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インダストリー4.0の基本やメリット、課題、活用事例を徹底解説

インダストリー5.0が認知されつつあるが、そもそもほとんどの企業がインダストリー4.0を実現できていない。インダストリー4.0の基本と企業での応用事例を紹介する。

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 インダストリー4.0は、製造業がIT技術を取り入れ事業を改革することを指す。この名称は、工場やサプライチェーンのスマート化を実現するコネクテッドマニュファクチャリング(Connected Manufacturing)や、ドイツ政府の取り組み「Industrie 4.0」から着想を得ている。

 インダストリー4.0が進化したインダストリー5.0が認知されつつあるが、そもそもほとんどの企業がインダストリー4.0を実現できていない。インダストリー4.0の基本を歴史からひもとき、企業でどのような活用ができるのかを解説する。

インダストリー4.0を構成する技術、活用事例

 インダストリー4.0に分類されるシステムやツールは流動的だ。中には、ロボット工学やAI、IoT、オートメーションなどが含まれる。

 これらの技術は、製造業や工業生産ラインの設定を支援するために導入されることから、インダストリー4.0はスマートマニュファクチャリングとも呼ばれる。しかし、インダストリー4.0には、サプライチェーン管理や物流・倉庫管理、サイバーセキュリティなど、他の領域での使用事例もある。

インダストリー4.0の歴史と進化

 最初の産業革命は18世紀末に起こり、蒸気と水力によって機械化が実現された。蒸気機関車は、蒸気を活用した動力が輸送をどのように変革したかに関する良い例である。

 第2次産業革命は20世紀初頭に起こり、電気の出現によって組立ラインや大量生産、業務の分業が可能になった。第3次産業革命は1970年代の初めに起こり、コンピュータの使用とデジタル化によって機械と生産工程のさらなる自動化が可能になった。

 第4次産業革命は、第3次産業革命の延長線上にあるといえる。インダストリー3.0では製造工程にコンピュータが導入され、インダストリー4.0では、それらのコンピュータの相互接続に焦点を当てている。しかしインダストリー4.0は、工場間のシステムの通信を超えた機能を実現する。完全に適用されれば、スマート工場とデジタル製造業の実現が可能になる。

インダストリー4.0とIoT

 IoT技術はインダストリー4.0の重要な要素で、過去10年間のおける大きなトレンドでもある。IoTとは、従来のコンピューティングデバイス以外の機器をインターネットやプライベートネットワークに接続する機能だ。

 多くの場合、IoTはインターネットに接続されたサーモスタットや家電製品のようにスマート接続された消費者向け機器を指す。しかし、製造業者もこのコンセプトを採用し、工場やその他の産業施設に大量の接続型スマートセンサーを導入している。このようなセンサーの使用は「the industrial internet of things」(IIoT)と呼ばれる。

 IIoTはインダストリー4.0を実現する重要な要素で、一般的にはスマートマシンやサイバーフィジカルシステムなどの他の接続技術も使用する。これら全てのシステムが連携され、新たなレベルの自動化を実現する。

インダストリー4.0の応用分野

 インダストリー4.0は、製品開発から製品の処分に至る製造プロセスのあらゆるレベルに適用できる。これらのテクノロジーの具体的な使用例には以下がある。

重要機器の予知保全

 生産ラインやユーティリティーに使用される産業機器に統合されたIIoTセンサーは、パフォーマンスを監視し、メンテナンスや更新の必要性を示す異常を検出できる。

リアルタイムのデータ収集と分析

 IIoTデバイスは、AIや機械学習プラットフォームにリアルタイムでデータを送信し、そこでデータを分析して、潜在的な脅威や障害、効率改善の機会を特定する。大量のデータを分析し、自動化された意思決定に活用する機能を備えた工場は、スマート工場として知られている。

サプライチェーンの可視性

 サプライチェーン全体を通じて移動する商品の長距離追跡は、物理デバイスやデータ伝送、保存のためのクラウドコンピューティング、従業員に必要な情報を提供するソフトウェアダッシュボードによって実現できる。また、インダストリー4.0は製品製造に使用される原材料の調達を容易にする。

積層造形法とデジタル製造

 3Dプリンティングとしても知られる積層造形法は、プロトタイピングやカスタマイズ、その他の新製品製造を改善できる。作業員は必要に応じてデジタルで製品を修正し、詳細を追加できる。

在庫管理

 ML(機械学習)を含むAIは、製品購入に関するデータを取り込み、顧客が必要とする在庫を予測し、在庫管理を最適化する。これには遅延を軽減し、顧客体験が向上させる。

拡張現実

 拡張現実デバイスは、遠隔地から作業員にデータや指示を提供し、従業員が施設内のどこにいても作業を支援できる。また、現実世界のシナリオのシミュレーションを通じて、新入社員のトレーニングを強化する。

持続可能性

 インダストリー4.0の技術は、電力消費を調整し、機械から排出される汚染を削減する方法を特定し、持続可能なエネルギーを提供する物理的資産を監視するのに役立つ。

インダストリー4.0と持続可能性

 インダストリー4.0は、工場やプラントをより持続可能なものにする上で重要な役割を果たす。例えば、IIoTセンサーとそれらが動作するITネットワークは、特定の現場で使用される機械の電力消費を削減や、電力使用の監視にも役立つ。また、機械学習を含むAIのアルゴリズムは、特定の現場でのリソース使用に関するデータを分析し、業務効率を改善する機会を特定する。

 インダストリー4.0の技術は、従来の製造システムを監視するだけでなく、風力や太陽光、水力を活用した発電などの持続可能なエネルギー源を監視や取り組みを支援する。これらのシステムでは、分散型IoTデバイスが遠隔地に設置され、再生可能エネルギー源の予知保全やその他の問題に関する情報を提供するために使用される。収集したデータを使用してデバイスがメンテナンスを決定する場合もあれば、データを従業員に送信し、それに基づいて従業員が意思決定する場合もある。

インダストリー4.0を推進するテクノロジーとは何か

 インダストリー4.0を推進するのは、以下のような多様なテクノロジーの融合である。

  • IIoTとセンサーの使用
  • ビッグデータと予測分析
  • AIと機械学習
  • マシンツーマシンおよびIoTネットワーク向けの低電力広域ネットワーク
  • IT/OTの融合
  • タッチと音声のインタフェースおよび拡張現実システム
  • 高度なロボット工学
  • 3Dプリントと積層造形
  • クラウドコンピューティング

 本質的に、これらの新しいテクノロジーは、人間が機械と対話し、機械同士を通信させるために設計されている。これによって、より複雑な目標の達成が可能になる。また、これらのテクノロジーを活用してデータを生成・利用し、全ての製造プロセスを通知および最適化することで、設計から製品ライフサイクルの終了に至るまで、より相互接続されたプロセスを実現できる。

インダストリー4.0のメリット

 インダストリー4.0は、それを導入する組織に数多くのメリットをもたらす。以下に、代表的なメリットを挙げる。

プロセスの可視性の向上

 インダストリー4.0のコンセプトによって、OEMは顧客が製品をどのように使用しているか、どのように使用されることを想定しているかを把握できるようになる。

機械の監視強化

 センサーデータを利用することで、組織は製造プロセスをリアルタイムで監視できる。このデータをデジタルツイン(完全な効率で動作するシミュレーション)と比較することで、プロセスの改善点を特定できる。

高度なトレーニング

 インダストリー4.0は従業員のトレーニングにも応用されている。拡張現実を使ったトレーニングプログラムでは、従業員が作業現場に入る前に機械の操作方法や危険な作業の回避方法を学べる。によるこれトレーニングは、消火や応急処置などでも活用されている。

ダウンタイムの回避

 インダストリー4.0導入前、産業機械はメーカーの推奨に基づいて整備されていた。しかし、インダストリー4.0では、センサーを搭載した機械が工場の状態を継続的に監視し、問題が発生する前に予測して是正措置を講じられる。場合によっては、必要な交換部品を自動で注文することも可能だ。これによって製造プロセスの中断やコストのかかる停止を回避できる。

生産性の向上

 工場のデジタルテクノロジーは企業のデータシステムと連携され、製造プロセスに関連するビッグデータ分析できる。この高度な分析によって、組織は傾向を把握し、生産性と収益性を向上させるための洞察を得られる。

コストの削減

 インダストリー4.0は、機器の故障や過剰なリソースの使用などの問題を検出して防止することで、コスト削減を可能にする。

インダストリー4.0の課題

 インダストリー4.0テクノロジーの導入には複数の課題がある。以下に主な課題を挙げる。

コスト

 インダストリー4.0のソフトウェアや物理的資産の購入および実装にかかる初期コストは、特に中小企業にとって大きな負担となる可能性がある。

相互運用性

 インダストリー4.0を導入する初期段階では、異なるプロトコルを使用する機械やセンサー間の通信が困難だった。しかし、インダストリー4.0の普及とともに標準が確立されつつある。

セキュリティ

 従来の工場システムは、独自仕様で相互接続されたり、バックエンドのITシステムに接続されたりすることはまれだった。これらのシステムを作成したベンダーは、セキュリティを第一に考えることはほとんどなかった。しかし、デバイスとITリソースの接続によって、これらのシステムも従来のITデバイスと同様、サイバー攻撃にさらされる可能性がある。侵害されたITシステムは、工場のリソースに対する攻撃経路になる可能性がある。

構成の複雑さ

 ネットワークとデバイスの構成を誤ると、プロセスに障害が発生する可能性がある。正確な構成は複雑なプロセスで、熟練した従業員による処理が必要だ。

混乱

 サイバーセキュリティの脅威や機器の故障、自然災害など、さまざまな要因で混乱が発生する可能性がある。インダストリー4.0を構成する技術に脆弱(ぜいじゃく)性があるかもしれない。

インダストリー4.0の未来

 インダストリー4.0は、少しずつ進化している。多くの組織がこれらの技術を採用し始めているが、コストや価値の不確実性などの理由から、導入をためらう組織も多い。しかし、これらの技術の効率性と利点が明らかになるに従って、より多くの企業が採用するだろう。

 インダストリー4.0に関連する障害を克服するには、従業員がこれらのツールやシステムを適切に使用できるようにスキルアップが必要である。AIと機械学習の普及は、インダストリー4.0がビジネスモデルにどれほどの影響を与えるかを示す良い例だ。例えば、医療や小売、製造などの分野では、これまで大規模なデータセットの分析を担当していた労働者が機械学習アルゴリズムによって置き換えられる可能性がある。

 一部の専門家は、すでにインダストリー5.0について議論している。インダストリー5.0はデジタル変革や経済成長よりも、人間と機械が最も効果的に共存し、人間の幸福を実現することに重点を置いている。しかし、これはまだ遠い未来の話であり、現在はインダストリー4.0の初期段階にある。目標は、機械が自動化されたプロセスを処理することで、人々が製品の革新やサイバーセキュリティ、気候問題、持続可能性などの重要な課題に集中できるようにすることだ。このビジョンがいつ現実になるか、またどれだけの企業がそれを実現するかはまだ分からない。

 AIとIoTはインダストリー4.0エコシステムの重要な部分であり、この二つが連携して機能する可能性は無限だ。AIが既存のIoTシステムを強化する方法や、AIとIoTが連携する方法を探ることが、インダストリー4.0の成功に向けた鍵となるだろう。

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