ハナマルキの脱レガシー事例、Google Workspaceで「30万枚の紙削減」を実現した日本流の工夫とは
老舗企業ハナマルキはGoogle Workspaceの導入によって東京本社の紙の購入枚数を約40%削減するなど、業務のオンラインシフトにまい進してきた。その原動力となったのが、Googleオフィス訪問でのある体験だ。
DX(デジタルトランスフォーメーション)推進の高まりやコロナ禍を起因としたテレワークなどを背景に、クラウドサービスの利用が広まっている。だがセキュリティや日本独自の商習慣への対応といった点でクラウドサービスの利用に不安を感じる企業もあるだろう。
老舗企業ハナマルキもそうした懸念を持っていた。メールサーバとファイルサーバの老朽化を受けて2019年に「Google Workspace」を導入したが、「Google カレンダー」で組織階層を表現できないといった悩みに直面したという。
ところが今はそうした課題を解消し、業務のオンライン化を成功させて東京本社の紙の購入枚数を約40%削減するなど、大きな効果を挙げている。どのようなきっかけや工夫があったのか。
メールサーバとファイルサーバの老朽化「クラウドは不安だった」
ハナマルキのIT刷新プロジェクトをけん引してきた森 香織氏(情報管理部電算課課長)が「Google Cloud Day 2022」の事例セッション「【事例対談】創業100周年を迎えた老舗企業ハナマルキ様が取り組むDXの裏側」で同社の取り組みを共有した。
みそ、塩こうじなどの食品を製造販売するハナマルキは、2018年に創業100年を迎えた老舗企業だ。東京と大阪にオフィスを、長野と群馬に工場を構え、全国8つの営業所を持つ。
同社は、2006年に「Microsoft Outlook」を導入してカレンダーや社内掲示板の利用を開始してきたが、メールサーバやファイルサーバの老朽化などを受けて、2019年9月に「Google Workspace」を導入した。
導入プロジェクトをけん引してきた森氏は、Google Workspaceの導入経緯について次のように語る。
「従来使用していたグループウェアは、画像、動画などのコンテンツの増加によってメールサーバの容量が逼迫(ひっぱく)していました。インストール型のメーラーは、送受信に利用できる端末が限られるので、その端末が手元になければメールを見られないという問題もあります。社内のファイルサーバでも容量の問題が生じており、その解決策としてクラウドサービスの導入を検討しました」(森氏)
同社は、2017年から基幹システムの刷新に取り組んでおり、2019年にはサーバホスティングサービスを利用するに至ったが、クラウドサービスを利用するのはGoogle Workspaceが初めてだった。
「クラウドサービスのセキュリティに不安もありましたが、検討を進めるにつれて、サービス自体のセキュリティレベルの高さやGoogleの発展性を強く感じるようになりました。Google Workspaceの導入後はスマートフォンでいつでもメールを確認できるようになったので、業務のスピードもアップしました」(森氏)
同社がGoogle Workspaceによって得られたメリットは幾つもあったが、森氏はクラウド化によってPC端末のキッティング作業を大幅に簡略できたことを強調した。
「従来はPC端末のローカルデータを移行する際に多大な時間がかかっていましたが、今ではPC端末にブラウザのGoogle Chromeをインストールするだけで作業が完了します」(森氏)
人柱になったIT推進委員会の尽力
前述したようにGoogle Workspaceは同社が初めて利用したクラウドサービスであり、UIもそれまで使用していたツールとは異なる。そこでハナマルキは、Google Workspaceを社内に定着させる目的で、「G Suite推進委員会」(現在は「IT推進委員会」に改称)を設立。森氏をリーダーとして各部署から約20人のメンバーが集結した。
メンバーは、一般従業員に先行してGoogle Workspaceのさまざまなサービスを利用し、その意見をまとめた。その結果、メールやカレンダーは旧システムからの移行が不可欠である一方、「Google ドライブ」や「Google スプレッドシート」の利用を強制する必要はないだろうと判断した。
委員会は事業部門に働きかけ、社外とのやりとりには「Microsoft Excel」を、社内向けの資料にはGoogle スプレッドシートを使うように誘導していった。複数の部署がExcelをメールの添付でやりとりしていた際は、Google スプレッドシートが便利だと伝えたという。
「スプレッドシートを作る際は細かい設定も必要ですが、結果的に従業員のスキルが向上して業務効率も上がりました」(森氏)
コロナ禍で紙の申請書類はゼロに
ハナマルキのオンラインシフトを促したGoogle Workspaceだが、同サービスだけではニーズを満たせないこともあった。そこで導入したのがGoogle Workspaceのクラウド型拡張ツール「rakumo」だ。rakumoは、Google Workspaceと連携させることで、企業、団体内の予定調整や稟議申請などの共通業務を効率的に進められる。
「『Gooogle カレンダー』は組織単位で皆の予定を一覧するような表現力がないと悩んでいた際に、rakumoに出会いました。rakumoはアプリで簡単に会議の時間調整などができるので効率化が進みました」(森氏)
rakumoはコロナ禍でも重要な役割を果たした。rakumoの導入から5カ月後、最初の緊急事態宣言が発布され、同社もテレワークへの移行を余儀なくされた。その際、rakumoのワークフロー機能を利用することで社内の申請業務をオンライン化し、出社を制限できたという。「これがなければテレワークは難しかった」と森氏は振り返る。
「コロナ前はワークフローツールを利用しておらず、社内申請業務は出社を前提としていました。rakumoの導入後は、申請のために出社しようとする人に『私の机の上には紙を一切置かないでください』と言ってテレワークを促しました」(森氏)
必要に迫られて社内の申請業務はオンライン化が進んだ。森氏の所属する情報管理部では、紙による申請はゼロになった。
Googleのオフィス訪問で受けた衝撃がペーパーレス化を加速させた
rakumoワークフローはペーパーレスでも著しい効果を挙げた。東京本社の紙の年間購入枚数が、60万枚から37万枚に、約40%削減された。また社内申請の承認は3〜4日だったものが、1日で進むようになった。
「従来は上長の机の上に残っている書類を担当者が電話で確認して次の部署に持って行くような対応をしていたが、rakumoワークフローによって、外出先から承認作業ができるようになった。また、地方の拠点間は、社内便で物理的に書類を運んでいたが、それも不要になってスピードアップが図られた」(森氏)
森氏は、委員会の設立当初、メンバーでグーグル社を見学したときのことを振り返る。「広いフロア全体で、複合機が1台しかないことを見て、弊社の取締役をはじめ、全員が衝撃を受けた。何でも印刷していた当社とは大違い。当社のペーパーレス化の原点ともいえる体験だった」(森氏)
現在同社では、110種類の申請書がrakumoワークフロー上で稼働している。複雑な帳票の場合は、全てをワークフローのデータに乗せるのでなく、元の帳票をそのまま使い、ワークフローに添付することで内容を確認するなどの工夫を施しているという。
社内の情報共有については、従来のグループウェアから社内掲示板を使っていたが、掲示板の場合は見に来なければ確認できない。そこで、rakumoボード(掲示板)のメール配信機能を使って、掲示板に書き込まれる情報は社員にメールでも送るようにした。「リアルの掲示板でも、自分で立ち止まって読まないと目にすることすらない。そのため、メールを送ることで目にとどめてもらうようにした」(森氏)。
全ての情報がメールで送られるわけではなく、所属部署に関連するものだけを送ることができるため、目を集めやすいという。掲示板にはコロナ禍で入社した新入社員の動画をrakumoボードに登録し、社内で共有した。
ハナマルキにとってDXとは何か。森氏は、道具を利用した業務クオリティーの向上、個人の生産性からチームの生産性向上への変化、そして、次の100年につなぐニューノーマルの働き方という3点を挙げた。
「今までは個人のレベルアップがクローズアップされがちだったが、クラウドはチームの能力を高め、結果的に会社全体の生産性が向上する。次の100年を、時代に合った働き方で発展し、ものづくりを継承することがハナマルキの考えるDXだ」(森氏)
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