在庫管理の基本を徹底解説 メリットと課題、在庫管理のプロセスも紹介

効果的な在庫管理によって、企業は入荷量と出荷量のバランスを取ることができる。在庫管理に関連するメリットと課題を紹介する。

[Cameron Hashemi-Pour,Sarah Amsler,Jim O'Donnell，TechTarget]

　在庫管理は、サプライチェーン管理の一部であり、非資本化資産や在庫品目の追跡および監督を指す。在庫管理システムは、製造業者から倉庫、倉庫から販売地点（POS）への製品の流れを管理する。これらのシステムの主な機能の一つは、倉庫やPOSに出入りする新製品や返品製品に関する詳細な記録を保持することだ。

在庫管理は企業のビジネスに役立つ

　中小企業から大企業に至るまで、組織は在庫管理を活用して製品の流れや在庫回転率を追跡できる。さまざまな在庫管理手法があり、企業が適切な場所に適切な量の正しい製品をタイムリーに届けることを可能にしている。

　在庫コントロールは、在庫管理とは別の分野だ。在庫コントロールは、在庫に関連する総コストを最小化する一方で、顧客に製品をタイムリーに提供する能力を最大化することに重点を置いている。一部の国では、この2つの用語は同じ意味で使用されている。

なぜ在庫管理が重要なのか

　効果的な在庫管理によって、企業は入荷量と出荷量のバランスをとれる。企業が在庫をより適切に管理できると、それだけ事業運営のコストを削減できる。

　企業が在庫を抱え過ぎると、過剰在庫と呼ばれる状態になる。過剰在庫の状態にあるビジネスは、在庫に資金を拘束され、キャッシュフローが制限され、保有コストが増加し、予算不足を引き起こす可能性がある。この過剰在庫はデッドストックとも呼ばれ、しばしば販売できずに倉庫に置かれ、ビジネスの利益率を圧迫する。

　しかし、ビジネスに十分な在庫がない場合、欠品が生じ、顧客サービスに悪影響を及ぼす可能性がある。在庫不足は注文への対応の遅れを引き起こし、売上の損失につながる。「製品の在庫がないので取り寄せます」と告げられると、顧客は他の場所で購入しようとする傾向がある。

　在庫管理システムは、最適な効率性と収益性を実現するために、過剰在庫と在庫不足のバランスを取るのに役立つ。

在庫管理の主な利点

　在庫管理の主なメリットは以下の通りだ。

コストの削減

　在庫管理システムやプロセス、ソフトウェアの導入には初期費用がかかる。しかし、適切な量の在庫の保有と効率的な保管につながる。長期的に見ると、これらのメリットが導入コストを上回る可能性が高い。

将来のトレンドの洞察

　在庫管理システムは、売上を分析し、将来のトレンドや顧客ニーズを予測するためのツールを組織に提供する。

顧客満足度

　在庫や輸送、配送の追跡が在庫管理システムの機能として提供され、迅速な取引と顧客体験の向上につながる。

保管の最適化

　注文管理は在庫を追跡し、腐敗や陳腐化、在庫不足の危険性がある製品を特定するための重要な機能だ。

リアルタイムの在庫数の把握

　無線周波数識別タグやIoTデバイスを活用した高度な追跡機能を備えた在庫管理ソフトウェアは、サプライチェーンやロジスティクスを担当するマネジャーに輸送中の製品に関するリアルタイムのデータを提供できる。

サプライチェーン上の関係

　組織はサプライヤーや出荷業者との関係を構築することで、在庫管理を円滑にできる。

在庫管理の主な課題

　在庫管理システムには、次のような潜在的な課題がある。

短期的な導入コスト

　これらのシステムには、初期投資と立ち上げコストが伴う。これらは、中小企業にとって負担になる場合がある。

データエラー

　従来の在庫管理ソフトウェアでは、手作業によるデータ収集と入力が一般的であり、ミスや不整合が発生する可能性がある。

統合の複雑さ

　在庫管理プラットフォームは、販売や顧客関係管理などの他のシステムと連携してデータを収集する。これには複雑な設定が伴うことが多く、高度な専門知識が必要となる。

大量の在庫と保管場所

　倉庫やその他の保管場所の規模が大きいと、あるタイミングで必要な製品を探し出したり、利用可能な製品を把握したりすることが難しい。

トレーニングとユーザーの採用

　高度な在庫管理システムを使用するために必要な複数のタスクに関して従業員を訓練することは難しく、新しいシステムを学ぶことに抵抗する人もいる。

在庫管理プロセス

　在庫管理は、特に大規模な組織にとっては複雑なプロセスだ。しかし、組織の種類や規模にかかわらず、その手順は基本的に同じだ。

1．配送

　このプロセスは、通常は原材料や部品などの製品が倉庫の受け取りエリアに納品されることから始まる。卸売業者であれば、納品されるのは完成品だ。

2．保管

　納品された原材料や部品、完成品は倉庫に保管される。通常、大企業は原材料や部品の在庫を保管するための物理的なスペースを持っている。小規模の企業は受入場所を持たず、製品は倉庫に直接送られる。

3生産

　入荷し保管された原材料は、必要に応じて在庫エリアから引き出され、生産施設に移動し、そこで完成品として仕上げられる。

4．再入荷

　完成品は、出荷前に保管エリアに戻されるか、顧客に直接出荷される。在庫管理は、製品がプロセスを通じて移動する際にロット番号やシリアル番号、製品のコスト、製品の数量、移動する日付などのさまざまなデータを使用して追跡する。

在庫管理システム

　初期の在庫管理システムは、倉庫内の商品の数量を追跡する単純なスプレッドシートだった。現在は、複数の階層にまたがり、会計システムやERPと統合された、より複雑なシステムになっている。

　これらのシステムは、場合によっては複数の倉庫にまたがる在庫品を追跡する。在庫管理ソフトウェアは、コスト計算（多くの場合複数の通貨で計算）などのさまざまな機能に使用されるため、組織は常に商品の価値を正確に評価し、原材料や製品の数量を追跡できる。これらのシステムは、購買や販売、会計、生産システムなど、企業全体の他の複数のシステムと統合し、そこから在庫データを取得する。

　一部の在庫管理システムは、大企業の在庫追跡を効率化するように設計されており、組織が使用する在庫の要件と種類に合わせてカスタマイズ可能だ。大規模システムは従来、オンプレミスで実行されていたが、現在はパブリッククラウドやプライベートクラウド、ハイブリッドクラウドにも導入されている。中小企業では、このような複雑でコストのかかるシステムは必要とされないことが多い。多くの場合、スタンドアロンの在庫管理製品に依存しており、通常はSaaSとして利用できる。

在庫管理技術

　適切な在庫管理は顧客の需要を満たし、収益性の高い運営をするために適切な量の製品を在庫しておくための幾つかの方法で実現できる。このタスクは、組織が複数の倉庫にまたがる何千もの在庫管理単位を扱わなければならない場合に特に複雑になる。

　在庫管理方法には以下のものがある。

在庫確認

　これは最もシンプルな在庫管理方法で、一般的には小規模な企業に適している。在庫確認では、手持ちの在庫と将来の予測されるニーズを定期的に分析する。多くの場合、手動でデータを入力する必要があるが、これらのシステムは自動化可能だ。

　正確な在庫確認アプローチには最小在庫レベルを定義することが必要であり、定期的な検査で在庫が最小レベルを下回っているか、下回りそうかどうかを判断し、最小レベルを満たすように在庫を再注文する。在庫確認は、在庫管理プロセスをある程度制御できるが、手間がかかりエラーが発生しやすい。

ジャストインタイム（JIT）

　顧客が完成品を注文すると、原材料または部品が到着する。この方法は、顧客行動の分析や購入パターンの調査、季節的な需要と場所に基づく要因の特定に基づいて、特定の時期と場所で必要な商品を正確に把握する。JITの利点は、大量の製品や原材料、部品を手元に置いておく必要がなく、顧客の需要がほぼリアルタイムで満たされることだ。ただし、市場の需要を読み間違えたり、サプライヤーとの流通問題が発生したりすると、在庫切れの問題が発生することがある。

ABC分析

　このアプローチでは、商品の在庫価値と数量を表す3つのカテゴリーに在庫を分類する。カテゴリーAは高価値で数量の少ない商品、カテゴリーBは中価値で数量の少ない商品、カテゴリーCは低価値で数量の多い商品を表す。在庫管理システムは各カテゴリーを個別に管理する。

　ABC分析では十分なバッファー在庫を手元に保持するために、どのアイテムがベストセラーかを把握することが重要だ。例えば、より高価なカテゴリーAのアイテムは販売に時間がかかるかもしれないが、大量に保管する必要はない。ABC分析の利点の一つは、高価値の商品をより適切に管理できることだ。欠点は、全てのカテゴリーの在庫レベルを継続的に分析するためにかなりのリソースが必要になる可能性があることだ。

経済的発注量（EOQ）

　EOQは倉庫管理システムで在庫を再発注する最適なタイミングを決定する計算式だ。EOQ方式の目的は、任意の時点で発注する製品の最大数を特定することだ。これにより、過剰在庫に縛られていた資金が解放され、コストが最小限に抑えられる。

最小注文数量（MOQ）

　サプライヤーが販売できる製品の最小数量が決定される。企業が最小数量を購入できない場合、サプライヤーは企業に製品を販売しない。MOQ方式はサプライヤーにとって有利で、在庫を迅速に処分できると同時にバーゲン品を狙う顧客を排除できる。

先入れ先出し（FIFO）

　在庫を新鮮に保つために、最も古い在庫から先に販売する。FIFOは、特定の期間内に販売しないと腐ってしまう生鮮食品を扱う企業にとって特に重要な方法だ。また、企業が販売する前に商品の鮮度が落ちるのを防ぐ。これは通常、古い商品を棚の前方に置き、新しい商品を後方に移動することを意味する。

後入先出法（LIFO）

　通常、最新の在庫が最初に売れたと記録される。インフレが問題で価格が上昇しているときには、LIFOは効果的な方法だ。最新の在庫は生産コストが最も高いため、古い在庫より先に販売すると利益が減り、課税所得も減る。また、LIFOでは、棚に残っている古い製品のコストが低い分が在庫として報告される。ただし、古い品物が放置されると、鮮度がおちたり腐ったりする可能性があるため、この手法を実践するのは困難だ。

安全在庫

　企業は緊急事態に備えて在庫を確保する。安全在庫アプローチは、安全在庫に手をつける前に商品を再注文するタイミングを知らせるシグナルも提供する。サプライチェーンの混乱を引き起こすイベントに備えて、企業が倉庫管理戦略に安全在庫を組み込むことはよい考えだ。

在庫管理の問題を示す危険信号

　組織が次のような問題に直面している場合、在庫管理戦略を再評価し、必要に応じて改善を検討すべきだ。

頻繁に在庫数量が間違っている

　在庫過剰や在庫不足が時折の不都合ではなく、定期的に発生するようになった場合、それは何かが間違っているという確かな兆候だ。

古いデータ

　リアルタイムデータに基づいていない在庫システムは静的であり、すぐに古くなる。IoTやAIなどのテクノロジーにより、リアルタイムのデータ収集と分析が可能になっている。

標準以下の注文履行率

　注文履行率などの指標を確立し、分析することは、組織の在庫管理プロセスにおいて重要な要素だ。これらの指標が設定されたしきい値を下回った場合、在庫管理戦略を再検討する必要がある。

頻繁な中断

　組織の在庫管理プロセスが、機器の故障などの倉庫やサプライチェーンの中断から迅速に回復できない場合、システムを再評価すべきだ。

在庫管理と在庫制御

　在庫管理と在庫制御は、直接販売やチャネル運営の成功に不可欠だ。在庫管理は、十分な在庫を確保するための総合的な戦略を指し、在庫制御は既存の在庫を追跡や管理するために使用されるプロセスやツールを含む。企業は両方を併用することで、さらなるメリットが得られる場合がある。

在庫管理

　適切な在庫管理は、企業が常に適切な量の在庫を適切なタイミングで適切な場所に確保するための戦略だ。在庫管理ツールを用いることで、企業は以下のことが可能となる。

• 安全在庫の計算
• 再注文ポイントの計算
• 需要計画と需要予測
• 廃止アイテムの識別
• 倉庫レイアウトの最適化
• 充填率の特定

在庫制御

　在庫制御は、企業がすでに保有している在庫を管理するプロセスであり、ERPのトランザクションレイヤーで機能する。これにより、企業は以下を実行できる。

• 在庫の受領
• 支店間の振替
• 領収書の処理
• 在庫の梱包と発送
• 顧客請求書の処理
• サプライヤーの注文書の処理

在庫管理の例

　さまざまな業界で在庫管理の例が見られる。

小売業

　おもちゃを販売する小売チェーンは、倉庫やフルフィルメントセンター、実店舗でおもちゃの在庫レベルを定期的に監視する必要がある。従業員は在庫や生産、顧客注文、出荷、販売データを追跡するソフトウェアプラットフォームを使い、将来の傾向を予測する。

製造業

　新車モデルの製造に必要な原材料の調達は、製造工場での在庫管理の最初のステップだ。次のステップは原材料の使用量を追跡することだ。最終的に、在庫管理システムは、消費者の需要を満たすために適切な数の自動車を生産するのを支援する。

物流

　運送会社は、在庫管理追跡ソフトウェアと船荷証券を使用し、商品が確実に販売業者や購入者に輸送されるように管理する。ブロックチェーンは、取引チェーンを作成し、商品の流れを記録するために使用される。これらのツールにより、一般的な商品配送の各マイルストーン（完成品が倉庫を出てから最終的に購入者に届くまで）を容易に追跡できる。

在庫管理の未来

　業界の専門家は、今後次のようなトレンドが生まれると予測している。

自動化の進展

　機械学習を含むAI、IoT、産業用IoT、ブロックチェーンなどのインダストリー4.0テクノロジーが、顧客データの分析や予測において在庫管理で広く使用されるようになる。これにより、自動化が進み、企業はエラーが発生しやすい手動データ入力から解放される。

コスト削減

　AIと機械学習の普及に伴い、これらの技術を利用するためのコストは今後低下すると予想される。これにより、中小企業でも高度な在庫管理機能を利用できるようになるだろう。

高度なAI機能

　小売業や製造業の競争が激化する中、AIによって可能になる高度な機能、例えば需要感知が普及するだろう。AI搭載の在庫管理プラットフォームは、過去の購入データや経済指標を分析し、需要が高まる商品やサービスを予測し、在庫戦略を導ける。

持続可能性の強化

　在庫管理プラットフォームは、持続可能性の取り組みを最適化するために使われており、運営の効率化やリサイクル、廃棄物削減に寄与するだろう。