フリーコメント欄には、「新入社員の時のエピソード」「サンクスカード(○○さんあの時ありがとうなど)」「お客さまとの思い出」など、従業員が回答しやすい項目を設定しておくといいだろう。
どうすれば従業員の「本当の気持ち」を引き出せるのか?
組織や上司が踏み込めない従業員の心の領域に一歩踏み込むことで、メンタルヘルスの改善や組織からの離脱、離職の防止、モチベーション向上による業務実績の向上などが期待でき、その結果、チームや組織全体の生産性向上に寄与する。こうした循環を作るための施策として、国が主導して2015年12月にストレスチェックを義務化した。
従業員本人がメンタルヘルスの自覚症状を認識し、かつストレスチェックも適切に回答していれば組織側もその状態を把握できるが、従業員自身がメンタリティの悪化に気が付いていない場合や、認識していても他人に知られたくないからとストレスチェックを適当に回答していれば、組織が従業員に対して適切な支援を提供することは難しい。産業医の面談に関しても、本人の同意がなければ組織に診断結果が伝わらず、ロイヤリティーやコミットメント、エンゲージメント、モチベーションの計測や、心理的安全性の改善につなげることは難しい。
ストレスチェックや1on1面談などは実施負荷が高く、年に1回から数回の実施にとどまることが多く、適切なタイミングでの支援策実施が難しいことも課題だ。
モチベーション管理ツールは従業員の心理状態を任意の頻度で調査でき、コンディションの診断から分析、対応までのサイクルを支援することを目的とするものだ。以降では、一般的なモチベーション管理ツールに備わる4つの機能とその役割について見ていく。
1.アンケート機能
従業員へのアンケートを通じて、自分自身の仕事や周りの職場環境に対する満足度、職務と本人の希望との乖離(かいり)、職場の上司や同僚、職場環境、対人関係、労働条件や給与などに関する個人の考えをくみ取ることができる。質問項目については、選択式、フリーコメント式など任意の形式で自由に設計可能だ。この機能は、目的に応じて「モラールサーベイ」や「パルスサーベイ」などと呼ばれることもある。
質問項目が多すぎると回答負荷が高まり、回答率の低下を招く要因になる。また誘導的な質問には本当の気持ちを偽って回答するリスクもあり、アンケート設計には難しさがある。また従業員がフリーコメント欄に相談したいことを書いたものの会社側から何のアクションもない場合は、今後アンケートへの協力を得られなくなる恐れもある。社内で対応ルールを作るなどして回答を受け止める姿勢がなければ、早期に形骸化してしまうだろう。回答者の負荷にならない適度な設問項目と適切な実施頻度、そしてスマホやタブレット、PCなどデバイスを選ばずに回答できるUIが必要だ。
アンケートの設問例が図1だ。これは現在のコンディションを「お天気マーク」などのアイコンで選択してもらうことで、回答しやすくした例だ。管理側は5段階評価の結果を集計し数値化することで、定量的な視点で全体のコンディションを把握できる。こうした従業員が答えやすい設計であれば、週次、月次などの頻度でも苦にならず、タイムリーな現状把握や、状態変化の傾向を短期的に見ることが容易になる。回答時間は1分から、長くても数分程度でおさまることが望ましい。
お天気マーク方式の他、選択肢をラジオボタンやプルダウンメニューにしたり、フリーテキストで書き込めるようにしたりと、工夫次第で多様なアンケート項目が作成可能だ。アンケートのテンプレートを提供するツールベンダーもあり、それを基に自社の目的に合うようにアレンジすることもできる。回答者に極力負荷を与えず、短時間で本質的回答を得られるように設計するのがポイントだ。
2.コミュニケーション機能
チーム単位や部門単位など、チャットやSNSの機能を使って従業員が自由かつリアルタイムにコミュニケーションを取れるようにすることもモチベーションを維持する一つの方法だ。職務やビジネストレンドなどの参考資料をレコメンドしたり、直接的な職務以外でも助けてくれた従業員にポイントを相互に贈り合い、表彰や金銭的報酬に結び付けることができる「ピアボーナス」(社内通貨)を組み込むツールもある。
3.ストレス度合い計測機能
厚生労働省が推奨する「職業性ストレス簡易調査票」の57項目に準拠したストレスチェックの実施や事後のサポートを支援する機能だ。とはいえ、ストレスチェック制度対応がツール導入だけで済むわけではない。あくまでも本人の同意の下で簡易的なストレス度合いの申告、把握、分析ができるものと捉えるべきだろう。
4.ダッシュボード機能(分析機能)
サーベイによる分析と、分析結果に基づいて個人にタイムリーな対応を取れるのが、モチベーション管理ツールを用いる意義の一つだ。サーベイを基にした対応を取る際に有用となるのが分析機能だ。アンケートによってメンタリティーの悪化やモチベーション低下が懸念される従業員が見られたら、管理者や上司にアラートを上げる機能や、時系列で数値変化を確認できる機能を持つものもある。チーム別/個人別、全チーム/全社で、現状と過去のサーベイ結果を可視化できれば、傾向分析や問題の特定が容易になる。
なお、こうして数値化したデータは匿名化してBIツールで分析することも可能だ。職階や職種、部課、チーム、事業所ごとに特徴を分析したり、年齢階層や勤続年数で傾向を分析したりできる他、アンケート項目によっては事業戦略や経営施策、人事施策に生かすこともできる。
なお、個人的な情報を含むため、データの取扱いには注意が必要だ。全データの閲覧権限を持つ管理者を絞り込み、また目的を積極的に告知した上で「会社が回答内容を他の目的に利用したり、定められた管理者以外に公開したりしないこと」や「従業員の査定に影響することがない」ことなどを周知して、安心して回答できる社内文化や風土を作ることも重要だ。
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