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サプライチェーンでの生成AI活用が再評価されているワケ

サプライチェーンでの生成AIへの投資は盛んだという。企業が生成AIの活用に慎重になる原因や、サプライチェーンの課題を生成AIが解決する理由を解説する。

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 ある調査によると、サプライチェーンでの生成AIへの投資は盛んだという。サプライチェーンにおいて生成AIのような新しい技術の活用は優先事項だが、企業はプロジェクトに慎重に取り組んでいる。なぜ企業は生成AIの価値とリスクを再評価しているのだろうか。

 企業が生成AIの活用に慎重になる原因や、サプライチェーンの課題を生成AIが解決する理由を解説する。

サプライチェーンでの生成AI導入に慎重なワケ

 グローバルプロフェッショナルサービス企業であるEYの最新レポートによると、企業はサプライチェーンに生成AIを活用しようとしているが、他の項目が優先されるため生成AIに関するプロジェクトの大半は中断されている。このレポートは、EYと世界的な調査企業であるHFS Researchが2024年2〜3月に、世界中の460人のサプライチェーンリーダーを対象に実施した調査に基づいている。

 同調査によると、回答者の73%がサプライチェーンに生成AI技術を導入する計画を立てているが、導入したのはわずか7%で、62%は生成AIに関するリスクと期待されるROI(投資収益率)を判断するためにプロジェクトを再評価している。

 EYのグローバルサプライチェーン・アンド・オペレーションリーダーであり、本レポートの執筆者の一人であるグレン・スタインバーグ氏によると、サプライチェーンリーダーが生成AIプロジェクトを中断する要因となっている課題やリスクが存在するという。

 主な課題は5つある。生成AIアプリケーションに使用されるデータの品質およびガバナンスに関する懸念、変化する規制に関連する不確実性、プライバシーとサイバーセキュリティに関するリスク、ハードウェアとソフトウェアを統合する際の複雑性、生成AIを扱う担当者のスキル不足だ。

 スタインバーグ氏によると、かつてサプライチェーンは1対1の関係による直線的なモデルだった。現在は、複数の当事者間でネットワーク化されたエコシステムに移行しつつあるという。同時に、サプライチェーンはより自律的なものへと進化しており、活動の多くは人ではなくシステムによって処理されるようになっている。

 「自律的なサプライチェーンへの移行が進んでいる組織は、より効果的なデータ戦略を持っており、生成AIに関連するプロジェクトを成功させる確率が高い」(スタインバーグ氏)

 生成AIは比較的新しい技術だが、AIはサプライチェーンにおいて新しいものではない。EYの調査によると、回答者の90%は何らかの形で従来型のAIをサプライチェーンに活用していると答えた。

 EYのファイナンシャルサービスである「EMEIA」に携わるマシュー・バートン氏(サプライチェーンオペレーションリーダー)は「サプライチェーンにおける従来型のAIと生成AIの用途には大きな違いがある」と指摘する。

 バートン氏は「従来型のAIは、需要の感知や売上予測の作成、設備の故障や修理が必要になる時期の予測など、主に予測分析に重点を置いてきた」と述べている。

 「生成AIと大規模言語モデル(LLM)は、AI全般のサブセットとして登場した。そして唐突に、自然言語の文脈で質問ができ、膨大な量のデータを解釈し、処理するようになった。これは全く新しい分野を開拓することにほかならない」(バートン氏)

 バートン氏は「組織はリスクを懸念しており、意思決定に生成AIを活用する前に、データ基盤を正しく構築することが重要と認識している」と述べている。このため、組織はLLMを活用したテキスト生成に、外部情報を検索して得た情報を組み合わせることでAIの回答精度を高める「RAG」を使用している。

 「サプライチェーンのプランナーとして新しく入社し、サプライチェーン全体にわたる何百もの異なるレポートが存在する場合、それらを学ぶのに数カ月かかる。しかし、RAG AIを使えば、『最も成績の良い顧客は誰なのか』『先週サービスオプションが不足した理由は何で、どの商品が関わっているのか』といった質問をするだけで、自社のコアデータから全てのデータを引き出すことができる。これは、AIがデータを作り上げるのとは違う」(バートン氏)

 バートン氏は、次のように続けた。

 「幻覚やデータセットにおけるバイアスの可能性をはじめとして、生成AIのアウトプットに対する懸念は、サプライチェーンリーダーが生成AIの導入を中断している主な理由の一つだ。取締役会がリーダーシップに尋ねているのは、責任を確認できるAIのフレームワークがあるかどうかということだ。企業はAI活用のためにすべきことを把握している。AIに対応したデータを持つことが重要だ」(バートン氏)

コストへの懸念がサプライチェーンへの技術導入につながる

 また、別の調査によると、サプライチェーンの課題を解決するために先端技術を導入する企業が増えているという。

 調査企業であるNucleus ResearchとERPベンダーのEpicorが発表したレポート「2024 Agility Index」では、サプライチェーンにおけるコストの増大が組織の主要な懸念事項の一つであり、これに対処するために生成AIや機械学習、自動化、高度なロボット工学などの技術を導入していることが明らかになった。同調査は、世界中のさまざまな業界のサプライチェーンリーダー1700人を対象としたものだ。

 調査結果によると、全組織の58%、高成長組織の63%が、主にERPやサプライチェーンマネジメントのためのアプリケーションを通じて、サプライチェーンにおいて生成AIを活用している。サプライチェーンにおける生成AIの一般的なユースケースとしては、「顧客に対応するチャットbot」(72%)、「製品説明の生成」(67%)、「アプリケーション内のアシスタント」(63%)、「ナラティブおよび管理に関するレポート」(59%)、「自然言語クエリ」(53%)が挙げられる。

 「念頭に置くべきことは、生成AIイニシアチブの大部分が既存のソフトウェアに組み込まれているという点だ。多くの場合、それらはワークフローに非常に深く組み込まれており、ほとんど気付かれないか、組織内の生成AIイニシアチブとして認識されないことが多いだろう」(ハムウェイ氏)

 既存のアプリケーションに追加された生成AIチャットbotの使用は、独自の生成AIアプリケーションを構築する組織とは異なる、とハムウェイ氏は指摘する。「多くの組織は独自のアプリケーション構築を一時停止しているかもしれないが、組織内に存在する生成AIは確実に増加している」と彼は述べる。

 ハムウェイ氏は、生成AIの利用増加は、サプライチェーンにおける従来の機械学習ベースのAI利用とは異なる問題と説明する。

 「従来の機械学習はビジネスアプリケーションのワークフローに深く組み込まれており、多くの人がその存在に気付いていない。あらゆる種類の予測は通常、機械学習モデルによるものであり、特にサプライチェーンにおいてはそれが当てはまる。例えば、サプライチェーンの計画は通常、機械学習アルゴリズムで解決される最適化の問題だ」(ハムウェイ氏)

サプライチェーン技術が課題を解決する

 サプライチェーンネットワークおよび電子データ交換プロバイダーであるTrueCommerceが北米のサプライチェーンリーダー150人を対象に実施した調査によると、企業はさまざまなサプライチェーンの課題に直面し、より効率的かつ正確で柔軟な新しいテクノロジーを導入していることが明らかになっている。

 回答者の大多数(95%)は、2024年にサプライチェーンに何らかの困難が生じると予想している。インフレによる圧力や労働力不足、サイバーセキュリティの脅威による注文価格の変化が、最大の課題とされている。

 TrueCommerceのライアン・ティアニー氏(製品管理担当シニアバイスプレジデント)によると、注文処理の課題に対処するには組織の効率性を高め、顧客体験を向上させ、製品の納期順守率を向上させるテクノロジーの導入が重要だという。

 「企業は市場内での商品の販売方法や購入方法に適応し続ける必要がある。従来のB2Bや実店舗から、B2Cや消費者直結型への移行が進んでいる」(ティアニー氏)

 報告書によれば、サプライチェーンの最大の課題は在庫の正確性と可視性であり、特に食品や飲料業界では製品の追跡やトレーサビリティーに関する規制が厳しくなっている。企業は自社製品の所在と出荷時期を把握する必要があり、これが大きな問題になっている。

 「商品があると伝えても実際にはない場合、顧客体験は悪化し、リピーターは生まれない」とティアニー氏は述べる。

 企業は、マルチチャネルフルフィルメントやサプライチェーンの可視性などの問題を支援するため、サプライチェーンテクノロジーを導入しているという。

 報告書によれば、サプライチェーンリーダーはサプライチェーンシステムのアップグレードに意欲的であり、回答者の70%が「2024年、サプライチェーンソフトウェアへの支出を2023年より増やす予定」としている。また、91%がサプライチェーンプロセスを支えるERPへの投資を計画しており、その70%が2024年、21%が2027年までに投資を予定している。

 ティアニー氏は、この投資の大部分がオンプレミスのERPからクラウドのERPへの移行によって推進されていると述べている。

 「クラウドERPの導入は引き続き進んでいる。企業は市場の期待の変化に対応し続ける必要があり、そのために投資を怠ってはならない」(ティアニー氏)

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