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RISE with SAPはなぜ始まった? S/4HANA Cloudの基本と共に解説

SAPは「次世代インテリジェントERP」を提供することを目的にSAP S/4HANA Cloudを提供開始した。その全体像やRISE with SAPが開始した背景を振り返る。

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 「SAP S/4HANA Cloud」は2017年2月にローンチされた。SAPによると、企業がデジタルトランスフォーメーションを実現するための「次世代インテリジェントERP」を提供することが目的だ。

 S/4HANA Cloudは「SAP HANAデータベース」に構築され、HANAのインメモリー処理とリアルタイムデータアクセスを活用している。S/4HANA Cloudの概要は以下の通りだ。

S/4HANA Cloudのクラウドインフラ

 クラウドの導入はハードウェアやデータベース、ITスタッフにリソースを割くことなく、S/4HANAの全ての機能にアクセスできることを意味する。

 S/4HANA Cloudには機械学習や仮想現実、拡張現実、ブロックチェーン、音声対応テクノロジーなど、ERPアプリケーションに「インテリジェンス」をもたらすテクノロジーが備わっている。S/4HANA Cloudの主なビジネスモジュールには、財務や調達・購買、販売、プロフェッショナルサービス、製造がある。

 S/4HANA Cloudは、パブリッククラウドやプライベートクラウド、ハイブリッドクラウド、マネージドクラウドなど、多くの環境で利用できる。2021年に開始した「Rise with SAP」によって、顧客はSAPのSaaSライセンスの下で「Alibaba」や「Amazon Web Services」「Google Cloud Platform」「IBM」「Microsoft Azure」のパブリッククラウドでS/4HANA Cloudを導入できる。

インテリジェントERPの3つの柱

 SAPによると、S/4HANA CloudにはインテリジェントERPの基盤となる3つのテクノロジーが組み込まれている。

デジタルアシスタント

 S/4HANA Cloudは、ユーザーがERPアプリケーションや機能と対話できるようにする会話型デジタルアシスタント(または仮想アシスタント)である「Joule」を採用している。Jouleは、ユーザーのタスクに関するコンテキストデータを使用して、タスクに関連する情報を提供する。

機械学習

 S/4HANA Cloudには機械学習テクノロジーが搭載され、手作業でミスが発生しやすいタスクの実行方法や自動化方法を「学習」し、より確実かつ効率的に実行できるようにする。

予測分析

 S/4HANA Cloudには、アクションの結果を予測するのに役立つアナリティクスが組み込まれている。アナリティクスツールはユーザーのニーズに合わせて設定可能で、在庫の入荷時期を予測できる在庫管理アプリや、営業管理者が営業見積のコンバージョン確率を判断するための見積アプリなどに発展させられる。

S/4HANA Cloudの導入、設定、運用

 S/4HANA Cloudはベストプラクティスを学習したビジネスプロセス標準化用のモデルが含まれている。これによって導入時間やコスト、リスクの削減を目指している。また、アップグレードやセキュリティ、ガバナンスを含む全てのバックエンド管理をSAPが実施する。通常、ユーザーが担う必要があるのは、データを統合し、必要なプロセスをオンにし、不要なプロセスをオフにすることだけだ。

 SAPによると、S/4HANA Cloudのバージョンは四半期ごとに更新される予定だ。

 ユーザーはWebブラウザからS/4HANA Cloudにアクセスし、全てのビジネスアプリを「SAP Fiori launchpad」から起動する。アクセスに必要なのは、インターネット接続とURL、アクセス権だけだ。

SAPとともに成長する

 2021年1月、SAPはRISE with SAPを始めた。クラウド導入およびマネージドサービスを提供し、顧客がS/4HANAを簡素化されたSaaSモデルで導入および運用できるようにするためのものだ。

 RISE with SAPが始めた時、S/4HANA Cloudの「デジタルコア」を中心とした製品とサービスのバンドルが含まれていた。S/4HANAに加えて、初期のRISE with SAPPには、「SAP Business Network」「SAP Business Technology Platform」の開発環境、「Signavio」のビジネスプロセストランスフォーメーション・プラットフォームへのアクセス、顧客が選択したパブリッククラウド・インフラストラクチャプロバイダーが含まれていた。これは、S/4HANAの導入と管理を簡素化することを目的とした、SAPによるSaaSのようなライセンス契約として提供されていた。

 SAPは、RISE with SAPを「ビジネストランスフォーメーション・アズ・ア・サービス」と呼んでいる。その目的は、クラウドベースのデジタルプラットフォームを提供し、企業がビジネスの仕組みを分析することでビジネスイノベーションを推進し、変化するビジネス要件や顧客の要求、市場環境により迅速に対応できるようにすることだ。例えば、企業はこのプロセスを利用して、製品中心のビジネスからサービス中心のビジネスへと移行できる。

 RISE with SAPは、状況の変化に応じて進化し、新しい機能やサービスを追加できるように設計されている。2021年後半にはSAPが特定の業界向けのRISE with SAPパッケージを発表している。このパッケージには、業界のベストプラクティスやビジネスプロセスインテリジェンスとアナリティクス、特定の業界のビジネストランスフォーメーションの取り組みを推進するために設計されたさまざまなサービスが含まれている。

 最初のRISE with SAP for Industriesパッケージは、自動車、消費財、産業機械および部品、小売、公益事業の5つの業界向けのものだった。

S/4HANA Cloudの効果

 SAPは、企業がS/4HANA Cloudを導入することで得られるメリットとして、「ROIの迅速化」「ビジネスの俊敏性の向上」「総所有コストの削減」「ガバナンスとコンプライアンスの改善」「効率性を向上させるよりインテリジェントなERP」の5つを挙げた。

 SAPは、「インテリジェントな次世代クラウドERPのS/4HANA Cloudによって、企業はデジタルな未来に向けて準備できるようになる」と主張している。S/4HANA Cloudはビジネスプロセスを統合し、リアルタイムデータをアクションに変換し、従業員の生産性を向上させられるため、企業は既存のビジネスプロセスを変革し、新しいビジネスプロセスを開発できるようになるという。

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