電帳法で楽になるどころか"紙まみれ" 従業員に聞いた「本当はこうしてほしい」:経費精算システムの利用状況(2024年)/後編
法令対応や働き方の変化によって経費精算システムの導入が急速に進んだ結果、企業の経費精算の運用における課題は消え去ったのだろうか。現状を掘り下げる。
法令対応や働き方の変化によって経費精算システムの導入が急速に進んだ結果、企業の経費精算運用における課題は消え去ったのだろうか。
「経費精算システムの利用状況に関する調査」(実施期間:2024年1月25日〜2月8日、回答件数:291件)を基に、企業の現状を掘り下げる。
製品選定の4大重視ポイントは?
前編では、経費精算システムの導入企業の増加と、クラウド型経費精算システムの利用が急増していることが分かった。
そこで、経費精算システムを選定・活用する際に重視したポイントを聞いたところ、「操作性の良さ」(67.4%)、「運用コスト」(59.1%)、「導入コスト」(56.4%)、「電子帳簿保存法への対応」(43.6%)が上位に続いた(図1)。
従業員規模別に見ると、比較的小さなサイズの企業帯ではコストを、大企業帯では操作性や安定性、可用性を重視する傾向が見られた。2022年9月に実施した前回調査と比較すると多少順位に変動はあるが、上位4項目に変わらず票が集まっていることから、この4つが経費精算システム選定時に必須であることが分かる。
改正電子帳簿保存法(以下、改正電帳法)が施行された2022年1月は、2020年から続くコロナ禍でテレワークや在宅勤務といった形で働き方が変化し、経費申請フローの見直しが急がれる時期でもあった。
コロナ禍で経費申請手続きに変化があったかどうかを聞いたところ、「変化なし」(50.2%)は半数で、残りの半数は「電子帳簿保存法への対応および、対応の検討」(26.8%)や「クラウド経費精算システムの導入」(22.7%)、「領収書の原本提出を廃止(PDFなどデータでの提出が許可された)」(20.9%)など、さまざまな変化がうかがえる(図2)。
特に大企業は、経費精算フローの変更によって全体の運用工数が大きく変わる。本調査では「クラウド経費精算システムの導入」や「領収書の原本提出を廃止」といった項目で他規模帯と大きく差がついたことから、多くの大企業がこの時期に経費精算の仕組みを変えたと予測できる。
紙とデータを一本化できない運用に不満集中
改正電帳法やコロナ禍をきっかけに多くの企業で見直された経費精算の在り方だが、利用者の満足度に変化はあったのだろうか。
経費精算の満足度を聞いたところ、全体では「とても満足」」(5.2%)と「まあ満足」(58.8%)を合わせ63.9%が満足している結果となった(図3)。約1年半前の前回調査と比較すると「まあ満足」を中心に10.5ポイント増加し、経費精算フロー変更による混乱はなかったようだ。
一方、不満と回答した人に理由を聞いたところ、紙と電子データの二重運用に対する手間を挙げる声が多く寄せられた。具体的には「クラウド移行過程の名残で、各従業員が(領収書を)電子化して、原本と両方提出する必要がある」や「紙・電子の両方を扱わなくてはいけなくて屋上屋(むだなことをするたとえ)の状況が続く」「電子データで添付している証憑の原本を別途紙で提出する運用の煩わしさ」など、紙の領収書の収集とチェックに膨大な工数を掛けている状態とのことだ。
また、一本化できていないことによる弊害か、「部署ごとに微妙にルールが異なる、また、経費の種類によって担当部署が異なる場合があって混乱に拍車をかけている」や「方法について明確なルールはなし」など、運用ルールが曖昧になっているケースもあるようだ。
他にも「文言のローカライズが悪く感覚的に分かりづらい」や「画面デザインが悪いので使いにくい」「クラウドのためかレスポンスが悪い」といった使い勝手への不満や、「人事システムや経理システムとの連携が不十分で、独自にマスターを持ったり連携処理が必要」や「会計システムと連動してほしい」「全体のシステム化を検討していない」など、他システムと連携されていないことによる非効率性への不満も目立った。
また連携では、「クレジットカード連携をしているが、データが上がってこない」や「従業員用クレジットカードと連携しているが、連携に数日かかるため、使用日から精算まで時間がかかる」のような、クレジットカード連携によるタイムラグも不満につながるポイントだった。
利用者が望む今後の形は
こうした不満も踏まえ、今後利用者はどのような経費精算システムを望むのだろうか。期待しているポイントをフリーコメントで聞いたので紹介する。
最も多かったのは、紙と電子データの二重運用を改善してほしいとの声だ。「紙の領収書を電子化しても原本の紙を保存しなければいけないので何とかして欲しい」や「紙に出力するなどの無駄な手間が発生しない、デジタルネイティブな経費精算システム」「紙提出の全面廃止」などのコメントが多く寄せられた。システムへの要望としては「プロジェクト管理システムとの連携」や「経費精算システム、会計システムの連携」「拡張性があるシステム」に見られるように、他システムとの連携やカスタマイズがしやすいサービスが求められている。
他に不満が多く集まっていたのは使い勝手への改善要望で、「標準的な支払いに対する自動入力機能の追加」や「AI(人工知能)による半自動化」など、利用者や管理者の業務工数を軽減をサポートする機能を望む声が多かった。これらのニーズを受けて近年は、従来のOCRにAI技術を組み込んだAI-OCR機能や、ICカードや法人カードとの連携、精算業務そのもののBPOなど、さまざまなサービスが台頭してきている。
他にも「小規模事業所でも低負担で導入できるものがあって欲しい」や「運用コストが安く、中小企業でも使いやすいシステムに期待している」など、前編で改正電帳法への対応や経費精算システムの導入に遅れが目立っているとした中小企業帯に向けたサービスへの期待が寄せられた。
以上、前後編にわたり、企業における経費精算の実態を見てきた。改正電帳法やインボイス制度、パンデミックなど、外的変化への対応に迫られて社内フローの改変を推進するのは大変なことが多い。しかし、業務の効率化やコストの削減など得られるメリットも大いにある。この機会をチャンスと捉え、今一度自社における経費精算の在り方を検討してみてほしい。
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