Teams大好き企業が「Zoom Phone」に寝返った理由
ひと昔前は、何かあれば電話で仕事の要件を固めていたものだが、Web会議の台頭によって電話のありようも変わってきた。ある企業では、通話環境をクラウド型PBX「Zoom Phone」に刷新したという。このツール選定には裏があった。同社では既にTeamsの利用が浸透していたが、Teams関連のツールをあえて選ばなかったのだ。その事情とは?
ふと思った。Web会議で人と話をする機会が増えたが、電話ではほぼ人と会話していない。いや、数日前に車のディーラーから連絡はあったものの、ここ一カ月でみれば片手で足りる程度の数だ。
ひと昔前は、何かあればメールと電話で仕事の要件を固めていたものだが、今はすっかり電話をしなくなったし、かかってもこなくなった。テレワークが進む中、「Slack」のようなツールを駆使してやりとりしたほうが、履歴も残せるし相手の時間を消費することも少なくて済む。Web会議で打ち合わせは成り立っており、敢えて電話を選択する場面が減っているように感じている。特に仕事においてはその傾向が顕著だ。
Teams大好き企業が新興PBXの「Zoom Phone」を選んだ理由
職場の通話環境もこうした事情に合わせてアップデートが進んでいるようだ。
最近、ある企業が全社の通話環境をWeb会議ソリューションベンダーが提供するクラウド型PBXサービスに切り替えたという話を耳にした。同社では社内コミュニケーション基盤として「Microsoft Teams」が広く浸透しており、順当にいけば「Microsoft Teams 電話」を選択するのがシンプルだ。だがその企業が最終的に選んだのはZoomが提供する「Zoom Phone」だった。その背景には“ある事情”があったという。
同社では、Zoom PhoneやMicrosoft Teams 電話の他にシスコの「Webex Calling」もクラウドPBXの選択肢に挙げられた。
既に社内で普及していたTeams関連のサービスを選ばなかった理由は、BCPのためだという。「メールやチャット、Web会議など全てのコミュニケーションがMicrosoft Teamsに依存してしまっている状況から脱却したかった。事業継続を考えると、別のソリューションを選択すべきだと判断したのです」とのこと。
もう一つの選択肢だったWebex Callingはどうだったのか。シスコはかつて、「Cisco Call Manager」と呼ばれるPBXソリューションを多くの企業に提供してきた実績を持ち、現在は「Cisco Unified Communications Manager」を提供している。ある意味ではPBXに関する老舗企業だ。シスコは技術的なノウハウも豊富だと個人的には考えているが、例の企業が選んだのは、PBXとして実績の乏しいZoom Phoneだった。
その“表向き”の理由は、「顧客体験価値の高さ」だったという。「Web会議ツールとしてWebexもZoomも利用しているため、それぞれの使い勝手について社内でさまざまな意見が散見されますが、Zoomのほうが全体的なエクスペリエンスが高いと判断したのです」。
きれいにまとめるとそういうことになるが、実際は従業員レベルではどちらでも使いこなせるものの、役職が上になればなるほどZoomのほうが使いやすく、ウケがいい、というのが本音らしい。社内に一部残っているIP電話機よりも、Zoom Phone専用機のほうが安価だった点も選択理由の一つだと教えてくれた。
ただし、PBXとしての実績が乏しいZoomへの懸念は残っており、運用しながらしっかり注視していきたいと力説していた。「公衆電話網に接続するセッションボーダーコントローラーの投資が必要でしたが、それ以外はクラウドサービスであるが故に、いつでも切り替えられる。すぐに辞められるからと事業者側にもプレッシャーをかけているよ」と赤裸々に語ってくれた。
固定電話はもう“いらない”のか?
コミュニケーション手段の変遷に伴って、企業では電話環境の整備、再構築が進んでいるようだ。網サービスとしては、かつてPSTN(Public Switched Telephone Networks)が電話網の中心だったが、電話交換機が2025年には寿命を迎えるといわれており、網そのものもIPへの転換が進みつつある。従来型の固定電話から、今や「050型IP電話」や「0ABJ型IP電話」を利用するケースが一般的になっている。
総務省の「令和3年版 情報通信白書」では、固定電話(NTT東西加入電話、直収電話、CATV電話及び0ABJ型IP電話)市場における全契約数は2020年度末時点で5284万(前年同期比1.5%減)であり、そもそも固定電話自体が減少傾向であることが見てとれる。2009年には3793万の契約数があったNTT東西加入電話は、2020年には1573万と半数以下の落ち込みだ。一方、0ABJ型IP電話は増加傾向で、前年比1.3%増、固定電話市場全体に占める割合も67.5%にまで膨らんでいる。
そんなIP電話を中心とした固定電話も、テレワークが常態化しつつある中で、いずれは携帯電話をはじめとした移動通信によって代替されていくだろう。オフィスの形態も、従業員個人の机が固定されていた状況から、自由に席が選択できるフリーアドレスを採用するケースが出てきている(アイティメディアもコロナ禍のなかでフリーアドレスに移行した企業だ)。その場合、席に固定電話機を設置するのではなく、スマートフォンを内線電話がわりに利用することも多くなるはずだ。ただし、現時点では全てのIP電話を撤去するには至っていないのが現実だろう。
出張先で子供から電話、念押しされた大事な要件
時代の荒波の中で電話を取り巻く環境は大きく変化している。そうはいっても、緊急性を要する場面では、電話は欠かせないコミュニケーションツールだと個人的には考えている。それ故、普段鳴らない電話が急に反応すると、なぜかドキッとしてしまうものだ。まあ、着信履歴を見ると電話帳に登録のない電話番号からの着信が多く、その多くがマンション投資などの営業電話だったりするのだが。
わが家では家族からの緊急連絡は、主にLINEの音声通話機能を使っている。「子供が急に熱を出したと連絡があった。保育園に迎えにいける?」「雨降ってきたので、洗濯物取り込んで!」と可及的速やかな対応要件の場合が中心だ。声のトーンで緊急度が伝わることが、音声の大きな魅力だろう。
一方で、子供からの電話は緊急性とはちょっと違う。「お土産、地域限定で売られているキーホルダーが欲しいんだけどな」と出張先にまでアピールしてくる様子は、緊急性よりも念押しの意味合いが間違いなく強い。電話でのひと押しが私の行動変容を促すという意味で、効果絶大である。ふう、今回の出張もキーホルダー探しが一番のミッションになりそうだ。
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