検索
特集

アナログ作業に忙殺されていたJR九州グループの「労務ペーパーレス化」奮闘記

事業の成長に伴い、労務担当者の負担が増大していたJR九州システムソリューションズ。同社は「年末調整」などのペーパーレス化に挑戦し、工数を大幅に削減できたという。どのような課題を抱え、システム選定の際はどのようなポイントを重視したのだろうか。

PC用表示 関連情報
Share
Tweet
LINE
Hatena

 JR九州グループのIT戦略を担うJR九州システムソリューションズでは、事業拡大に伴う業務の増加やアナログな手続きが課題となっていた。そこで、同社は2021年4月から人事労務管理システムを導入し、「年末調整」をはじめとした各申請書類のペーパーレス化を実現した。グループ企業にも順次導入中だ。

 JR九州システムソリューションズでは、どのようにバックオフィス業務のシステム化を推進したのだろうか。効率化プロジェクトをけん引した同社の水城幸博氏(企画本部 経営企画部 部長)と野口貴浩氏(事業開発本部 HR事業部 部長)が成功の秘訣(ひけつ)を語った。

根強く残る紙文化 労務担当者の業務が限界に

 JR九州システムソリューションズはJR九州グループの「HR事業」や「デジタル化の推進」を担う企業だ。グループ全体へのシステム導入に先立って、まず取り組んだのが自社のペーパーレス化だった。

 当時、JR九州システムソリューションズでは、人事・労務関連の業務に次のような課題を抱えていたという。

 社内の申請書類は全て紙で、手作業による作成や煩雑な承認プロセス、保管場所の確保といった課題があった。申請書の提出や承認作業のために出社せざるを得ないこともあった。同社は近年の売り上げ拡大に伴い従業員も倍増しており、アナログな方法では申請書の処理が追い付かず、限界を感じていたという。

 事業成長に備えた業務基盤の構築も大きな課題だった。新たにバックオフィスの基盤を構築し、デジタル化やテレワークといった新しい働き方にも柔軟に対応していきたいと考えていた。


図1 JR九州システムソリューションズが抱えていた課題(出典:野口氏の講演資料)

 同社はこれらの課題を解決するために、他のシステムの機能も検証した上で、人事労務管理システム「SmartHR」の導入を決定した。水城氏は導入時に重視したポイントを次のように振り返る。

 「一番は操作性です。マニュアルを見なくても、誰でも直観的に操作できるかどうかを確認しました。また、ペーパーレス化によって、雇用契約の締結や人事労務の手続きの時間が大幅に削減できるかどうか、機能の汎用性およびニーズに沿った拡張性を備えているかどうかも重視しました」(水城氏)

自社導入後、グループ展開へ 苦労したポイントは?

 JR九州システムソリューションズは、2020年12月から2021年3月の約3カ月間を準備期間に当て、プロジェクトメンバーとSmartHRのカスタマーサクセス担当者間で連携しながら導入を進めた。グループ企業への展開時は、各企業の担当者もプロジェクトにメンバー入りしたという。

 「まずは、既存の運用を可視化するために、ワークフローの中で紙が使われている業務は何か、システムに移行できる業務は何かと、洗い出していく作業から始めました」(野口氏)


図2 プロジェクト体制(出典:野口氏の講演資料)

 洗い出された課題を一覧にまとめて自社内で要件を明確化し、不明点や実現可能性についてはSmartHRに確認しながら進めた。

 「SmartHRの担当者と密にコミュニケーションを取りながら、システムを設定していきました。導入から運用に至るまで問題なく遂行できたため、グループ企業に展開していきました」(野口氏)

 グループ企業への展開時はステークホルダーも増え、苦労もあった。野口氏は当時を振り返り「可能な限り既存の運用をベースに検討するものの、業務効率化の観点から変更が必要な運用もあり、それらを含めた検討および対応が大変だった」と語る。

 年末調整などのこれまで紙で行っていた申請業務を一斉にペーパーレス化するとなると、「閲覧・編集権限をどうするか」「どのようなワークフローを設けるか」など考慮すべきことが膨大にあったが、一つ一つ時間をかけて検討していったという。

 また、グループ企業の中には採用業務などを支店に移管しているケースもあり、本社と支店との役割分担を含めたワークフローの整理にも苦心した。

 APIの自動連携に関しては、既存システムの管理項目の中からどの項目を連携するか、想定よりも検討に時間を要した。「API連携においてはまだ対応していないところがある。今後の機能拡張を期待したい」と野口氏は話す。

システム導入後、作業時間が半分以下に

 バックオフィスの効率化に向けたプロジェクトで最も効果があったポイントは、申請書類の電子化に伴い、労務担当者の工数が減少したことだ。

 システム導入前と比べて、ある労務担当者は「年末調整」の作業時間を150時間から69時間まで減らすことに成功した。今後、作業に慣れていけばさらに削減できる見込みだという。

 特に年末調整には、多くの課題が付きまとっていた。従業員に申告書の記入を依頼してもなかなか回収が進まない。遠方の支店や事業所に原本を郵送し、さらに返送してもらうためのコストもかかる。従業員からは「書き方が分からない」という声も多く、記入ミスも多発していた。

 システム導入後は、従業員は画面上の質問に回答していくだけで、自動で申告書の作成が可能になった。度重なる法改正で複雑化する申請にも対応している。

 労務担当者は従業員の申告情報をリアルタイムに確認できるため、ミスを早期に発見できるようになった。紙の申請書の場合に起こりがちだった労務担当者の転記ミスもなくなった。その結果、業務にゆとりが生まれ、今まで手を付けられなかった新たな施策にも取り組めるようになったという。

 「バックオフィスの効率化で生まれた時間を活用して、従業員の体験価値を上げる施策を企画しています。例えば、テレワークでは人とのつながりが希薄になりやすいため、コミュニケーションを活性化できる企画などです。社員研修や資格制度もより充実させていきたいです。そういった施策の効果は、バックオフィスの効率化の効果として定量的には測れませんが、会社としては大きな価値につながっていると思います」(水城氏)

 また、グループ全体としてもシステム導入により属人化の解決につながると野口氏は話す。

 「システム化で円滑に業務が引き継がれるようになり、今後は人員の見直しやアウトソーシングも進んでいくのではないでしょうか。また、効率化によって空いた時間を活用して、戦略的な人材配置や人材育成といったタレントマネジメントにも積極的に取り組んでいけると考えています」(野口氏)

本稿は、2023年5月17日にSmartHRが開催したセミナー「企業の生産性と競争力を高める! JR九州グループのバックオフィス効率化の取り組み〜令和4-5年に係る年末調整法改正のポイントも解説〜」の内容を編集部で再構成した。

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

ページトップに戻る