生成AIの業務利用は増加、でも生産性が伸びないのはなぜ?
生成AIは急速に普及したものの、生産性向上などのメリットを享受できている人は少ない。生産性を上げるために企業にできることとは。
2022年11月に生成AI「ChatGPT」が登場以降、企業での生成AI活用が急速に進んでいる。インターネットが17年、スマートフォンが21年普及するのにかかったことと比較すると、その速さがよく分かる。
普及はしたものの、生産性向上などのメリットを享受できている人はまだ少ないという。何が生成AI活用の障壁となっているのか。生産性を上げるため、企業にできることを解説する。
生成AIを導入しても生産性が上がらないワケ
シンクタンクのthe Oliver Wyman Forumが2024年1月16日(現地時間)に発表した報告書によると、生成AIツールが企業で急速に導入されているものの、生産性の大幅な向上は実現できていないという(注1)。
スイスのダボスで開催された世界経済フォーラムの年次総会で発表されたこの報告書によると、世界中の従業員の半数以上が職場で生成AIを使用しており、一部の国ではさらにその割合が高くなっている。しかし、従業員が生産性の向上を十分に実感するためには、トレーニングが必要だという。また、シニアレベルのリーダーはAIのトレーニングを受けた若手従業員に仕事を奪われることを懸念している。
the Oliver Wyman ForumのCEOであるジョン・ロメオ氏は、「生成AIの普及率には目覚ましいものがある」と述べた(注2)。
「ChatGPTはわずか1年未満で大規模な普及を達成した。インターネットが17年、スマートフォンが21年、電気が30年かかったことと実に対照的だ。しかし、トレーニングは遅れており、生成AIの活用と生産性向上の乖離(かいり)に直面している」(ロメオ氏)
16カ国で行われた2万5000人を対象とした調査では、従業員への導入ではインドがリードしており、回答者の83%が「毎日または毎週生成AIを利用している」と報告した。対照的に、北米とヨーロッパでは、生成AIを毎週利用する従業員の割合は50%を下回る。
報告によると、生成AIの使用は一貫して増加しているにもかかわらず、生産性の向上が完全に実現されるには6〜10年かかる可能性があるという。生成AIによる生産性向上のメリットを享受していないと報告した従業員の約20%は、「企業のガイドラインや、AIツールからの『不満足な出力』により、確認や編集の時間が増加している」と述べた。
これらの状況にトレーニングが役立つ可能性がある。報告書によると、あらゆるレベルの従業員は雇用主が提供している以上のスキルアップを求めている。ホワイトカラーの従業員のうち80%は、より多くの、またはより良いAIトレーニングを望んでいるが、「それらのトレーニングを受けることができている」と回答した割合は64%に過ぎない。
また、職種全体では、60%の従業員が生成AIに仕事を奪われることへの懸念の高まりを表明している。世界全体では、求職者の30%が「生成AIが求職活動の動機になっている」と回答した。
the Oliver Wyman ForumのCCO(最高顧客責任者)であるアナ・クレアシック氏は、次のように述べた。
「自動化はもはやブルーカラーの従業員だけの話ではない。ホワイトカラーの従業員の多くは生成AIに仕事を奪われることを恐れており、この不安が生産性に直接影響を与えている。しかし、1年ないし2年待った後に、完全に生成AIの訓練を受けた従業員の雇用を望むのは誤りだ。企業は、近い将来に最も生成AIを適用させるべき分野に焦点を当て、現在の従業員にスキルを習得させる必要がある」
米国人材マネジメント協会(SHRM)のチーフスタッフであるエミリー・ディキンズ氏は「人事部門のチームは採用を促進するためにAIに熱意を持ち、従業員に実験の機会を提供すべきだ」と述べた(注3)。彼女は「HR Dive」に対して、早期の導入は特定の人事タスクの効率を向上させ、人材獲得を改善するのに役立つと語った。
特に、人材チームはAIを活用することで、採用における多様性や公平性、インクルージョンの取り組みを改善できる(注4)。ソフトウェア企業であるSHLのソリューションリードのルーシー・ボーモント氏は、「潜在的な偏見に対する懸念が表明されているが、AIツールは人間の偏見を考慮できるようだ」と語る。
労働分析企業であるLightcastの報告書によると(注5)、生成AIのスキルを持つ求職者の需要は急増しており、2022年の約500件の求人から2023年には1万件以上へと増加している。これは1800%以上の増加である。最も需要の高い職種は、新しいAIアプリケーションの開発に重点を置くデータサイエンティストとソフトウェアエンジニアだ。
出典:Generative AI adoption at work hasn’t yet led to productivity gains, report says(HR Dive)
注1:How Generative AI Is Transforming Business And Society(Oliver Wyman Forum)
注2:Unprecedented Generative AI Use Does Not Guarantee Quick Productivity Gains(PR Newswire)
注3:HR should approach AI with enthusiasm, SHRM exec says(HR Dive)
注4:How HR can leverage AI at work(HR Dive)
注5:Report: Demand for generative AI skills has exploded 1,848% since 2022(HR Dive)
© Industry Dive. All rights reserved.
関連記事
- 2032年までに生成AIに仕事を奪われる職種 今からできることは?
生成AIは多くの仕事や経済成長へのアプローチを変えると予想され、高度な知識を要する仕事ほどその影響を受けると考えられている。企業は将来に向けてどのような取り組みに注力すべきだろうか。 - OpenAIのCEO解任で組織が崩壊 取締役会が学ぶべき教訓は
OpenAIの取締役会は、共同創業者であるサム・アルトマン氏を解任したことで、ほぼ全ての従業員を失いかけた。OpenAIのリーダーシップの交代をめぐる世論の混乱は、幾つかの教訓を与えてくれる。 - 中途採用の専門職・管理職は生成AIに取って代わられる? Indeedが発表
さまざまな世代の中で、専門職に中途採用された25〜54歳の従業員は、生成AIによる変化から大きな影響を受けるという。その理由は。 - 現役弁護士が語る「生成AIについて職場ポリシーに盛り込むべき7つのポイント」
多くの企業が生成AIを職場で利用する際のポリシー作りに苦労している。現役の弁護士たちが語る、「生成AIについて職場ポリシーに盛り込むべき7つのポイント」を解説する。