パナソニック100拠点に「SAP S/4HANA」を導入 "あるツール"でリプレースを標準化
パナソニックグループはSCM(サプライチェーンマネジメント)最適化に向けてオンプレERPから「SAP S/4HANA Cloud」への移行を進めている。そのスピードを早め、導入コストを抑える手段として「あるツール」を戦略的に利用しているという。
パナソニックグループはSCM(サプライチェーンマネジメント)最適化を目指し、オンプレミスで運用していたERPを「SAP S/4HANA Cloud」(以下、SAP S/4HANA)に移行する。「5年以内にSAP S/4HANAを100拠点以上に導入する」予定があるが、移行にあたって事業会社ごとにバラバラな業務プロセスを見直し、改善を進めながら標準化する必要がある。そのスピードを早め、導入コストを抑えるために、同グループでは「あるツール」を活用することにした。
パナソニックグループのデジタル戦略の中核を担うパナソニック インフォメーションシステムズの富江庄一氏(取締役 海外ソリューション事業部長)と新谷梨乃氏(海外ソリューション事業部)が取り組みを共有した。
SAP S/4HANAへの移行でバラバラなSCMプロセスを統合
2022年4月から持ち株会社制に移行し、各事業会社が独立性を持った自主責任経営を推進するパナソニックグループ。事業会社の競争力強化のために、DX(デジタルトランスフォーメーション)プロジェクト「PX」(Panasonic Transformation)に力を入れている。
PXは、「カルチャーの変革」「オペレーティング・モデルの変革」「ITの変革」の3階層で推進される。ITの変革に関する取り組みの一つが、SCMの最適化だ。
「2021年2月、グループCIOの玉置 肇は着任後すぐに100日間計画を策定し、DXに向けた体制を構築しました。実行テーマの一つとなっていたのがSCM最適化でした」とパナソニック インフォメーションシステムズの富江氏は語る。
パナソニックグループの事業やビジネスモデルは多岐にわたり、SCMプロセスも多様だ。従来は、基幹業務全てを多数のアドオン機能を施したオンプレERPで実現し、事業や地域に従って個別に展開していた。このバラバラのSCMプロセスを見直し、マスターを統合することを目指す。
SCMを支えるシステム基盤のモダナイゼーションには、SAP S/4HANAを採用した。「ERP適用領域の標準化」「事業要件・テンプレート化」「クラウドネイティブ」といった戦略で展開するという。
「当グループではこれから数年間で100サイトのシステム基盤をモダナイゼーションしていきますが、一つ一つじっくりと時間をかけてやるわけにはいきません。展開に掛かる時間を短くサイクル化し、そのプロセスを定量的に可視化します。導入前後の変化もしっかりと数値化することで経営陣に成果を示します。生産性向上、そしてオペレーショナル・エクセレンスの実現を図ります」(冨江氏)
導入の短期化、コスト削減のための戦略
SAP導入では、特定の業種や業務プロセス向けに、事前にSAPのパラメータとアドオンを設定した「テンプレート」を利用することで、設定作業やテストに要する時間を減らし、プロジェクトの期間を短縮できる。パナソニックグループでも、SAP S/4HANAのグローバルテンプレートを作り、事業会社の地域ごとに展開する予定だ。
これに当たって、個別の会社で発生している業務課題を改善しながら標準化を進める必要がある。パナソニックグループでは、プロセスマイニングツールの「Celonis」を採用し、業務プロセスのAs Isとボトルネックを可視化してスピーディーな改善案につなげているという。
新谷氏はSAP S/4HANAのテンプレート展開を予定している海外販売会社のA社・B社でCelonisによる分析を実施した結果を次のように話す。
A社では、ユーザー数がたったの82人にもかかわらず受注から入金までのプロセスが3万パターン以上も存在することが分かった。「在庫不足による数量変更」「価格マスターの不整合による価格変更」など変更アクティビティーが多発していたためだった。
他方、B社では年間オーダーキャンセル数が22万件以上も発生していた。キャンセルの約70%はオペレーターによる手動キャンセルであったことから、一部オペレーターの作業ミスが多発していると予想できた。約50%が一部の品目で占められていたことや、約70%が顧客からのオーダーの期限切れだったことから、特定の人気商品で在庫不足が常態化している問題を発見した。
「Celonisで見える化したデータを基に仮説を立てて、業務プロセスを改善できます」(新谷氏)
プロセスマイニングで改善スピードを速める
調査ではERPに700近くのアドオンプログラムの存在が判明し、その約80%は削減もしくは共通化できるという結論も得られた。従来は、声の大きい現場責任者の要望によってアドオン機能が開発されることが多かったが、使用頻度データという証拠を示すことで、削減を論理的に提案できたという。
Celonis活用により期待される効果について、新谷氏は次のように説明する。
「従来型のシステム導入プロジェクトでは、作業の起点は“人”でした。そのせいで網羅性と客観性に欠け、現場の業務と懸け離れたシステムになってしまうこともありました。Celonisを活用したシステム導入では、“データ”が起点になります。網羅的に全プロセスパターンを追うことができ、客観的に業務課題の特定と改善提案ができます。データという圧倒的な証拠を持って、改善のスピードを速めることで、SAP S/4 HANAの展開に掛かる時間を最大で約50%削減できると考えています」(新谷氏)
パナソニックグループCIOの玉置 肇氏は、自身のTwitterで「5年以内にSAP S/4 HANAを100拠点以上に導入予定」とつぶやいている。この壮大な計画に対しても新谷氏は「Celonisを使えばショートカットできる」と自信をのぞせる。
最後に富江氏が同社のCelonis適用ロードマップについて説明した。
「SAP以外にも、当社グループには多くのレガシーシステムがあります。それらにもモダナイゼーションのアプローチの一つとしてCelonisを活用したい。またデータドリブンという観点からも、あらゆる切り口で、数値化に取り組みます。システムモダナイゼーションの成功がPXの成功につながると考えています」(富江氏)
本記事は、2022年6月28日に行われた「Celonis World Tour 2022 東京」での事例セッションの講演内容を基に編集部で再構成した。
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