パナソニックコネクト、独自生成AIで年間18万6000時間を削減 同社ならではの工夫とは
パナソニックコネクトは2023年2月から業務で生成AI活用を進めてきた。社内リリースに至るまでの1年間の道筋を説明する。
パナソニック コネクトは生成AIによる業務生産性向上や従業員のAIスキルの向上などを目的に、2023年2月から「ChatGPT」をベースとした自社開発のAIアシスタントサービス「ConnectAI」の活用を進めている(国内全従業員約1万2400人を対象に展開)。同社は、ConnectAIの活用効果(2023年6月〜2024年5月の実績)と成果創出までの道筋を明かした。
ConnectAIで労働時間18万6000時間を削減
パナソニックコネクトは、ConnectAIによってどれだけの時間を削減できたかを従業員に尋ねたところ、1回当たり平均約20分の削減につながったことが確認できた。ユースケースについては、削減時間が短い活用ケースでは検索エンジン代わりとして、長い時間の削減につながった活用ケースでは戦略策定の基礎データの作成などが挙がった。
同社は生成AI活用の目標として「生産性向上」「AIスキル向上」「シャドーAIリスクの軽減」の3点を掲げ、それぞれの達成状況を調査した。
「業務生産性向上」では、1年間で18万6000時間の労働時間削減につながった。ConnectAIへの1年間のアクセス回数は139万6639回に上り、直近3カ月の利用回数は前年の同期間と比較して41%増加したという。
「従業員のAIスキル向上」では、検索エンジン代わりとして利用された他、戦略策定や商品企画などで1時間以上の生産性向上につながる利用が増え、ConnectAIへの質問は素材に関する質問や製造工程に関する質問などが多かったようだ。「シャドーAI利用リスクの軽減」に関しては、16カ月の間に情報漏えいや著作権侵害などの問題は発生しなかった。
熟練者のノウハウ依存を何とかしたい 生成AIをどう使ったか
ConnectAIの活用を広げるために、同社は独自の工夫を凝らした。
従業員がConnectAIに的確なプロンプトを入力できるよう、プロンプトエンジニアリングの観点に基づいてユーザーインタフェースをカスタマイズし、よくある日常業務15件のプロンプトサンプルをトップ画面に用意した。また、スピーディーに的確な回答を得るために、新たにプロンプト添削機能を追加した。
2023年9月に、公開情報(Webサイト、Webページ《約3700ページ》、ニュースリリース《495ページ》、対外向けのパナソニックコネクトWebページ《3200ページ》)を基に回答を出力する同社独自のAIサービスの試験運用を開始し、一定の精度で回答できることが確認できた。
この試験運用の結果を踏まえ、2024年4月には自社固有の社外秘情報である品質管理(630件、1万1743ページ)に関する質問に対しても回答できるAIの活用を開始した。品質管理規定や過去の事例を基に製品設計時の品質に関する質問が可能になった。回答結果の真偽を従業員自身が確認できるよう、回答の引用元を表示する機能を実装した。
製造業における品質管理の課題として、経験者のノウハウに依存するため情報が共有されにくいこと、事例の検索と精査や判断に膨大な時間を要することなどがある。これらを解決するために、社内の品質管理規定や過去に発生した品質問題をConnectAIで参照できるようにした。
ConnectAIはリリース後、従業員の日々の業務で活用され、サービスに対する従業員の評価は5点満点中3.5点だった。ConnectAIの活用によって、経験者でも判断が難しい設計段階での問題や部品に関する問題、製造方法や作業手順に関する問題について原因の特定を容易にし、手戻りの時間を減らせるようした。これによって人手不足を補い、より短い時間で精度の高いものづくりにつなげていきたいとの考えだ。
パナソニックコネクトが考える、今後の生成AI活用構想
生成AI活用において、パナソニックコネクトでは自社固有の質問や最新の公開情報に回答できないことや、回答の正確性を確保できないことなどが大きな課題だった。これを解決するために自社データと生成AIとの連携を進めてきたが、自社データの整備が非常に重要であることが分かった。AIが自然言語を扱う際に構造化したデータ「コーパス」を基に自社データの整備を進め、「パナソニック コネクトコーパス」を構築する考えだ。
今後は自社データの対象範囲を拡大し、品質管理に加えて、人事の研修サポートや社内ITサポート、カスタマーセンターなど、ConnectAIの活用範囲を広げる意向だという。人事領域では、従業員に適した研修を生成AIが提案する研修特化AIの導入を進めている。また「PowerPoint」や「Excel」、PDFなどの非構造化データに加え、業務システムなどに蓄積された構造化データも対象とすることで、より広い業務領域で数値に基づいた正確な回答が得られるようになり、生成AIの業務活用がさらに進むと考えている。データ整備が整った段階で、個人の職種や権限に応じて回答する個人特化AIの導入も検討しているという。
さらにパナソニックコネクトでは、将来的にはスウェーデンの哲学者であるニック・ボストロム氏が提唱するAIの3つの発展段階に沿って、今後AIはエージェント型への進化を遂げるだろうと考えている。
1つの問いかけに対して回答するAI(オラクル型)から、今後は目的を達成するために連続したタスクを他のシステムと連携するAI(ジーニー型)へと進化し、さらには長期的な目標に対する計画の策定やタスクの実行、最終確認まで、状況をみながら業務を遂行するAI(ソブリン型)が登場するとみている。これが実現すると、自律的にAIが業務をこなすオートノマスエンタープライズ(自律型の企業)が可能になると同社は考えている。
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