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ハイスキル女性の離職問題、ママ起業家はどう解決した?

高度なスキルを持つ女性が産後に離職してしまう問題が浮き彫りになっている。ある起業家の解決方法とは。

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HR Dive

 アリソン・ロビンソン氏は2015年に最初の子供を出産した時、産休を取る予定はなく、ビジネスを始めるつもりもなかった。しかし、驚くべきことに彼女はその両方を実現した。

 「親になると人生がどれほど変わるかを予測するのはとても難しい。それは人生を最も変える出来事だ。私も多くの人々と同様、休職中に自分にとっての優先事項が明確になった」と同氏は語った。

情熱と意欲を持った母親と企業を結び付ける

 休職中、彼女は、高度なスキルを持つ女性の40%以上が出産を機に退職するというハーバード・ビジネス・レビューの統計(注1)を見つけて心を痛め、そういった女性を支援するビジネスのアイデアを思い付いた。

 休職中の母親であっても貢献できる点があることをロビンソン氏は知っていた。息子を出産する前、彼女はThe Procter & Gamble Company(P&G)でパンパースのブランドを担当しており、母親たちの行動を分析したのだ。

 「母親は家族のために不可能を可能にする」と彼女は言う。このような情熱と意欲を持った母親には、「家庭に理解のある企業で働く機会が必要だ」とロビンソン氏は考えた。そのような企業にとっても、将来性のある人材が必要だ。

 同氏は「この2つを結び付ける方法を見つけるべきだ」と考え、2016年に「The Mom Project」を設立した。

単なる求人情報サイトではない

 The Mom Projectは、女性と柔軟な仕事の機会、企業と優秀な求職者をつなぐデジタル人材プラットフォームだ。米国のシカゴに拠点を置くこの企業は、過去7年間で総額1億1600万ドルの資金を調達し、290人の正社員がフルリモートで働いている。このプラットフォームには120万人以上の専門家が登録しており、3000社以上がそのサービスを利用している。

 「このプラットフォームは単なる求人情報サイトではない」とロビンソン氏は強調する。このプラットフォームは人材獲得に関わる多くのサービスを提供し、職場復帰やリターンシップなどの機会を支援するものだ。フリーランスや有期雇用の人材も提供し、多様性に配慮した取り組みを行う。

 ロビンソン氏は次のように述べる。

 「多くの女性が仕事と家庭の両立に悩んでいる。女性が柔軟な労働環境を提供する企業と出会えないために、私たちはあまりにも多くの人材を失っている」

 「柔軟な労働環境の不足」以外にも、母親たちは幾つかの課題に直面している。一つは、パンデミックによって浮き彫りになった「子育て問題」だ。ロビンソン氏によれば、ロックダウン以降、保育サービスの機能が完全に回復していないという。パンデミック前と比べて現在は8万人以上の保育士が不足しており(注2)、その差は7.5%にも上り、保育料金を押し上げる原因となっている。

 もう一つの問題は有給休暇の取得が困難なことだ。米国労働統計局のデータによると(注3)、民間企業の従業員の4分の3が有給休暇を取得できていない。

 ロビンソン氏によれば、The Mom Projectが2022年に紹介した人材のうち、90%以上がテレワークの業務に就いたとのことだ。起業がハイブリッドワーク規定を定めたり、従業員をフルタイムでオフィスに呼び戻したりする中で、「それが親にとってつらいことなのは分かっている」と彼女は述べた。

 このような問題を解決するために、企業は柔軟な勤務形態を提供する必要がある。母親たちの中には、「仕事と家庭の両立の難しさがキャリアを阻害している」と言う人もいるのだ。調査会社のthe Pew Research Centerの報告書によると(注4)、雇用されている母親の半数が、「親であるために昇進が難しくなる」と答えている。仕事と子育ての両立の難しさについて尋ねると、約半数の回答者が「労働時間を減らす必要がある」と答えたり、「仕事に100%貢献できない」と答えたりした。

 企業にとっても、母親たちをサポートすることにはメリットがある。母親たちは貴重な人材プールだ。「キャリアにおいて、母親は特殊な存在だと言われると怒りを感じる」とロビンソン氏は言う。実際のところ、アメリカにおける母親のほとんどは働いているのだ(注5)。

 複数の指標で母親は優れた従業員であることが証明されている。WerkLabsが実施した調査によると(注6)、母親の同僚を持つ女性従業員は、母親の同僚を持たない従業員よりも2024年の予想生産性を12%高く評価している。また、母親の上司を持つ女性従業員の3分の2が「上司が全体的な生産性を向上させた」と答えた。

 母親たちは離職率を低下させる要因でもある。母親の同僚や上司がいる女性は、母親の同僚や上司がいない女性に比べて現在の職場にとどまる可能性が40%高いと報告されている。また、職場に母親がいることで福利厚生やコミュニケーション、従業員体験も向上することが分かった。

進歩への道筋

 ロビンソン氏は次のように述べる。

 「The Mom Projectは母親たちが自身のキャリアの可能性を最大限に発揮できるよう支援するものだ。そして、社会と経済にとってより大きなスケールで彼女たちの貢献と価値を最大化することを目指している」

 この使命を果たすためにThe Mom Projectは母親と就職の機会を結び付ける支援のみならず、女性が次のキャリアを歩むための準備にも力を入れている。2020年には、GoogleやSalesforce、Microsoftなどの企業を通じて、テック関連の資格認定を提供する奨学金プログラムである「RISE」を設立した。

 「このプログラムは特に有色人種の女性を対象にしている」とロビンソン氏は言う。パンデミックによってホスピタリティ産業に関連する仕事が途絶えたとき、有色人種の女性は過剰な被害を受けた。The Mom Projectは「収入を増やしたい」「キャリアパスを変えたい」「業界を変えたい」と考えている女性たちに、スキルアップの機会を提供しようとしている。

 ロビンソン氏は次のように述べる。

 「私たちはプラットフォームとエコシステムの力を活用して、それらの道筋を築く支援をしたかった。彼女たちが適切なスキルを持たない限り、潜在能力があるとしても就職につながらない恐れがある」

 このプログラムは、2022年の4500件を含め、開始以来7600件の奨学金を授与しており、2023年末までに1万件の奨学金を授与することを目標としている。

 ロビンソン氏は今後の抱負を以下のように述べた。

 「私たちがもたらした影響はまだ小さい。私たちはより多くの母親たちにサービスを提供するという大きな責任を負っている。現在は米国で事業を展開しているが、世界的なプラットフォームになることを目指している。キャリアについて悩む母親たちにとって、最も頼りになる存在になりたい。こうした思いは全て私たちのルーツから導かれている」

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