なぜ、DXの進展に地域差があるのか? ノークリサーチが東北地方で自動化が進まない理由を分析
DXの取り組み状況は年商や業種に加え、地域によっても差もが生じている。地域差の要因を探ることで、地域に応じたDX推進策を練ることができる。東北地方を対象とした分析結果を例に、ノークリサーチが解説する。
なぜ、DXの進展に地域差があるのか? ノークリサーチが東北地方で自動化が進まない理由を分析
DXの取り組み状況は年商や業種に加え、地域によっても差もが生じている。地域差の要因を探ることで、地域に応じたDX推進策を練ることができる。東北地方を対象とした分析結果を例に、ノークリサーチが解説する。
DXの取り組み状況はユーザー企業の年商や業種によって異なり、地域差も重要な視点の一つとなる。
ノークリサーチは2024年5月8日、DX(デジタルトランスフォーメーション)の地域差の縮小につながる業種比率に着目した調査分析結果を発表した。同調査は、DXの進捗(しんちょく)状況やITソリューションの導入状況に地域差が生じる要因と解決策を探るため、国内中堅・中小企業1300社を対象に実施した調査結果を分析したものだ。
東北地方はなぜ、自動化が遅れているのか?
グラフ1は、DX/ITソリューションの導入割合の一例として、「自動化やシステム連携、開発ツール(RPAやiPaaS、ノーコード/ローコード)」と「ペーパレス化」について、中堅・中小企業全体、東北地方(東北6県)、首都圏を含む関東地方、大阪圏を含む近畿地方、名古屋圏を含む中部地方で比較したものだ。
全体の平均や他地域と比較すると、東北地方は自動化やペーパレス化の取り組みが遅れていることが分かる。
ただし、この結果を掲げて「RPAやノーコード/ローコードの導入をもっと進めるべき」と単に呼びかけても、現地のユーザー企業からは「東京や大阪、名古屋とは産業構造が異なるのだから、IT活用のレベルも違うのが当然では」という反応で終わってしまいがちだというのがノークリサーチの見解だ。地域に応じたDX、ITソリューションの活性化を図るためには、地域ごとの産業構造を考慮した要因分析が欠かせない。
地域の違いはDX、ITソリューションの導入状況にどう影響するか
グラフ2は、調査対象となった中堅・中小企業1300社における計24項目のDX、ITソリューションの導入割合と企業属性(年商や業種、所在地)のデータにベイジアンネットワーク分析を適用し、ソリューション間の関係性をモデル化したものだ。このモデルを使うことで「ある地域または業種でいずれかのDX、ITソリューションの導入率が高まった場合、それが他のDX、ITソリューションにどう影響するか」が浮かび上がる。
グラフ2のベイジアンネットワーク分析図の中で、矢印で結ばれている楕円は、それらが表す項目が影響し合っていることを示している。青点線で示した「センサー+AIによるデータ分析」と「ネットワーク機器」は強い関連性があることを示している。実際に、IoT(モノのインターネット)センサーで取得したデータを活用するDXソリューションは、IoTセンサーから分析システムにデータを伝達するネットワーク環境の整備が重要な要素となる。
ここで着目すべきは、赤点線で示された「年商」「業種」「所在地」といった企業属性と他のDX、ITソリューションとの関連だ。年商や業種は他のDX、ITソリューション項目と矢印で結ばれているが、所在地(地域)が接続しているのは業種のみだ。
これは、DXの取り組み状況に直接的な影響を与えている企業属性は年商と業種であり、所在地の違いは業種の違いを通じて間接的な影響を与えていることを示している。つまり、「東京や大阪、名古屋とは産業構造が異なるのだから、IT活用のレベルも違うのが当然」というユーザー企業の反応は決して言い訳ではなく、調査データに基づく分析モデルが示す傾向とも一致している、とノークリサーチは指摘する。
何がDXを阻害しているのか?
グラフ3の青帯は、グラフ2における東北地方の業種比率を設定した分析モデルのうち「自動化やシステム連携、開発ツール」と「ペーパレス化」の導入割合を示したものだ。ノークリサーチは、これによって東北地方の業種比率を踏まえた上での「期待される自動化やペーパレス化の導入割合」が分かるとしている。
橙帯は東北地方における「自動化やシステム連携、開発ツール」と「ペーパレス化」の実測値だ。こ東北地方における自動化やペーパレス化の取り組み状況は、期待される導入割合と比較して10ポイント超下回っている。
この要因はどこにあるのか。ノークリサーチは東北地方の業種比率を設定した分析モデルによって、自動化やペーパレスの導入割合が実測値と同レベルに低下した場合、導入割合が大きく低下するDX、ITソリューションを確認した(グラフ4)。
「コミュニケーション改善、データ共有」は導入割合の下落幅が大きく、「ジェネレーティブAI(生成AI)」「センサ+AIによるデータ分析」といった他のDX、ITソリューションと比べても差が大きい。東北地方で自動化やペーパレス化が進まない背景には、コミュニケーション改善やデータ共有の不足が影響しているとノークリサーチは分析する。
これは、前述のベイジアンネットワーク分析図を拡大&抜粋したグラフ5からも確認できる。「コミュニケーション改善、データ共有」は「自動化やシステム連携、開発ツール」「ペーパレス化」の双方と直接結びついており、「生成AI」「センサー+AIによるデータ分析」と比較して、自動化やペーパレス化に強く影響していることが分かる。
最初に取り組むべき対策とは
東北地方で「コミュニケーション改善、データ共有」の取り組みを進めるためには具体的に何をすべきか。
東北地方の業種比率を設定した分析モデルにおいて「コミュニケーション改善、データ共有の取り組み」の導入割合が高まった場合に、同時に導入割合が高まる既存の業務システムを探ったのがグラフ6だ。
グループウェアやワークフロー、ビジネスチャット、Web会議などの「情報系システム」は、「基幹系システム」や「分析、出力系システム」と比べて導入割合の増加幅が大きい。「コミュニケーション改善、データ共有」を業務システムで実現する際には情報系システムが主要な手段となることが伺える。
導入済みの主要なコラボレーション製品やサービス(グループウェアやビジネスチャット、Web会議)の機能がニーズに合致しているかどうかを尋ねた結果を地域別に集計したのがグラフ7だ。東北地方は他地域と比べて「機能がニーズに合致している」という回答の割合が低いことが分かる。
ノークリサーチによると、コラボレーション製品、サービスの導入社数シェアは、東北地方と中堅・中小企業全体は同様の傾向を示しており、「Microsoft 365」や「サイボウズ Office」が上位に挙がっている。東北地方のユーザー企業はコラボレーション製品やサービスを上手く使いこなせていない可能性があるというのが同社の見立てだ。
これまでの分析結果をまとめたのがグラフ8だ。
ノークリサーチは、東北地方における自動化やペーパレス化を促進させるためには、既存のコラボレーション製品やサービスを上手く使いこなすための支援を受ける必要があるとしている。「ビジネスチャットやファイル共有を活用すべき場面で添付ファイル付きの電子メールを多用し、対話の経緯やファイルの更新状況を把握できていない」などの状況が考えられるという。
同調査の詳細は「2024年版 DX提案に不可欠なターゲティングとステップアップの実践レポート」にまとめられている。
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