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「経営層が低ITリテラシーで予算がとれない……」 タイプ別、説得の“ツボ”を解説

ITソリューションの導入や社内向けシステムの開発、PCの新規導入などで経営層の低ITリテラシーが障壁になりがちです。経営層のタイプ別で起こる問題とアプローチのポイントをお話しします。

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情シス百物語

「IT百物語蒐集家」としてITかいわいについてnoteを更新する久松氏が、情シス部長を2社で担当した経験を基に、情シスに関する由無し事を言語化します。

 業務を進める上で問題になるのが従業員のITリテラシーです。従業員のITリテラシーについては別の回でお話したように、ある程度の手の打ちようがあります。

 対応が難しいのが経営層のITリテラシーによる問題です。ITソリューションの導入や社内向けシステムの開発、PCの新規導入などでは、予算執行の稟議で経営層が壁として立ちはだかるケースもあれば、従業員ルールを超越して単独ルールで行動する経営層を止められないというケースもあります。

 ある情シスからは、BYODの観点から従業員には「私物スマホの紛失であってもひも付けたアカウントの対応が必要なので連絡するように」と社内で取り決めたものの、経営層が何度も夜の街でスマホを紛失し、未報告だったという話を聞きました。

 今回は、経営層のタイプ別に起こるITリテラシーによる問題と、そういった経営層にアプローチする際のポイントをお話しします。

経営層タイプ別のリテラシー問題

 情シスかいわいにいると、「御社の社長はエンジニア出身だから羨ましい」などの話を耳にすることが多々あります。私もかつてそう思っていましたが、考えを改めるようになりました。

経営層が元エンジニア・現役エンジニアの悩み

 まず、「どこの企業」で「いつ」「何の」エンジニアをしていたのかによって問題は変わります。

 2000年代以前のSIerやソフトウェアハウスはブラック企業が多く、エンジニアに貸与されるPCも極端に古かったり、計算機資源が不足したりしていました。もちろんこの環境を踏まえて「もっと良い計算機を従業員に渡して業務効率化をして欲しい」と考える経営層もいますが、「自分たちが若いころに仕事ができていたので低スペックのPCで問題ないだろう」と考える経営層もいます。

 「『Mac』だと高級なので10年使える」と思い込んでいる人にも会いしました。知識内容はアップデートされているかという点も含めて注意が必要です。

 経営層の前職の企業フェーズも重要です。ガチガチに固められたセキュリティ基準を持つ上場会社からBYODやむなしのスタートアップに移ってきた場合、予算の大きさもリテラシーレベルも違いすぎるので相互理解は進みにくいです。逆のケースも、厳しいルールに従って貰うことで別の困難が発生します。

 情シスは、経営層がプログラマー出身者の場合にも注意する必要があります。1990年代や2000年代の職場で情シスは「PCに詳しい人に依頼するポジション」でした。経営層がSIerやSESの文化に親しんでいた場合、事業貢献を売上として計算するため、事業貢献の見えづらい情シスを下に見る傾向もあります。バックオフィスと一緒くたにされたりすることもあり、情シスはIT投資の交渉も給与交渉もしにくくなりがちです。

プログラミングスクールで分かった気になられても困る

 「エンジニアのことを理解するためにプログラミングスクールに通ってみた」という経営層の方にも会いすることがあります。システム開発を内製するにしても外注するにしても、ビジネスの見通しをつけられるようになるための方法です。

 個人的には下記の観点からプログラミングスクールに通う必要はないと考えています。

  • プログラミングスクールの質が玉石混交であるため、偏ったり誤ったりした知識を持たれるとマイナスになる
  • プログラミングスクールは一般的に1カ月〜数カ月のカリキュラムであり、修了しても知識はエンジニア評価制度の一段階目にも満たない

 経営層のゴールに依りますが、自身でプログラムを組まない限りはプログラミング知識の重要性は低いです。

 エンジニアを理解するという意味では「システムを作らせる技術 エンジニアではないあなたへ」という本がお薦めです。社内に話ができるエンジニアが存在しない場合、技術顧問をスポットで契約するなどしてITの意思決定をすることを推奨します。

理解がありすぎても困る

 IT投資について理解があるのはありがたいところですが、あり過ぎると困る事例もあります。ある企業はDX(デジタルトランスフォーメーション)投資に振り切っていたのですが、経営層の交代と共に方針転換し、DX部門が解散となりました。

 瞬間的な投資ではDXの実現は難しいため、持続可能な範囲で長期投資するのがDXには適切です。各職種をリスペクトしつつ、関係者を巻き込むくらいの姿勢が丁度よいでしょう。

経営層のツボを押さえた説得を試みる

 最後に、IT投資を得る上で経営層にアプローチする際のポイントについて触れていきます。

響きやすい共通観点で話す

 経営層が尊重している価値観に沿って説得するやり方です。

 例えば、営業の力が強い会社はROI(投資利益率)を注視する文化になりやすいので、金銭に注目して交渉するのが効果的です。業務効率化がテーマの場合は、工数だけでなく人件費などにまで落とし込んで表現すると響きやすいでしょう。一人当たりの給与などを開示をしている企業は少ないため、経理と連携して計算することをお勧めします。

経営層が尊敬する先行他社の事例を挙げる

 業界トップの企業でもない限り「経営層が憧れる企業」はあるものです。

 経営層とやり取りしていると突発的なソリューション導入の依頼などがあります。タクシー広告や直接の営業などの影響もありますが、経営者の先輩からお勧めされた内容については熱が入りやすいものです。

 これを逆手に取り、薦めたいソリューションを提案する際に「あの会社も入れています」と添えるのです。経営層の交友関係や、尊敬対象の企業を常日頃から調査しておくことをお勧めします。

上場などの目標を元に法務部門と連携して説得する

 スタートアップやベンチャーでは上場を目標にする企業は多くあります。上場の申請に向けて情シスも準備を進めなければなりません。まとまったお金を投資できるチャンスですし、経営層の意識も変えるチャンスです。

 私自身このタイミングで整えたものは多数あります。一例を挙げます。

  • 資産管理システムの導入
  • ウイルス対策ソフトの上位プランへの移行
  • 不透明なライセンスの整理
  • IPメッセンジャーからの脱却
  • クラウドストレージへの移行
  • スマホMDMサービスの導入
  • 携帯電話の整理
  • BCPを根拠にしたサーバのクラウドリフト

 予算や監査の温度感、導入工数、教育コストを見ながらできるものからやっていきましょう。

他社のインシデントを“出し”にする

 他社のセキュリティ事故は常日頃からチェックしておきましょう。特に個人情報漏えい事故などは金銭的なマイナスなどもセットで報道される傾向にあるため、非常に分かりやすく重要性を伝えられます。

 賠償金額だけでなく、株価の大幅下落や上場廃止なども見られます。幾つか事例をそろえておき、交渉時のカードとして持っておくことをお勧めします。

経営層のITリテラシーのゴール

 経営層にITへの理解を示してもらい、興味を持ってもらうことをゴールにしましょう。意思決定を移譲してもらうことが理想です。

 信頼を勝ち取れればとても業務を進めやすくなります。私も何度か「ITのことは難しくてよく分からないけど、言った内容で進めてくれ」と決裁いただいたことがあります。もちろん経営層のキャラクターにもよりますが、是非そうした関係性の構築をトライしてみて下さい。

著者プロフィール:久松 剛(エンジニアリングマネージメント 社長)

 エンジニアリングマネージメントの社長兼「流しのEM」。博士(政策・メディア)。慶應義塾大学で大学教員を目指した後、ワーキングプアを経て、ネットマーケティングで情シス部長を担当し上場を経験。その後レバレジーズで開発部長やレバテックの技術顧問を担当後、LIGでフィリピン・ベトナム開発拠点EMやPjM、エンジニア採用・組織改善コンサルなどを行う。

 2022年にエンジニアリングマネージメントを設立し、スタートアップやベンチャー、老舗製造業でITエンジニア採用や研修、評価給与制度作成、ブランディングといった組織改善コンサルの他、セミナーなども開催する。

Twitter : @makaibito


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