プロジェクト管理ツールの利用状況(2022年)/後編
コロナ渦をきっかけに変化した多様な環境下で、プロジェクト管理の難易度が高まっている。後編となる本稿は、プロジェクト管理ツールの重視ポイントや満足度など、利用実態を紹介する。企業規模別のプロジェクト管理の課題が見えてくる。
キーマンズネットは2022年12月2〜16日にわたり「プロジェクト管理ツールの利用状況」に関する調査を実施した。有効回答数は213件だった。
前編は、コロナ渦をきっかけに変化した多様な環境下でプロジェクト管理の難易度が高まっていることや、直近1年で導入率が6.6ポイントと急増している現状を紹介した。後編は、ツールの重視ポイントや満足度などを紹介する。フリーコメントで聞いた「プロジェクト管理ツールへの要望」では、ツール導入の障壁がよく分かる。
プロジェクト管理ツールの重視ポイントは?
はじめに、プロジェクト管理ツールで重視するポイントを聞いたところ「操作性の良さ」(76.1%)と「運用コスト」(55.9%)、「導入コスト」(50.2%)の3項目で半数を超える結果となった(図1)。
前編で触れた通り、バックオフィスを含む全部門での導入が増えたことで、プロジェクトに関わる従業員の経験やITスキルの有無といった“リテラシー格差を生じさせない操作性”が求められているとみられる。同様に、コストや費用対効果への意識が高まっていることも予測できる。
他にも「リモート環境での進捗共有のしやすさ」(33.8%)や「アクセス権限管理などのセキュリティ機能の充実」(21.1%)など、テレワークにおけるプロジェクトの支援機能が注目されている。
ツールへの不満が増加傾向?
続いてプロジェクト管理ツールを利用している方の満足度を調査したところ「とても満足している」(7.9%)と「まあ満足している」(55.3%)を合わせ、過半数の63.2%が「満足」と回答した(図2)。
規模別に見ると、100人以下の中小企業帯では「満足」は7割を超えたが、1001人以上の大企業帯では6割にとどまるなど、従業員規模が大きくなるにつれ満足度も下がる傾向にあった。
「満足」とした人のフリーコメントでは「目標を明確に示せており、各自の進捗(しんちょく)もしっかり可視化できている」や「問題の発生のトレースが可能で、履歴を残りのメンバーで共有できる」といった、進捗管理や情報共有の円滑化に役立っているとの声が多かった。
一方、「自由度が高いからか、使う側の能力に頼る部分もあり、ある程度の知識がないと使いこなせない」とのコメントがあり、従業員数が多くプロジェクト経験やリテラシーの差が生じやすい大企業帯においては、活用できている人とできていない人の差が出やすい点が課題となりそうだ。
「不満」と回答した人のコメントでは、「直観的な使い勝手が悪い」「安いが仕様や囲い込みによる制限が多く使い勝手がよくない」といった、UIや機能面の不満が多く挙げられた。
また、「細かな機能の違いで幾つかのSaaSが立っている」や「全社共通ではなく社外とのやりとりはセキュリティルールを理由にメール中心のまま」「プラスαの管理要素を取り入れ難く、別管理が必要になること」など、社内外で複数のプロジェクト管理ツールが利用されていることで、管理の手間が増えているといった声も少なくなかった。「コストパフォーマンスに欠けるのではないかという意見が社内から出ている」と、ツール有用性の見直しに至るケースもあるようだ。
こうした不満はリプレース検討にまでは影響しない様子で、リプレース予定が「ある」(11.8%)とした人は1割程度にとどまり「なし」(36.8%)が3倍以上というのが実情だ(図3)。
しかし、過半数が「分からない」(51.3%)としており、市場に多くのプロジェクト管理ツールが存在し、リプレース対象ツールの選定コストがかかることから、様子見しているのが現状とみられる。
213人に聞く「プロジェクト管理ツールへの要望」で分かる障壁
プロジェクト管理ツール自体「必要性を感じない」と回答した人の理由を紹介する。最も多かったのは「対象となるプロジェクトがない」(46.3%)で、次いで「表計算ソフトで十分」(34.1%)、「運用、導入コストが高い」(24.4%)、「利用イメージが湧かない」(24.4%)となった(図4)。
「必要性を感じない」の回答は100人以下の中小企業帯が中心で、1001人以上の大企業帯の回答数の約4倍であった。そのため、本結果は主に「中小企業でツールが利用されない理由」と置き換えてもよさそうだ。
最後に全体に対して「プロジェクト管理ツールへの要望」をフリーコメントで聞いた。回答は3つに大別され、1つ目は「使い勝手の向上およびサポートの充実」だ。「分かりやすい画面(何をすればよいか、マニュアルが無くても分かる)」や「パッと見ただけである程度直感的に理解可能なものが好ましい」などには、「説明がなくても感覚的に使えるようなUIを期待している。最初のとっかかりで抵抗があり利用してくれない」といった背景があるようだ。
プロジェクト管理ツールはメンバーの進捗や業務報告の入力が前提となるツールであるだけに、使い勝手の悪さによって情報入力がおろそかになれば、そもそも導入の目的が果たせなくなる。サービス提供側にサポートを要望する声も多く「全社でツールを使いこなせるようになるまでが大変。誰でもすぐ質問できるとよい」や「サポート時間の拡張」などが寄せられた。
2つ目は「カスタマイズ性」への要望だ。「管理フォーマットの種類を増やしてほしい」や「線表、課題管理表の作成などカスタマイズができるようにしてほしい」「Webでの管理は便利だが、『Microsoft Excel』やCSVファイルへのエクスポート機能も欲しい」など、機能や仕様への要望の他、自社でカスタマイズができるよう「柔軟に拡張できるAPIなどの情報公開に注力してほしい」との声があった。
3つ目は「いろいろなプロジェクト管理ツールでデータの共有方法が統一されるとうれしい」にみられる、「管理ツールの一元化」についての要望だ。背景には「機能特化型でカバー範囲が狭い、全方位型だが各機能が不十分でサービスが乱立する現状をどうにかしたい」といった、カスタマイズ性に関連したジレンマがあるようだ。
結果、「社内で統一しようという全社的で長期的な動きと、部署で使いやすいものを導入したいという短期的で現実的な思いが合致しない」という問題が生じている。こうした要望に対し、プロジェクト管理ツール側でもカスタマイズ性や業界や業務に特化したツールなどさまざまな進化を遂げている。一方、市場に多くのサービスが展開されているため選定コストも相応に見込まれることが、企業への導入やリプレースがそこまで伸びていない原因となっている可能性もありそうだ。
全回答者数213人の内訳は、情報システム部門が39.9%、製造・生産部門が14.1%、営業・販売部門が8.9%、経営者・経営企画部門が7.9%などだった。なお、グラフ内で使用している合計値と合計欄の値が丸め誤差により一致しない場合がある。
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