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「フリック入力なら高速ですが何か?」 ITリテラシーが低い社員への対応策

情シス担当者にとって、従業員のITリテラシーを上げることはヘルプデスクなどの業務負荷を下げるために必要不可欠です。見落としがちな教育ポイントや効果的な対策を紹介します。

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情シス百物語

「IT百物語蒐集家」としてITかいわいについてnoteを更新する久松氏が、情シス部長を2社で担当した経験を基に、情シスに関する由無し事を言語化します。

 情シス担当者にとって従業員のITリテラシーの向上は業務遂行において重要な問題です。特に2つの観点から従業員のITリテラシー向上が求められます。

 1つはヘルプデスクの業務量です。従業員のITリテラシーが低いと問い合わせが増加し、ヘルプデスクの業務量が増えます。ヘルプデスク業務が多く、ITリテラシーが低いからこそ仕事が発生するような場に甘んじている方もいますが、中長期的なキャリアを考えるとお勧めできません。

 かつて情シス担当者の面接で業務の内容を聞いた際、「ディスプレイの電源がよく抜かれるので挿し直しています」とだけ答えた方がいました。このような業務内容では良い待遇の獲得は厳しくなります。

 また、インシデントを未然に防ぐためにもITリテラシー教育は必要です。かつて100人規模の企業で、全く同じタイミングで同じ部署の人がウイルス添付の電子メールを開き、当該PCの全てのファイルがウイルス感染したことがありました。ヒアリングすると電子メールの日本語におかしいところはあったものの、本文に「手助けしてほしい」とあったことから気の毒に思ってクリックしてしまったそうです。以前ご紹介したPC紛失のお話もありますが、事故が起きてから対応すると時間も費用もかかります。

見落としがちなITリテラシー教育のポイント

 まず、ITリテラシー教育の見落としがちなポイントをお話しします。

繰り返すタッチタイピング問題

 特に新卒で見られるのが「タッチタイピングができない」「タイピングが遅い」という問題です。昨今はビジネスにチャットが頻繁に利用されるため、タイピング速度を気にする組織は多くあります。

 何も「今の若いものは」と言うつもりは毛頭ありません。2000年頃はPCが珍しかったため、キーボードに触る機会がない人が多くいました。その後2000年代後半になるとガラケーの台頭により「ガラケーのテンキーなら入力は早いですが、キーボードは遅いです」という方が出現しました。そして2010年代以降は「フリック入力なら早いですが」という方が出てきました。何も日本に限った話ではなく、海外でも同様の事象があります。

 往年のキーボード練習アプリですと「Ozawa-Ken」や「北斗の拳」が思い出されますが、情シスは自社のセキュリティポリシーを鑑みた上でお勧めのタイピングソフトを用意しておくとよいでしょう。「寿司打」などブラウザで動作するものをピックアップし、セキュリティチェックしておくことをお勧めします。

SNSや情報発信の管理

 過去に営業担当者が顧客のロゴの前で「これから商談です」とSNSに投稿し、問題になったことがありました。最近も従業員の男女関係絡みの問題がSNSで炎上し、ユーザーが離れていったスタートアップがありました。また社長が違法薬物の利用で逮捕され、「Facebook」に投稿していた“ハイになっている”画像が晒し上げられたこともありました。

 企業によっては社名を出したSNSアカウントの運用を禁じていたり、社名を出さなくても全てを禁止していたりすることがあります。また、公式サイトも発言によっては炎上するケースがあります。

 SNSは、ポジティブな使い方をすれば採用やブランディングにつながりますが、使い方を誤ると事業への悪影響があります。法務などと連携しながら、SNS利用時の公私の線引きルールを作成したり、運用ポリシーを作成したり、場合によっては入社時に覚書を締結したりすることも視野に入れるとよいでしょう。セキュリティ研修のコンテンツとして、事例を交えながら定期的に注意喚起することをお勧めします。

ITリテラシーを効果的に上げるには

 それでは、ITリテラシーを効果的に上げるための方法について紹介します。

集団レクチャーよりも個別レクチャーが有効なケースも

 コスト面から考えると対象者を同じ時間に一箇所に集めて教育したほうが効果的に思えるでしょう。しかし私のセミナー講師の経験上、この方法には2つの問題が発生します。

 一つは対象者のITリテラシーがバラバラであるため、コンテンツに過不足が発生することです。8割の内容を分かっている人は、知らない2割の情報を学ぶ前に集中力が切れます。

 もう一つは大勢の前で質問がしにくいという問題です。参加者は知り合いがいないような状況では質問する傾向がありますが、周囲が見知った人ばかりの場合は「そんなことも知らないのか」と思われないために質問しないことが多くあります。

 この2つを鑑みた場合、個別に時間を取ってレクチャーしたほうが結果的に効果が上がる場合があります。ある医療系組織では「iPhone」と「Slack」を導入した際、300人のスタッフの時間を個別に抑えてレクチャーしました。導入後の質問しやすい関係性づくりも期待できるでしょう。

 まずは小規模なシステムの導入などを通して、全体的なITリテラシーのレベルを確認し、集団レクチャーと個別レクチャーのどちらが有効か当たりをつけておくとよいでしょう。

業種によっては端末を変更する

 利用するデバイスを変更することでITリテラシー要件を下げることも有効です。例えば建築DX界隈では、建設現場の人たちはプライベートでiPhoneと「LINE」を利用していることから、iPhoneのアプリを用意したり、サービスにLINE風のインタフェースを実装したりする意思決定をしています。

 職場や職務によっては、「Windows」や「Android」の端末を利用しないことで下がるITリテラシー要件があります。

入社時の条件や目標に入れてしまう

 あるIT企業では、新卒入社者が営業職であってもITパスポートの取得を目標に入れています。ツールやSaaSの利用に抵抗のない人材を増やすという意味でも有用な施策であるため、デスクワークの人にも有効です。

 業務に支障がある低いITリテラシーの人であれば、中途入社者であっても、目標に入れてよいでしょう。

退職を匂わす過激な対策もある

 より激しい例ではありますが、一部の企業では低パフォーマンスの従業員に対しPIP(Performance Improvement Plan:業績改善計画)を導入しています。退職パッケージを伴う早期退職プランを受け入れるか、PIPの教育を経て合意した基準にならなかった場合はダウングレードした退職パッケージを受け入れて去っていくというのが一般的です。

 こうした動きは職種を問わず聞こえ始めており、情報リテラシーという観点もスコープになるケースがあります。機械系エンジニアに対してWebエンジニアになるように設定するケースもあります。こういった過激な対策があることも頭の片隅に置いておくことをお勧めします。

著者プロフィール:久松 剛(エンジニアリングマネージメント 社長)

 エンジニアリングマネージメントの社長兼「流しのEM」。博士(政策・メディア)。慶應義塾大学で大学教員を目指した後、ワーキングプアを経て、ネットマーケティングで情シス部長を担当し上場を経験。その後レバレジーズで開発部長やレバテックの技術顧問を担当後、LIGでフィリピン・ベトナム開発拠点EMやPjM、エンジニア採用・組織改善コンサルなどを行う。

 2022年にエンジニアリングマネージメントを設立し、スタートアップやベンチャー、老舗製造業でITエンジニア採用や研修、評価給与制度作成、ブランディングといった組織改善コンサルの他、セミナーなども開催する。

Twitter : @makaibito


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