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オフィス移転は「総合格闘技」 知らないと地獄をみるアンチパターンまとめ

オフィス移転は、誰しもが経験できるものではないことから「花形のプロジェクト」ともいえます。筆者はフロア拡張やフロア異動、新築への引っ越しを1回ずつ指揮したため、身をもってその難しさを体験しました。これらの経験を踏まえて、オフィス移転のアンチパターンについてお話しします。

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情シス百物語

「IT百物語蒐集家」としてITかいわいについてnoteを更新する久松氏が、情シス部長を2社で担当した経験を基に、情シスに関する由無し事を言語化します。

 コロナ禍以前、ITベンチャーを中心に「きれいなオフィスに移転する」というのが一つのステータスでした。ウィズコロナ時代となり、オフィスを縮小する企業と再度オフラインに集合する将来を見据えて増床する企業に分かれています。

 いずれにせよ、情シスはオフィス移転という一大イベントに見舞われることになります。個人的にオフィス移転はネットワークやコンピュータに加えて、ソフトウェアへの配慮も必要ということで、「総合格闘技」だと思っています。誰しもが経験できるというものでもないことから、「花形のプロジェクト」でもあると思います。

 私はオフィス移転でフロア拡張やフロア異動、新築への引っ越しを1回ずつ指揮しました。その後、さらにもう一度引っ越しをしましたが、介入すればよかったと後悔しています。これらの経験も踏まえて、オフィス移転のアンチパターンについてお話しします。

 まず、移転先が新築のオフィスかそうでないかで大きく分かれます。加えて内装に拘るかどうかでまた注意点は異なってきます。それぞれのパターンについて見ていきたいと思います。

新築のパターン

 先人の配線もないので気持ちよくオフィスを使えます。LANや電話線の敷設も業者と一緒であれば難しくはないでしょう。ただし、意識しなければならないものとして「B工事」と「原状復帰」があります。

 机のレイアウトや個数によっては電源を増設する必要がありますが、場合によっては、費用は借主負担だがビル本体に関わる工事のためオーナーが業者を指定するB工事が必要なケースがあります。かなりコストがかさむため、常に関係者や決裁者を巻き込んで進める必要があります。

 まれに「配線を通すためにコンクリートに穴を開けたい」と言い出す人がいますが、B工事と併せて原状復帰の対象か否かを確認すべきでしょう。

居抜きのパターン

 先に他社が入居しており、後から自社が入る場合です。造作物も含めて居抜きで入る場合もあります。新規購入品が減るので喜ばしい半面、落とし穴も存在します。

配線図を手に入れよう

 特に電源の配線図は、前企業担当者に交渉して手に入れましょう。過去の引っ越しでどうにも配線が分からず、ほぼ床を剥がしてしまったこともあります。この規模の作業は基本的に業務の邪魔になるので休日作業になります。スムーズな解決をするためにも入手したいアイテムです。

 ただし配線図の制作後に前企業が配線を変更してしまった場合もあります。配線図をうのみにするのではなく、いくつか床を剥がしてみて実情と配線図の乖離(かいり)具合をチェックしておくことをお勧めします。

前企業の配線は捨てよ

 一見再利用ができて便利だと思うのも分からなくはないのですが、断線のリスクなどを考えると後々厄介です。また、有線ケーブルのツメが折れていたり、CAT-5のような旧規格のケーブルが混ざっていたりするとネットワークのパフォーマンスに影響します。

 線が足りなくなってリピーターハブをかましている場合も、ハブを捨てましょう。巨大なフロアの場合、ハブが扱えるケーブルの規格を越えているケースもあるので注意が必要です。ネットワークトポロジーからやり直した方がよいでしょう。

縦系配線に注意

 特に古いビルで問題になりやすいのが、階をまたいだ垂直方向の配線です。パイプに光ファイバーやイーサネットケーブルなどを通していくのですが、先の配線と同じで過去の企業が放置したままで、配管に余裕がない場合があります。ここが詰まっていると、自社のフロアから伸びている不要な配線を調べて引き抜くという作業が発生し、なかなかに厄介です。

 一般のマンションでも配管のサイズが戸数に対して少ない量を想定しており、新規の配線ができなかったという話も耳にします。

 オフィスの下見の際は懇意にしている電気工事屋さんと共にチェックすることをお勧めします。

新築・中古に関わらず内装に拘るパターン

 油断すると危ういのが内装に拘るパターンです。コロナ禍以前のIT業界は、資金調達や株式上場後の資金の使い道として「きれいなオフィス」を挙げる企業が散見されました。その結果、主にIT企業を対象とした内装設計・施工会社なども存在しています。

 複数の経営者を見てきて分かってきたことですが、経営をする上で満足感を得やすいマイルストーンは下記の4点と感じています。

  • 新卒採用
  • (ドラマやCMの撮影に使われるくらい)きれいなオフィス
  • 海外展開
  • 上場

 マイルストーンの一つである「きれいなオフィス」はかなり資金が“ぶっ飛びやすい”です。施工会社もイケイケなところが多いので、「2フロアぶち抜きのらせん階段」などを提案してきますが、原状復帰と消防法の前に挫折しやすいです。

 らせん階段ほどではなくても「滝を作りたい」「カフェスタンドを作りたい」などもあります。一般従業員は別に構わないのですが、情シス目線では配線しようと思っていたところに「巨大造形物がある」といった非常事態に陥りがちです。

 天井もスケルトンにしたがる風潮がありますが、隠したつもりの天井裏設置の無線LANや配線が「景観を概してしまう」とクレームをもらいがちなため、配慮が必要です。

 こうしたことから、電気工事会社だけでなく、内装工事の現場監督らとは仲良くしておくことが重要です。ただし、どんなに仲良くなっても彼らからすると配線の優先順位は低いです。マメに下記のことを意識しながらコミュニケーションを取りましょう。

  • 工事の状況
  • 工事の変更箇所
  • 配線の観点からどのようにすればよいかという確認
  • 事前に配線をする必要があれば、そのタイミング

 過去の経験で一番頭を抱えたオーダーは「オフィスエリアの一部にモルタルを流し込み、床を上げたい」というものでした。その上に机を置いて従業員が仕事をするので、電源や電話、LANの配線が必要になります。そうなると、配線用の溝を作ったり、流し込む前に一部配線をしたりする必要があるわけです。幸か不幸か原状復帰の観点から頓挫しましたが、将来的な電源追加工事もできませんし、頭が痛かった一件です。

共通のパターン

 最後にいずれのオフィス移転にもよくある注意事項についてお話しします。

他社の無線LANで混み合っていないかどうかをチェックする

 恵比寿にオフィスがあった際、無線LANのパフォーマンスに悩まされました。ビルが密接したエリアだったこともあり、同一フロアの他社や、近隣ビルの他社、近隣マンションの一般家庭も含めた無線LANが乱立している状態でした。

 2.4GHz帯は当然のように厳しく、加えて5GHz帯非対応の安価なノートPCが社内にあふれていたことから切り替えもできません。「社内無線LANが遅いから」と社用携帯でテザリングし始める人も出てきて無線LANが乱立し、手がつけられなくなりました。結果、片っ端から有線LANに切り替えるという地道な作戦で乗り切ったことがあります。

信頼の置ける電気工事業者を見つけよう

 これは非常に重要なポイントです。

 個人的にも苦い経験があります。私がまだ情シスではなかった頃、オフィス拡張に当たってネットワーク敷設やラック移動作業を、出入りしている業者に総務部が任せました。翌営業日には全域のネットワークパフォーマンスが著しく低下し、さらに半数が不通になったということがありました。

 調べてみると、VLANの切られていたスイッチのポートにはランダムにイーサネットケーブルが刺さり、床下を剥がしてみると数十センチ足りなかったようで、20本全てがJJコネクターを使って延長されていたことがありました。

 当時ほぼ初見だった自社のネットワークでしたが、従業員の不満の声を背中で受けながら、無理やりラックを移動してJJコネクターを排除し、逐次確認しながら全てのケーブルを挿し直すという、忘れられない作業をしました。そこから情シスを兼務することになりました。

ネットワークトポロジーをいじるか、いじらないか

 オフィス移転をきっかけにネットワークトポロジーもいじりたくなることがあります。思い切ってアドレスレンジを拡張したり、整理したりするというものです。

 個人的な見解として、オフィス移転時にネットワークトポロジーを切り替えるのは、全くお勧めできません。オフィス移転直後は、全くトラブルがなかったとしても「プリンタはどこですか?」というような軽微な質問が飛び交います。ここに加えて「ネットワークがつながりません」という問い合わせを複数受けるのはリスクが高すぎます。

 トポロジー変更はオフィス移転前か、移転後の落ち着いた別フェーズに実施するのが妥当でしょう。

社内サーバをクラウド化するかどうか

 ネットワークトポロジーと同様に、オフィス移転を機に社内サーバをクラウドリフト&シフトしたいという気持ちにもなりがちです。

 こちらもネットワークトポロジーと同様に、「つながらない」というトラブルになりやすいのでフェーズを分けることをお勧めします。

電話FAXを誰が面倒見るか問題

 意外と担当者不在になってしまうのが電話とFAXです。情シスが担当するケースもありますが、総務が担当するケースもあります。基本的な責務は総務なのか、情シスなのかをはっきりとさせておきましょう。

 個人的な見解としては、ユーザーからの問い合わせが情シスにくるというのであれば、巻き取ってしまってもいいのではと思います。PBXが社内サーバに同居しているケースもあるでしょうし、PBXのキャパシティープランニングとその業者対応などはコンピュータに明るい方がやるべきでしょう。

 VoIPであればネットワークも絡んでくるのでなおさら情シスが対応すべき領域です。エンジニア職の情シスが在籍しているなら対応したほうが効率的なケースが多いです。

旧物件の退去後の処理

 立つ鳥後を濁さずということで、きれいさっぱり残留物を無くす必要があります。

 リース品がごみになるケースはよくあります。また、移転の忙しさで「エイヤ!」と勢いよくモノを捨てる人は少なくなく、「旧オフィスの隅っこの段ボールに蓄積していたACアダプターの群れが丸ごと捨てられるトラブル」も経験したことがあります。

 個人的に、捨てられたACアダプターが後々必要になり、本体に電流も電圧も書かれておらず、当該メーカーに問い合わせた上で米国から取り寄せる羽目になったこともあります。ごみのチェックは率先してやりましょう。

評価への反映

 事前準備も含めるとオフィス移転は多大なる労力を伴います。特に新築オフィスで凝った内装の場合は、幾度となく現場に脚を運び、関係者と連絡を取りながら進めていましたので、片手間では限界があります。そのためにも評価設定にオフィス移転を含めることが望ましいです。

 しかし、「オフィス移転の完遂」などでは0か100かの評価になりますし、物件の契約を踏まえると0になることはまずありえません。不格好で障害だらけであっても完遂はできてしまうでしょう。上長としては移転の品質にこだわりたいところです。

 ややチャレンジングな指標ですが、オフィス移転後の障害件数を基にするのはお勧めです。いかにトラブル無く新しいオフィスで働けるかという点に重点を置くと、周囲の留飲も下がりやすいものです。下記のような形でまとめることが想定されます。

  • 障害につながる問い合わせ 0件
  • 数時間以内に解決できるライトな障害の発生
  • 1営業日以内に解決できる障害の発生
  • 3営業日以内に解決できる障害の発生
  • 大型障害の発生

 残業や休日出勤などもある大仕事です。自身の評価につながるような種まきを意識しておきましょう。

著者プロフィール:久松 剛(エンジニアリングマネージメント 社長)

 エンジニアリングマネージメントの社長兼「流しのEM」。博士(政策・メディア)。慶應義塾大学で大学教員を目指した後、ワーキングプアを経て、ネットマーケティングで情シス部長を担当し上場を経験。その後レバレジーズで開発部長やレバテックの技術顧問を担当後、LIGでフィリピン・ベトナム開発拠点EMやPjM、エンジニア採用・組織改善コンサルなどを行う。

 2022年にエンジニアリングマネージメントを設立し、スタートアップやベンチャー、老舗製造業でITエンジニア採用や研修、評価給与制度作成、ブランディングといった組織改善コンサルの他、セミナーなども開催する。

Twitter : @makaibito


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