製造業向けERP「QAD」 ビジネス戦略と競合との差別化を解説
QADは、自動車や食品・飲料、家庭用品、ハイテク、エレクトロニクスといった製造分野に焦点を当てたERPだ。同社が提唱しているQAD ITPの全貌と、競合と差別化するための戦略を解説する。
ERPを提供しているQADは、企業がERPを活用して市場動向や競争環境の変化に適応するため、「QAD Industrial Transformation Platform(ITP)」を提供している。
QADのアントン・チルトン氏(CEO)は、「QAD ITPは、企業の人的リソースやプロセス、システムを統合し、産業の変化への適応、新しいテクノロジーを採用するための準備を目的としている」と語る。
QAD ITPの全貌と競合との差別化ポイント
QADの競合と比較した強みとは。QAD ITPの全貌と合わせて解説する。
QAD ITPは、製造プロセスにおけるQADの専門知識と経験や「QAD ERP」、2023年に買収したコネクテッドワーカーソフトウェアのRedzone、2022年に買収したプロセスマイニングソフトウェアの「Livejourney」を含むアプリケーションポートフォリオによって生まれた。
同サービスは、既存のQADの顧客をサービス対象としているが、QADが焦点を当てる業界の潜在顧客も対象としている。QADは、米国カリフォルニア州サンタバーバラを拠点とし、45年前に設立された。同社は、自動車や食品・飲料、家庭用品、ハイテク、エレクトロニクスといった製造分野に焦点を当てている。
QADは、QAD ITPと合わせて、「適応型企業」という概念を提唱している。
「適応型企業は、変化する市場や環境に柔軟に対応する能力を備えた企業を指す。QADの取り組みは、適応型企業になるために顧客が対処すべき最大の問題の特定を目的とし、企業のプロセスを評価することから始まる。それはERPかもしれないし、予測能力かもしれないし、プロセスの実行方法かもしれない」(チルトン氏)
チルトン氏は、適応型企業とQAD ITPの関係について次のように続けた。
「QAD ITPは、企業が取り組む大掛かりな課題に優先順位を付け、マイルストーンのロードマップを作成するのに役立つ。優先順位が高いのは、ソフトウェアを導入することではなく、顧客の成果に焦点を当てることだ。ソフトウェアだけではなく、人々とプロセスに関して不足している他の要素に焦点を当てる必要がある」(チルトン氏)
導入ではなく成果に焦点を当てる
テクノロジーコンサルティング事業を営むTechnology Evaluation Centersのプレドラグ・ヤコヴリェヴィッチ氏(アナリスト)は、次のように述べた。
「QADの目標は、ソフトウェアの導入から顧客が望む成果の達成に移行したようだ。それは、類似する2つの企業に同じソフトウェアをインストールした場合であっても、全く異なる結果が得られる事例を観察したためだ。これに対処するには、目標を再設定し、QADと顧客とのやりとりにおいて、どこに焦点を当てるかを再検討する必要がある」(ヤコヴリェヴィッチ氏)
ヤコヴリェヴィッチ氏によると、QADの人材とプロセスへの再注力は、2023年のRedZoneと2022年のLivejourneyの買収によって強化されたという。ソフトウェア投資企業のThoma Bravoは2021年にQADを買収した。
IT市場調査およびコンサルティング事業を営むIDCのサイモン・エリス氏(プラクティスディレクター)は、「この取り組みは新しいものであり、多くの詳細が未だに明らかにされていない」と述べた。
エリス氏は、次のように続けた。
「QADは、ERPやRedZoneの機能、Livejourneyのプロセスマイニングなどの要素を統合パッケージに取り込んでいるが、具体的にどこに向かっているかは不明だ。QAD ITPは、それ自体が顧客にとって価値を有し、QADが内部開発や買収によって新しいアプリケーションを構築する土台になるかもしれない」
また同氏は、「QAD ITPは、QADのプラットフォームを構築するための基盤のように思える」と語る。
「QADは、クラウドに抵抗感を持つ顧客がクラウドに移行する手段を探しているかもしれない。なぜならば、製造実行システムの効果的な管理などの特定の領域において、製造業者は、未だに多くのレガシーオンプレミスアプリケーションを使用しているためだ」(エリス氏)
エリス氏は、「ベンダーの課題は、古いシステムと新しいクラウドシステムの間の差がますます大きくなり、最終的に無視できなくなるまで、最先端で革新し続けなければならないことだ」とも述べている。
「製造業向けERPの市場においてQAD ITPは、QADと業界大手のSAPやOracleと差別化するために明確に役立つわけではない。しかし、InforやIFSといったベンダーとの競争には役立つ可能性がある。QAD ITPのようなプラットフォームがなければ、QADは競争上の不利を感じていたかもしれない。市場シェアという点で、QADの占有率が大きく拡大するかどうかは分からない。だからといってQADの製品が劣っているわけではない。QAD ITPが市場におけるQADのポジションを改善するかも分からない。その可能性は高くないだろうが、今後の展開を観察しなければならない」(エリス氏)
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