IT系BPOサービス導入ガイド データを基に経営者を説得する方法も解説:中小企業のためのアウトソーシング活用術【第3回】
「導入したいが何から始めればいいのか分からない」といわれるIT系BPOサービス。そんな声に応えて、導入準備から選定基準、経営者説得のノウハウまで、実践的なポイントを解説する。
中小企業のためのアウトソーシング活用術
情報システム部門の業務量は年々増加し、次々と新しい課題が生まれる一方で、人員は限られたままだ。そんな状況を打開する一つの選択肢として注目されている「アウトソーシング」の活用術を紹介する。
IT系BPOサービスの導入を検討する企業が増えている。しかし、「まずは何から始めればいいのか分からない」「どの業務を委託すべきか判断がつかない」という声もある。
そこで今回は、IT系BPOサービスの導入を成功させるために必要な準備について、具体的なステップに分けて解説する。前回までの記事で「導入企業の8割が満足している」という結果を紹介したが、その高い満足度の背景には入念な準備があったはずだ。
IT系BPO導入に向けた4つの準備ステップ
IT系BPOサービスを導入して成果を上げるにはどのようなステップを踏むべきか。IT系BPOサービス「IT with」を展開するPSソリューションズの三菅淳平氏に解説してもらった。
Step1.アウトソース可能な業務を特定する
まずはアウトソースできそうな業務を洗い出す。業務の定型性やセキュリティリスク、自社特有の業務知識(システム運用ルールや社内の意思決定プロセスなど)といった要素が評価の視点となる。特に定型業務は手順が明確なため、外部委託しても品質を維持しやすく、アウトソースの候補となる。一方、社内独自のシステムや運用ルールの理解が必要な業務は、外部委託の難易度が上がる。
なお、「どの業務を委託すべきか判断がつかない」という場合は、多くの事業者が無料相談を受け付けているため、気になる課題について相談してみるのもいいだろう。
Step2.複数の事業者に相談する
次は委託先の選定だ。1社との打ち合わせは2〜3回程度を想定しておこう。初回の相談では漠然とした内容になりがちだが、回を重ねるうちに具体的な方向性が見えてくる。複数の事業者に相談することで、自社に最適なサービスを比較検討できる。
Step3.委託先を決定する
相談を重ねた結果を基に、委託先を決定する。中小企業の場合、特に重視したいのが柔軟性とセキュリティだ。急な依頼への対応力やサービス内容のカスタマイズ性が高い事業者がおすすめだ。委託先のセキュリティ対策や情報管理体制も、しっかりと確認する必要がある。
契約内容の確認も慎重に実施したい。多くの事業者は「最短3カ月から」など契約期間を設定している。解約条件なども事前に確認する必要がある。
Step4.効果測定と改善
サービス利用開始後、「ああ楽になった。よかった」で終わらせるのはもったいない。3カ月程度経過したら効果測定をしよう。業務時間がどれくらい削減されたか、社内ITサービスの品質は向上しているか、当初の課題は解決できているかなど、具体的な数値や事例を基に評価する。
その結果、課題が見つかったら委託先に改善を依頼する。恐らく事業者の多くは、単に業務代行を担うだけではなく、継続的な改善に向けて伴走してくれるはずだ。課題があれば率直に相談する姿勢が大切だ。
将来を見据えた委託先の選定がカギ
サービスの導入検討段階で注意すべきポイントの一つが、将来的な拡張性だ。事業者によって対応できる業務領域は大きく異なる。現時点で必要な業務だけでなく、将来的にアウトソースしたい業務まで見据えて、委託先を選定することが重要だ。
例えば、現在はヘルプデスク業務だけをアウトソースする予定でも、将来的にセキュリティ対策や保守運用まで委託したいと考えているのであれば、それらの業務にも対応できる事業者を選ぶべきだ。新たな業務を依頼する際に「その領域は対応できません」と断られてしまうと、別の事業者を探さなければならなくなる。
複数の業務を1社にまとめて依頼できれば、管理工数の削減にもつながる。コスト面でも、より有利な条件を引き出せる可能性がある。
特に成長途上の企業の場合、急激な成長によってシステムの拡張も必要になることもある。大規模システムにも対応できる実績やノウハウを持った事業者を選んでおけば、そうした状況になったときにも安心だ。
IT系BPOサービスは、一度導入するとリプレースしにくいサービスだ。別の事業者への移行には、システムの設定変更や運用方法の見直しなど、多くの作業が必要になる。だからこそ現在の課題解決だけでなく、将来的なニーズまで見据えた選定が必要になる。
経営者を説得するには? データを活用した提案術
情報システム担当者としてIT系BPOサービスを導入したいが、経営者からは「今のままで特に問題ないのでは?」といわれてしまう。このような状況に直面している方は多い。では、どのように経営者を説得すればよいのか。
経営者に提案する際、最も重要なのは「費用対効果」と「リスク対策の必要性」の2点だ。特に中小企業では、情報システム部門への投資は後回しにされがちだ。そのため、具体的なデータを示しながら、導入の必要性を説明することが重要になる。
「IT系BPOサービスを導入した場合、情報システム担当者が80時間かけていたアカウント棚卸し、ヘルプデスク、キッティング、マニュアル作成といった業務を、約8時間にまで削減が期待できます。この72時間の削減分を、より戦略的な業務に振り向けることが可能となります」(三菅氏)
このように具体的な数字で効果を示すことで、経営者の理解を得やすくなる。サービスの提供事業者に相談する際、「自社がITを導入した場合のコストメリット」を具体的な数字で算出してもらえないか相談するといいだろう。その資料を経営者への説得材料として活用できる。
もう一つ、経営者を説得する際の重要なポイントが「リスク対策の必要性」だ。特にセキュリティ対策については、現状のリスクを具体的に示すことが効果的だ。例えば以下のような状況は、早急な対応が必要なケースといえる。
- 重要な顧客情報に、業務に関係のない従業員がアクセスできる状態
- 退職者のアカウントが適切に無効化されておらず、外部からのアクセスが可能な状態
- 社内文書が、クラウドストレージで適切なアクセス制限なく保存されている状態
- デバイスのセキュリティ対策が不十分
これらの課題には、情報システム担当者が対応しようと思えばできる。しかし、中小企業では総務担当者が情報システム業務を兼任しているケースも多く、時間の確保が難しい。IT系BPOサービスを活用することで適切な管理ができるようになり、セキュリティレベルを向上させられる。
経営者からの懸念にどう答えるか
導入を検討している経営者から当社によく寄せられる質問としては、「ヘルプデスクはどこまでの質問に対応できるのか」「具体的に何を任せられるのか」といったものがある。これらの質問に対しては、サービス導入前に具体的な対応範囲を確認することが重要だ。
「例えば当社のIT withでは、PCのキッティングやIT資産管理といった基本的なIT業務代行に加え、ヘルプデスク機能も提供しています。ヘルプデスクではAIチャットによる一次対応と、専門スタッフによる二次対応を組み合わせることで、従業員からのIT関連の問い合わせに幅広く対応できる体制を整えています。ただし、サービスを利用する企業特有の業務やシステムに関する問い合わせについては、事前に対応範囲を明確にしておく必要があります」(三菅氏)
経営者への提案の際は、具体例を交えて導入効果を示し、懸念点の解消法を説明することで、サービス導入の必要性を理解してもらいやすくなる。特に業務効率化によるコスト削減効果は大きなアピール材料だ。
AI時代における情シスの役割
情報システム部門の役割は、大きな転換点を迎えている。キーマンズネットの調査結果でも、IT系BPOサービス導入の主要なメリットとして「従業員がコア業務に集中できる」が筆頭に挙げられていた。DX推進や戦略的なIT活用の実現に向けて、IT人材の適正配置はかつてない重要性を持つようになっている。
これまでの情報システム担当者は、キッティングや保守運用など、発生したタスクへの対応が主な業務だった。しかし、ITが企業経営において必要不可欠となった現在、より戦略的な役割が求められている。
特にAI時代においては、情報システム部門の重要性は増している。AIは誰でも利用できるからこそ、いち早く業務に組み込み、効果的な活用方法を見いだしていく必要がある。
「情報システム担当者に求められるのは、会社全体を見渡し、テクノロジーを活用して経営にインパクトを与えることだと私は思います。この役割を果たすことで、情報システム部門は企業の成長をけん引する存在となれるはずです」と三菅氏は力を込める。
情報システム部門の業務はますます増加する一方で、労働人口は減少していく。特に地方企業にとって、高い専門性を持つIT人材の確保は容易ではない。限られた人材でより高い価値を生み出すための解決策として、IT系BPOサービスの活用を検討してみてはいかがだろうか。
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