“脱”Excelデータ分析 データドリブン組織への変革ステップを解説:「IT担当者300人に聞きました」をななめ読み
セルフサービスBIツールは手軽さとアクセシビリティーが特徴なデータ分析ツールとして注目を集めています。しかし、ツールの導入が目的となってしまい、本来の効果を得られていない企業を散見します。企業のデータ活用の課題をひも解き、データドリブン組織への変革ステップを解説します。
ビジネスインテリジェンス(BI)ツールは、企業がデータ分析を基にした意思決定をする際の強力な支援者として注目されています。その中でも、エンドユーザーが分析やレポートを作成できるBIツール、「セルフサービスBIツール」は手軽さとアクセシビリティーが特徴です。
セルフサービスBIツールの導入状況や活用の実態はどのようになっているのでしょうか。キーマンズネットの読者調査、「結局、Excel頼み? セルフサービスBI活用が『上手な企業』と『ヘタな企業』の差」と「『これでDX?』データに無頓着な経営層にあきれる社員 データ活用の現実を聞いた」を基に、セルフサービスBIツールの現状とその影響を考察します。
ツールの導入が目的化している現状
従業員がセルフサービスBIツールに期待している効果と、経営層が考える導入後の姿の間には大きな隔たりが存在しているようです。
読者調査を振り返る
アンケートによると、企業の21.7%がセルフサービスBIツールを導入しており、3.8%が導入予定、17.9%が導入を検討中でした。一方で、企業の半数以上(50.5%)が利用しておらず、「今後も利用する予定がない」と回答しています。
特に注目すべき点は、100人以下の小規模企業の低い導入率です。調査結果では、導入の課題は、「高価なツールの導入に抵抗感を持っている」こと、「導入に必要な専門知識や支援体制を整えるためのリソースが不足している」ことが挙げられています。小規模企業が多い日本でセルフサービスBIツールを普及するためには、どのようにこのハードルを低減させるかが市場拡大の鍵となるでしょう。
導入企業のメリットとしては、「データに基づく迅速な意思決定」「業務の効率化」「市場動向の把握」などが挙げられています。しかし、単にツールを導入するだけでは、これらのメリットを最大限に引き出すには不十分です。
導入しても活用できていない現状
多くの企業がセルフサービスBIツールを導入しているものの活用に苦労しています。これは、明確な目的の欠如と、具体的な活用プランを持たずにツール導入の効果を期待してしまった結果と見るべきでしょう。
アンケートからは、セルフサービスBIツールが単純なデータ収集や分析のツールにとどまり、ビジネス課題の解決につながらない主要な要因として、従業員のデータドリブン経営への理解不足と経営層のコミットメントの欠如が読み取れます。自社に適した戦略立案と目的意識の強化が必要であることを示唆しています。
BIツールの効果的な活用には「適切なスキルを持つ人材」と「継続的な教育」が欠かせません。特に中小企業はリソース不足が顕著なため、外部の専門家やサービスプロバイダーのサポートを積極的に活用するのが効果的でしょう。全従業員がBIツールを深く理解し、日々の業務に生かせるような研修プログラムやワークショップが不可欠です。
継続的な教育とサポートを通じて、経営層と従業員がデータに基づいた意思決定の方法を習得することで、企業全体の競争力を向上させられます。データ活用は単なる技術導入ではなく、適切なスキルと知識の習得が求められるのです。
セルフサービスBI周辺事情
まずは、セルフサービスBIツールに関連する情報を整理しましょう。
最も身近なデータ活用ツール:Microsoft Excel
「Microsoft Excel」(以下、Excel)はビジネスシーンで不可欠なツールとして広く利用されていますが隠れたリスクも存在します。例えば、Excelに過度に依存することで、データの不整合や重要情報のセキュリティリスクを見過ごす可能性があります。また、Excelシートが複雑化すると、データ分析や意思決定のミスを引き起こす可能性があります。それでもExcelが利用され続けるのは、多機能性もさることながら、圧倒的に教育コストが低いことが挙げられます。
これらのリスクに対応するには、データを集中管理し、適切に保護することが重要です。まずは、Excelが“苦手なこと”をしっかり確認し、万能ツールではなく、使い所を定めることに徹底するよう注力してください。
「脱Excel」としてのセルフサービスBIツール
Excelの限界を超え、より高度なデータ分析と意思決定をするため、セルフサービスBIツールが開発されました。データの集約や分析、可視化を効率化し、ビジネスインテリジェンスをより身近なものへと変革します。セルフサービスBIツールの導入によって、Excelでは困難なデータの集約や分析プロセスの自動化などができます。
効果的な移行のため、組織のニーズに合ったセルフサービスBIツールを選び、必要なトレーニングを実施することが不可欠です。また、組織文化にデータドリブンの意思決定を根付かせることも、移行プロセスでは重要です。
セルフサービスBIツールの必要性
多くの企業がセルフサービスBIツールの本来の目的を見失いがちです。ツールの導入そのものが目標になってしまい、ビジネス課題が曖昧になっています。こうなると、従業員に「データの収集と分析の対象が何なのか」「ツール導入に意味はあるのか」という疑問を持たれ、なかなかビジネス課題の解決ができません。最も重要なのは、日々の業務で蓄積されるデータが経営戦略や実務部門の課題解決とどのように結びついているかを深く理解することです。
こうした傾向は、前回取り上げたERPの導入と類似しています。セルフサービスBIツールとERPは、データドリブン経営を促進するための重要なツールですが、それぞれの役割は異なります。ERPは経営プロセスの効率化を目指して基幹業務を統合し、迅速な経営判断を支援するよう設計されています。セルフサービスBIツールは、柔軟かつ独自の視点でデータを分析し、ビジネス課題に対する深い洞察を得られるよう設計されています。
これらのツールは、戦略立案や意思決定プロセス、業務の効率化など、経営に必要なさまざまな要素をサポートします。効果的に活用するためには、ツールの機能と企業のニーズを照らし合わせ、どのようにビジネス課題を解決して企業の目標達成に貢献できるかを常に意識することが重要です。
BIツールの成功は「課題ファースト」のアプローチに依存します。このアプローチは、ビジネスにおける意思決定には不可欠です。ツールの導入前にビジネス課題を特定し、データを基に解決策を定義する必要があります。BIツールはこのプロセスにおいて、課題解決のための洞察を提供し、確固たるデータに基づく意思決定をサポートします。
データ活用組織への変革ステップ
データを戦略的に活用する能力は企業の成長と競争力の強化に直結します。例えば製造業では、データは市場動向や顧客ニーズを迅速に捉え、意思決定するのに役立ちます。小売業では、顧客の購買行動分析を通じて、販売戦略の最適化が可能です。
データを活用する文化を確立することで、企業は市場の変化に迅速に反応し、新たなビジネスチャンスをつかむことができます。セルフサービスBIツールでデータを効果的に活用し、組織全体の意思決定プロセスを改善する3つのプロセスを紹介します。
1.課題の数値目標化
BIツールは曖昧な課題を明確な数値目標に変換します。課題を数値化するため、自社のビジネスモデルを分析し、どの要素が利益に直結しているかを再考する必要があります。これは、企業の価値創造の仕組みを理解し、効果的な目標設定につなげる作業です。全社的な目標ではなく、各商品やサービスごとに独立したKPI(重要業績評価指標)を設定することで、データによる精密な意思決定が可能になります。このプロセスを通じて全社的なコンセンサスをとり、データドリブン経営につなげます。
2.成果評価とアクション計画
BIツールによって成果の測定と達成度の評価を容易に実施できます。施策の効果を定量的に評価し、必要に応じて次のアクションプランを立てることも可能です。このようにして、組織は継続的な学習と改善のサイクルを構築し、ビジネスの効率化と成長の促進をできます。
3.新たな価値の発見
BIツールが未来を考えるきっかけとなることも大きなメリットです。大量のデータ分析を通じて未発見のビジネス機会や改善点を明らかにできます。データの深い分析によって、予期せぬ市場の機会や顧客のニーズ、さらにはプロセスの最適化につながるヒントを得られることもあるでしょう。こうした洞察はこれまでになかった新しい価値創造の源泉となり、企業に競争上の優位性をもたらします。
まとめ セルフサービスBIツールがもたらす未来
セルフサービスBIツールがもたらす未来は、単なるツール導入を超えたものです。重要なのは、データを活用して組織全体の文化を変革することです。これには、ビジネスに関連するデータの意味を理解し、それを日常的な意思決定プロセスに組み込むことが含まれます。組織全体でデータを基にした意思決定の文化を根付かせることで、より効率的で精度の高いビジネスが可能となります。
こういった文化の変革、いわゆるDXを実現するためには、従業員がセルフサービスBIツールを“自信を持って”利用できるよう、継続的なトレーニングとサポートが不可欠です。この一連のトレーニングプログラムでは、データの基本の理解から複雑な分析に至るまで、従業員のスキルレベルに合わせて提供する必要があります。こうして達成されたデータリテラシーの向上は、組織全体のデータ活用能力を飛躍的に高め、より賢明な意思決定と戦略的な企業活動の促進につながります。
さらに、セルフサービスBIツールは、市場の動向や顧客行動、内部プロセスの改善点など、ビジネスを再考・最適化する機会を生み出します。そして新しいビジネスチャンスの創出や競争力の強化に直接寄与する可能性があります。組織がデータドリブンなアプローチを取り入れることで、より迅速で効果的な意思決定が可能となり、長期的な成功へとつながるでしょう。
ここまで読み進めていただいた皆さんの中には、ツール導入が形骸化したり、プロジェクトの苦い失敗経験をしたりした方もいらっしゃるでしょう。IRのためにこうした話題を必要とするという経営判断が発生することもありえると思います。少々政治的に見えるものの、高価なツール導入には、理想を掲げ賛同を得ることも欠かせないのです。こうしたプロセスに批判的になるのではなく正しく捉えること。そして導入後に丁寧に運用することが成功への鍵となります。
「道具の良し悪しを論じるよりも、目的を明らかにして良い使い方を考える」というスタンスで、データ活用による改革を進めてください。
著者プロフィール:西脇 学(DLDLab. 代表)
大学卒業後は電源開発の情報システム部門およびグループ会社である開発計算センターにて、ホストコンピュータシステム、オープン系クライアント・サーバシステム、Webシステムの開発、BPRコンサルティング・ERP導入コンサルティングのプロジェクトに従事。
2005年より、ケイビーエムジェイ(現、アピリッツ)にてWebサービスの企画導入コンサルティングを中心に様々なビジネスサイトの立ち上げに参画。特に当時同社が得意としていた人材サービスサイトはそのほとんどに参画するなど、導入・運用コンサルティング実績は多数に渡る。2014年からWebセグメント執行役員。2021年の同社上場に執行役員CDXO(最高DX責任者)として寄与。
現在はDLDLab.(ディーエルディーラボ)を設立し、企業顧問として、有効でムダ無く自立発展できるDXを推進している。共著に『集客PRのためのソーシャルアプリ戦略』(秀和システム、2011年7月)がある。
Twitter:@DLDLab
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