東急百貨店が「アナログな顧客情報管理」から脱却 外商営業デジタル化の道のり
東急百貨店が、外商営業における顧客情報管理と顧客接点のデジタル化を実現した。細やかな心遣いを求められる領域でデジタル化をいかに進めたのか。
外商営業では顧客の購入履歴だけでなく、パーソナルな情報を把握することが欠かせない。細やかな心遣いを求められる領域で、同社はデジタル化をいかに進めて業務効率化やデータ活用を実現したのか。
「顧客情報は担当者だけが知っている」からどう脱却した?
東急百貨店は、1662年(寛文2年)創業の呉服屋「白木屋」をルーツとする老舗デパートだ。渋谷ヒカリエ ShinQsや吉祥寺店、たまプラーザ店を展開する他、フードの専門店業態「東急フードショー」、ECサイトなど販路は多岐にわたる。
同社は2020年から「DXで百貨店をもっと効率的」をうたってDX(デジタルトランスフォーメーション)を推進している。その中で、アナログな顧客情報管理をはじめとする外商事業部の営業業務も見直し対象になった。
従来、外商員は顧客情報を顧客台帳などに記録していたが、顧客の趣味嗜好や個別のやりとりといった詳細な情報が共有しづらく、データの活用が難しい状況だった。
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の拡大の影響で実店舗での接客機会が減り、顧客とスマートフォンやPCを使ったデジタル接点を作る必要性が高まった。
これらの課題を解決するために導入されたのが、サイボウズのノーコードツール「kintone」だ。スマートフォンやタブレットからも利用できるといった使い勝手、プログラミング知識がない現場担当者でもノーコードでアプリを作って業務改善を図れるといった特徴を評価し、導入を決めたという。
顧客データ活用で一人一人に合わせたサービスを提供
kintoneの導入により、顧客情報管理が効率化され、外商営業業務は大きく変わった。「顧客カルテ」アプリによって、顧客ごとに購入履歴やイベント参加歴、問い合わせ履歴、好きなブランド、趣味嗜好といった情報を登録した。
これまで台帳で管理していた顧客情報を部全体で共有し、「見える化」したことで営業効率が向上し、担当変更時の引き継ぎもスムーズになった。これまで担当者だけが把握していた情報をデータベース化したことで顧客データを活用し、顧客一人一人のニーズに合わせたサービス提供が可能になったという。
それまでブランドの目玉商品の情報は、同ブランドの購入履歴のある顧客に提供していたが、「顧客カルテ」に登録された趣味嗜好の情報から、潜在的にニーズがありそうな顧客にもアプローチできるようになった。
他部署・他企業との連携で注文や配送が効率化
さらに、外商事業部は他部署・他企業との連携も進め、顧客から電話注文された食品を翌日までに自宅に届ける「食料品即配システム」が構築された。同システムは情報システム部の担当者がkintoneで作成した。
kintoneの活用は業務効率化にとどまらず、外商事業部は新たなマーケティング施策の実行や社内教育の充実にも利用している。これまで紙ベースで実施していた教育マニュアルの展開やテストをkintoneでデジタル化した。eラーニングで実施した内部統制に関するテストの受講率は100%に達した。現在は、情報セキュリティや人事、ハラスメント教習、店舗運営教習、スマートフォンの操作教習などのeラーニングが社内で横展開されている。
外商事業部におけるkintoneの活用は全社に広まり、情報システム部には「業務課題をkintoneで解決したい」という複数部署からの問い合わせが相次いでいるという。東急百貨店は今後、B2B、B2Cの領域拡大やkintoneが保有するデータのAI(人工知能)による分析のなどさらなる用途拡大を予定している。
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